楽毅 大鵬伝

松井暁彦

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空を求めて

 十六

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 燕の使者としての節を受け取った。無論、使者は口実で、蘇代の言葉通り、燕王が王として相応しい器を具えているのなら、燕に留まるつもりでいる。
 
 だが、内心期待はしていなかった。名君というものを未だ知らない。公子董。平原君ともに、良き為政者の器を具えていたが、あくまで立場としては公子に過ぎない。期待などしない方がいい。その方が心の負荷は少なくても済む。

「さぁ。行こうか。楽毅」
 館の門を出ると、二駟にし(四頭立ての馬車が二台)を従えた、蘇代が待っていた。

「信じていいんだな」
 真っ直ぐに、蘇代を見据える。何時しか、二人の口調は砕けたものになっていた。

「ああ。お前と燕王を引き合わせる。其れが私の天命なのだ」

「天命ね。舌先三寸の説客を、心根から俺は信じた訳ではない」

「疑り深いのは結構。燕王に会えば、全てが分かる」
 蘇代は赤心せきしん披瀝ひれきする風を装っている。しかし、諸国を巡り、利を解く、説客は一様に胡散臭いものだ。彼の中に渦巻く、真偽の那辺を、楽毅は捉えることが出来ないでいる。
 
 含みのある笑みを薙ぎ、蘇代は馬車に颯爽と乗り込んだ。
 
 門前に集まった、四人の仲間達。
 司馬炎、魏竜、張順、春櫂。銘々に楽毅の方を、真剣な眼差しで見つめ、頷いて見せた。

「行こう」
 楽毅は騎乗する。手を伸ばし、春櫂を鞍上に引き上げた。


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