楽毅 大鵬伝

松井暁彦

文字の大きさ
上 下
42 / 140
空を求めて

 一

しおりを挟む
 楽毅がくき一行は魏の都である、りょうへと向かった。
 
 魏は趙・韓と共に、晋を三分して独立した国である。
 かつて魏は、三晋で一の国力を有していたが、斉との大戦、馬陵ばりょうの戦いで敗れ、大きく国力を低下させた。
 
 また、魏に仕えていた法家商鞅しょうほうを秦へ出奔させてしまったことから、魏は隣接する、秦に遅れをとることになる。魏を見限り、秦に出奔した商鞅は、法律を整え、法治国家としての礎を秦に齎した。
 
 これ以降、西の秦を野蛮人の国と見下していた、魏は悉く秦に領土を奪い取られ、今では戦々恐々と、秦王の顔色を窺っている。
 
 楽毅の先祖である、楽羊がくようが魏に仕えた頃は、隆盛の真っ只中にあった。
 晋の氏族に過ぎなかった魏氏が、晋を伐ち、覇国へと押し上げた、文候の御代で、青史せいしに名を連ねる、政治家、李悝りかい西門豹せいもんひょう、軍人呉起ごきを始めとした、多士済々の青雲せいうんの士が魏には揃っていた。
 
 楽毅は魏地に立ち、血と魂に刻まれた、記憶に追憶の手を伸ばす。だが、梁を吹き抜ける風を満身で受けても、父祖の記憶は何も語りかけてはこない。

「どうだ。魏竜ぎりゅう
 梁の城郭を前にして、馬を並べる、魏竜に問う。楽毅同様に、魏竜にとっても、魏地は、父祖伝来の地なのである。
 
 魏竜は首を竦め、微苦笑を浮かべる。

(まぁ、無理もない。父祖が魏を離れ、百年は経っているのだから)
 期待がなかった訳ではない。己の血が、魏の風土を踏み、浴びて、滾るのではないかと。
 
 見上げる梁の城壁は、何処か薄ら寂れている感が漂っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

本所深川幕末事件帖ー異国もあやかしもなんでもござれ!ー

鋼雅 暁
歴史・時代
異国の気配が少しずつ忍び寄る 江戸の町に、一風変わった二人組があった。 一人は、本所深川一帯を取り仕切っているやくざ「衣笠組」の親分・太一郎。酒と甘味が大好物な、縦にも横にも大きいお人よし。 そしてもう一人は、貧乏御家人の次男坊・佐々木英次郎。 精悍な顔立ちで好奇心旺盛な剣術遣いである。 太一郎が佐々木家に持ち込んだ事件に英次郎が巻き込まれたり、英次郎が太一郎を巻き込んだり、二人の日常はそれなりに忙しい。 剣術、人情、あやかし、異国、そしてちょっと美味しい連作短編集です。 ※話タイトルが『異国の風』『甘味の鬼』『動く屍』は過去に同人誌『日本史C』『日本史D(伝奇)』『日本史Z(ゾンビ)』に収録(現在は頒布終了)されたものを改題・大幅加筆修正しています。 ※他サイトにも掲載中です。 ※予約投稿です

忍者の子

なにわしぶ子
歴史・時代
時は戦国時代、戦乱の舞台の裏側には全て忍者達の活躍があった。そんな逆説的戦国ストーリー

不思議な巡り合わせ

kitty369
歴史・時代
龍神と巫女の純愛を描いた話です。 人間で巫女という家系により親しい友人もおらず日々を質素に暮らしている 巫女と、 その村の湖畔に傷を癒しにきた龍神との出会いを書いています。 #ツインレイ #魂の片割れ #龍神 #巫女 子うさぎジェットコースターロマンスは、この話の外伝シリーズですので、もし宜しければそちらもどうぞ(〃ω〃) 前後で話がわかりやすくなるかと思います

生克五霊獣

鞍馬 榊音(くらま しおん)
歴史・時代
時は戦国時代。 人里離れた山奥に、忘れ去られた里があった。 闇に忍ぶその里の住人は、後に闇忍と呼ばれることになる。 忍と呼ばれるが、忍者に有らず。 不思議な術を使い、独自の文明を守り抜く里に災いが訪れる。 ※現代風表現使用、和風ファンタジー。

第二艦隊転進ス       進路目標ハ未来

みにみ
歴史・時代
太平洋戦争末期 世界最大の46㎝という巨砲を 搭載する戦艦  大和を旗艦とする大日本帝国海軍第二艦隊 戦艦、榛名、伊勢、日向 空母天城、葛城、重巡利根、青葉、軽巡矢矧 駆逐艦涼月、冬月、花月、雪風、響、磯風、浜風、初霜、霞、朝霜、響は 日向灘沖を航行していた そこで米潜水艦の魚雷攻撃を受け 大和や葛城が被雷 伊藤長官はGFに無断で 作戦の中止を命令し、反転佐世保へと向かう 途中、米軍の新型兵器らしき爆弾を葛城が被弾したりなどもするが 無事に佐世保に到着 しかし、そこにあったのは……… ぜひ、伊藤長官率いる第一遊撃艦隊の進む道をご覧ください ところどころ戦術おかしいと思いますがご勘弁 どうか感想ください…心が折れそう どんな感想でも114514!!! 批判でも結構だぜ!見られてるって確信できるだけで モチベーション上がるから! 自作品 ソラノカケラ⦅Shattered Skies⦆と同じ世界線です

嵐神(バアル)こそわが救い ~シチリア、パノルムスに吹きすさぶ嵐~

四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】 紀元前251年、シチリア島は第一次ポエニ戦争、すなわちローマとカルタゴの戦場となっていた。 そのシチリア島のパノルムス(現在のパレルモ)において、共和政ローマ執政官(コンスル)メテッルスと、カルタゴの将軍ハスドルバルが対峙する。 ハスドルバルは、カルタゴ自慢の戦象部隊を率いており、メテッルスはこれにどう対抗するのか……。 【登場人物】 メテッルス:ローマの執政官(コンスル) ファルト:その副官。 カトゥルス、アルビヌス:ファルトと同様に、メテッルスの幕僚。 アルキメデス:シチリア島の自由都市シラクサの学者。 ハスドルバル:カルタゴの将軍。戦象を操る。ハンニバルの兄弟のハズドルバルとは別人。 【表紙画像】 「きまぐれアフター」様より

秘剣・花隠し

奇水
歴史・時代
明治の頃、佐伯楓が檜山喜一郎の死を知ったのは、彼を最後に見てから四日目の夕刻のことだった。 檜山は数年前より彼女の家の剣術道場に通っていた若者で、当世ではすでに禁止されて久しい敵討ちのために入門していたという若者であった。 免許を得た後に、師である楓の兄、佐伯衛の静止を振り切り、楓に寄せられる想いを振り切り、檜山は敵討ちに出て―― そして返り討ちにされた。 敵は紫電流、北尾重兵衛。その男の秘剣・花隠しとは何か。 残された師である佐伯衛は、敵討ちをどうするのかについては迷いながらも、秘剣の謎を解こうとする。

あさきゆめみし

八神真哉
歴史・時代
山賊に襲われた、わけありの美貌の姫君。 それを助ける正体不明の若き男。 その法力に敵う者なしと謳われる、鬼の法師、酒呑童子。 三者が交わるとき、封印された過去と十種神宝が蘇る。 毎週金曜日更新

処理中です...