白狼 白起伝

松井暁彦

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銀の誓い

 四

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 正殿へ赴いた。門扉を守る衛兵が、魏冄の姿を認めて荘厳な門を開いた。
 深紅の毛氈もうせんきざはしへと繋がる。階の先の視える玉座。
 
 白起は眼を眇めた。本来其処にいるべき者の姿を探して。だが、其処に探し求める者の姿はない。蓋世がいせいの英雄王はもう居ない。
 
 代わりに玉座に座していたのは王衣を纏い、冕冠べんかんを被った白皙はくせきの少年。肘掛けに悠々と凭れ、恰好ばかりは威風堂々と見せようとしているのかもしれない。
 
 白起には分かる。所詮は虚仮こけおどしだ。幾ら豪奢に装束に身を包み、玉座に座した所で、少年の器量など容易く測ることができる。
 
 薄弱。そして矮小。玉座との距離はある。それでも白起の五感は獣に近い。視覚は明瞭に、少年の尖った相貌を捉えている。
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