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筋書き通りにチョロくあれ

懇願

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空は意味がわからないと言った顔で首を捻った。

「なん…どーゆーことだよ。恋人、じゃないんだよな?…………なんでそんなフツーなんだよッ怒れよ!」
「?俺は例えどれだけ噛みたいって言われてもキスマーク付けたがられても…喜んでくれるなら叶えたいよ」

──だって、印ってその一時だけでも愛されてたって証拠でしょ?

結構濃く付いてしまった噛み跡を指先で撫でながら、素直に「あ、えっちもね。まぁ……それは流石に気分に寄るけど」と口にして笑うと空が途端にピシッと止まってしまった。

「お前ッそういうのは好きな奴とだけにしとけよ!」
「え…と、えっちのこと?」
「そーだ!」
「でも、俺みんなのことちゃんと好きだよ?お互い合意だし頻繁にしてる訳じゃ……」
「ッ……っ違ーよ!そうじゃなくてっ、そういうのは恋人とだけにしなきゃ駄目なんだぞ!」

“好きな人”は1人だろ、と何故か怒る空。

「余計なこと言わないでよっ」と親衛隊の子達が何人か吠えているが、今は空の言葉が気になってしまってそれ以上は周りの声があまり耳に入らなくなっていた。

「えっと、よくわかんないけど…じゃあ俺、恋人いないからえっちできないの?」

……俺、1人でするの?

空と視線が絡むと「当たり前だッ!」と返ってきた。ショッキング。愛情いっぱい感じられるあの幸せな時間を1人で?なにそれ寂しい……。

ハッとして空に声をかける。

「噛み跡は?それもつけて貰ったら駄目なの?」

これだけは、と何処か縋るような気持ちで空を見つめる。

「ゔ……っじゃあ特別な人だけ!」
「特別…友達、とか?」
「は?友達…?」
「うん」
「ゔーん………友達、か……ともだち……………じゃーそれ…友達だけ」
 
?あれ、そういえば俺……なんでこんなに空の考えを気にしてるんだっけ?

──ふと、内心で頭を傾げる。

しかしそんな違和感も空が暫く唸った後“友達だけ”と微妙な顔で妥協案を出した事でどこかへ行ってしまった。 

しかしながらまだ致命的な問題が残っている。

「それも俺……友達居ないから出来ない」
「え?何言ってんだ?俺らもう友達だろ??」
「え?」

そうだったんですか!?

空の衝撃的な言葉で思わずキョトンとしてしまう。

──ともだち……俺に友達?

空があっけらかんと言った友達のいた事がない俺は、何を満たし何をしたら友達認定される事ができるのか分からなかった。
一般的な友達の定義を詳しく知らない俺は、言われた事をいくら咀嚼しても理解することが出来ない。
俺の事をもう友達だと言った彼から視線を逸らすことも出来ずにただただ空を見つめてぐるぐると考えるが、空が徐ろに咳払いをしたことでそちらへと意識が向いた。そこには仕方なさそうに俺に笑いかける空がいた。

「んん"ッ……もー…しょーがないなー、友達なんだから俺がしてやるよ!」
「え………………ありがとう…?」
「「「…………はあっ?!」」」

なるほど、流石に今回はわかった。とりあえず空は俺の友達だから、俺に噛み跡をつけても良いってことだよね?ザワっとクラス内から上がった驚きの声を皮切りに、静かにしていた親衛隊やクラスメイトたちが騒ぎ出した。

──そんな中俺は初めての友達という存在に、心がぽかぽかして仕方が無くて……。

理事長に直談判して役職持ち専用フロアの寮部屋は辞めてもらったけど、流石に生徒会役員を一般生徒と同室にするのは問題があるしで……俺には2人部屋を一人で使っている為ルームメイトという比較的友達になりやすい人もいなかった。

「桜さんッ!!」
「桜様ッ!」
「悠里くん、志摩くん……」

いつの間にか悠里と志摩が席を立って近くまで来ていた。何故か……などとは言わない。彼らは不服そうな顔で俺を見つめる。俺はそこまで鈍感でも無い為、2人を始めとした親衛隊の子達の言いたいことは分かる。
空の容姿……と、物は言いようだが素直で元気すぎる彼の性格や、そんな彼が自分の親衛対象の初めての友達になったという点で言いたいことがあるのだろう。いやまぁ、他にも山ほどあるだろうが……

「ッ桜様……何故よりにもよってこの奇行児となんです?!」
「桜さん考え直してください、彼は異常です」
「は?何言ってんだこいつら。キコージって?異常って俺の事か?」
「空くん、ちょっと静かにしててね」

空は俺の事をじっとみたかと思うと頬をふくらませた。どうやら不服らしい。空の口元に人差し指を当て「シーっだよ。良い?」と“微青年”な俺の顔を出来うる限り甘くして囁くとメガネの奥の瞳を丸くし、若干口元を不自然に歪ませながら頷いた。あー、うん。これ笑うの我慢してるな。みんなは生徒会or優男フィルターがかかってるのか喜んでくれるのに……全く。 失礼だけど憎らしさを感じさせないほど素直な子だ。

悠里は空が静かになったのを見計らうと志摩に視線を投げてから、スっとそれをこちらに戻し「どうして……コレなんですか?」と空を軽く顎でしゃくって忌々しげに唸った。それを聞いた空がムスッとしたが俺がお願いしたからか黙ったままだ。

「嬉しかったから、かな。面白いよね……空が何をきっかけに、いつからそう思ったのかわからないけど、俺からしたら気づいた時にはもう友達だったんだよ?」
「ッ…非常識なだけです」
「……んー、ほら見た目も言動もだけど……変わった子でしょ?面白いし、俺だって興味も出るよ」

そう思わない?と志摩に首を傾げ、悠里には「可哀想なこと言わないであげて」と視線を投げた。自分でも言い過ぎていたのに自覚があったのか悠里はバツの悪そうな顔をした。が、空の「はぁ…人間関係ってめんどくせーんだな」と言う発言によって見事、ブチッと悠里の何かが切られた音が聞こえた気がした。顔を力の限り顰め、空を指さして悠里が怒鳴る。悠里が俺に怒鳴るなんてとても珍しいものを見た。……しかしながら俺のためだと分かっているから不快感はない。

「ッ見た目も言動も!全てが奇怪なだけじゃないですか!」
「おい、悠里!……桜さん、今の悠里は気が動転しているみたいです。すみません」
「俺の事、好きだからだよね?嬉しいから良いよ」

志摩は興奮して俺に詰め寄ろうとしていた悠里の肩を掴み、自分の後ろへ追いやると代わりに謝罪した。しかし、悠里が俺に怒るということは基本的にない。それこそ俺の為でない限り。俺が「でも……俺は空くんと友達がいいなぁ。志麻くん達は嫌?」と聞くと、志摩は僅かに眉間に皺を寄せたが困ったように微笑んでくれた。

「嫌ではありますが……俺たちにそれを決める権利はありません」
「ッ…ここにいない親衛隊には、僕がちゃんと話します……制裁の心配は不要です」
「そっか……悠里くん、志摩くん。ありがとう、大好き」

悠里と志摩くんを抱き寄せた。それを見た空が「もういいよな!!那希ッ俺も!俺も抱きしめろよ!!」と言ったことによって再度クラス内がザワつくが、『脳内開通&欲望まっしぐら』と言った感じの空も、もちろん抱きしめておいた。こういうお願いされることが好きだからって言うのもあるけど、空が騒がしいままだとみんな不機嫌になるみたいだから。

「桜井様があんなモジャモジャと御友人ッ…?!」
「ほんとにありえない……」
「あの不潔許すまじ…っ」

悲痛な顔で嘆くのは親衛隊の子達だった。口々に不満を漏らし空を睨め付ける。親衛隊以外のクラスメイトも納得は行っていないと言った表情だった。しかしながら、志摩の言うように俺には、俺の友達を自分で選ぶ権利がある。未だ俺の腕の中で急にご機嫌になった空は、俺の背へ腕を回し「なーなー、那希ってなんか良い匂いすんな?」と、犬のように鼻を鳴らしている。ほら可愛い。ね?みんなもいつか気がつくから大丈夫だよ。空を抱きしめられたまま、比較的声がする方に注意を入れておく。微青年な俺の出来うる限り優しく見える表情で、“お願い”をする。

「空は俺の友達。だから手を出したらダメだよ」
「でもさくらさま…!」
「駄目。俺、みんなのこと嫌いになりなくない」
「うっ…」
「お願い」

俺がお願いだとしっかり視線を合わせて懇願すると、みんな眉を下げつつも了承してくれた。やっぱりそう。“微青年”の顔立ちで一番効くのは『命令』では無く『懇願』だ。

……まぁ、そもそも俺のイケメンと言えなくもないような微妙な顔立ちの人間が命令なんてしようものなら、終始お笑い草か一瞬でシラケるかの両極端なのは分かりきっている。




──────────────────────────────


話によって文字数がマチマチですが、よろしくお願いします 。

余談ですが、空くんの身長は王道らしく小さくは“無く”、170cmと割と高めでお送りさせて頂いております。那希斗とは5cmしか違わないので抱きしめたりした時、顔の位置が結構近いかなって思います。
しかしながら5cmなので、並んでパッと見た時は何となく身長差が感じられるかな?と言った具合です。

ちなみにこの設定は把握不要です。ただ書きたかったので


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