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蒼き鎧
二
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楽毅達少年兵百名は愛馬と共に、塞の練兵場に集結していた。金の具足を纏った、董が悠揚と登場し、皆の前に立つ。彼に続いて、幾つもの木箱が練兵場に運ばれてくる。
「殿下。これは」
麾下の少年兵達は、呆然と一連の流れを見届けている。
「お前達がいなければ、私が父王の思いのままに地に臥していただろう。今日の私があるのは、孟賁勇者の名)が如き、勇士百名が私の元に集ってくれたからである。お前達には、返しきれぬ恩がある。だからこそ、今贈りたい。私にできることは、この程度であるが」
下男達が木箱を開いた。蓋から雪崩出てきたのは、蒼穹を模した、蒼の具足と馬具。
「殿下」
楽毅は感激で言葉が続かなかった。
「お前達は霊寿で震える、形ばかりの王師とは違う。生来からの戦士達である。若いが故に侮られるかもしれん。しかし!その可能性は」
董の指が雲一つない空を指した。
「あの空のように無限である」
楽毅達の装備は無数の傷を受け、甲としての機能を果たしていなかった。匈奴から奪った馬と胡服は、董の口添えで返還してもらうことが出来たが、軍に所属しない彼等少年兵に、国からの補充はない。
ただでさえ、董は王から嫌がらせを受けていた。送られてくる兵糧も最低限。装備に至っては、趙軍の屍から奪って補充せよとの始末である。董は何処から、この装備を入手したのだろうか。たとえ百名分であっても、そう簡単ではないはずだ。
「楽毅。前へ」
自失が解けないままに、長身の董と向き合う。
「之へ」
従者が折りたたまれた、矩形の布をそっと董の掌に載せる。
董がさっと布を広げた。
「旗だ」
深海のような青地に、白い刺繍で楽の文字。文字の背景には、今、正に翔び立たんとする大鵬の姿が描かれている。
「楽毅。お前の旗だ」
鳥が空で啼いた。旌旗が風を受け、翩翻と翻る。
旗手が徐に現れ、旗を鉄棒に通し、地面に突き立てた。
「俺の旗」
感涙で声は震えている。間違いではなかった。
この人こそが、俺の翼で泰平の世へと導かなくてはならない、真の心優しき王なのかもしれない。
かつて、孫師は中山の拘る必要はないと言った。
だがー。朝廷の頽廃によって、朽ちかけた中山にも光輝は残されている。
「誇り高き中山の戦士には必要なものだ」
楽毅のみならず、百名の少年達が咽び泣いていた。そして誓う。公子董を命に代えても、守り抜くのだと。
「殿下。これは」
麾下の少年兵達は、呆然と一連の流れを見届けている。
「お前達がいなければ、私が父王の思いのままに地に臥していただろう。今日の私があるのは、孟賁勇者の名)が如き、勇士百名が私の元に集ってくれたからである。お前達には、返しきれぬ恩がある。だからこそ、今贈りたい。私にできることは、この程度であるが」
下男達が木箱を開いた。蓋から雪崩出てきたのは、蒼穹を模した、蒼の具足と馬具。
「殿下」
楽毅は感激で言葉が続かなかった。
「お前達は霊寿で震える、形ばかりの王師とは違う。生来からの戦士達である。若いが故に侮られるかもしれん。しかし!その可能性は」
董の指が雲一つない空を指した。
「あの空のように無限である」
楽毅達の装備は無数の傷を受け、甲としての機能を果たしていなかった。匈奴から奪った馬と胡服は、董の口添えで返還してもらうことが出来たが、軍に所属しない彼等少年兵に、国からの補充はない。
ただでさえ、董は王から嫌がらせを受けていた。送られてくる兵糧も最低限。装備に至っては、趙軍の屍から奪って補充せよとの始末である。董は何処から、この装備を入手したのだろうか。たとえ百名分であっても、そう簡単ではないはずだ。
「楽毅。前へ」
自失が解けないままに、長身の董と向き合う。
「之へ」
従者が折りたたまれた、矩形の布をそっと董の掌に載せる。
董がさっと布を広げた。
「旗だ」
深海のような青地に、白い刺繍で楽の文字。文字の背景には、今、正に翔び立たんとする大鵬の姿が描かれている。
「楽毅。お前の旗だ」
鳥が空で啼いた。旌旗が風を受け、翩翻と翻る。
旗手が徐に現れ、旗を鉄棒に通し、地面に突き立てた。
「俺の旗」
感涙で声は震えている。間違いではなかった。
この人こそが、俺の翼で泰平の世へと導かなくてはならない、真の心優しき王なのかもしれない。
かつて、孫師は中山の拘る必要はないと言った。
だがー。朝廷の頽廃によって、朽ちかけた中山にも光輝は残されている。
「誇り高き中山の戦士には必要なものだ」
楽毅のみならず、百名の少年達が咽び泣いていた。そして誓う。公子董を命に代えても、守り抜くのだと。
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