17 / 26
筋書き通りにチョロくあれ
友達
しおりを挟むいや、と言うか……それより。
「──⋯なき?」
俺の言葉に春川は楽しそうに頷く。
黒髪がもっふもっふと……おお、揺れる揺れる。
「おうッあだ名だ!その方がかわいーだろ?」
「可愛い…じゃあ空汰は……空?」
「へ?…………え、おれも?」
……ん?違うのか?
ぽかんと開いた口が少し阿呆っぽい。自分を指さして首を傾げる彼にこちらも首が曲がる。自然と見つめ合い視線が絡む。
あれ──⋯
わかり辛いがメガネの奥の瞳は、穢れなど知らないと主張するような晴れ渡った青空の色だった。眼鏡や前髪出隠れてしまっているのが勿体ない。──って。あぁそうだ、“おれも?”って、聞かれてたんだっけ。俺は我に返って春川に確認する。
「えっと、うん…その方が可愛いんでしょ?」
もしかして人の事は可愛く呼びたいけど自分は違うとか?空はよくわからない子だ。あぁ、でも……確かに可愛いよりかっこいいって言われたい人の方が多いしのも確かだし、空汰もそうなのだろうか。…なんて考えていたけど、空汰は「いや!それでいー!」と詰め寄ってくる。急に近いしちょっとうるさいなこの子……いや、けど構え構えってうるさい中型犬みたい。
周りからの抑えられた罵声や悲鳴を無視して「那希ってキレーな顔してるよなー」とか「なー、その舌ピアス自分で開けたのか?」と、何故か俺にだけ話しかけ続ける。
……よく気付いたな舌ピアス。普段は半透明の赤色にしてるから目立たない筈なんだけど。
とにかく空からは好意的な感情しか見て取れなかった。
俺たちが話しているからか、親衛隊の子をはじめとしたクラスメイト達が皆こっちに意識を持っていかれてしまっている。そのせいか先生は朝の連絡事項が伝えられなかったようだ。誰も聞いていなければ意味が無い。…当の先生も諦めたのかこちらを観察し始めてしまった。今はもうHRをする気がないらしい。
何度か「HRが始まらないから、前を向いて静かにしよう?」と言ったのだが「わかった!じゃあ小声なっ」とか言い、若干声量を落とした状態で会話を続けられてしまっている。……如何せん楽しそうに話すものだから何度も注意を促し辛い。純粋で騒がしい子ってなかなか扱いが難しいんだな。
これは空が満足するまで終わりそうにないなぁ。
先生を初めとした周りの人間をすっかり忘れているのか、一向に止まない空からの質問。内心苦笑しながら答えるうち自分に興味を示し続ける彼にいつの間にか、俺まで好意的感情を抱いていたことに気付いた。
もう……唖然としてしまう。
こんなにうるさくて、普通なら煩わしいって思ってもおかしくないのに不思議だ。楽しくて周りが見えていないらしい彼がついつい可愛く見えてきてしまう。何故だろうか、なんて答えはわかりきってるだろう。
空がここまで無自覚にグイグイとくるタイプで、珍しいって言うのももちろんあるだろうけど…結局、こんなに好意を寄せられて俺は嬉しくなっちゃってるんだ。やっぱり安上がりというかチョロいというか。
「それ、どーしたんだ?」
「それ?」
「首のやつ、痛そー」
「あー、噛まれた」
は?!と驚く空を見て苦笑する。でも、空が見ている位置的にそうだろう。一昨日、お茶会の帰りに親衛隊の子にキスマークが付けたいとお願いされた。もちろん、俺はむしろ嬉しいからってどうぞとばかりに首元を差し出した。
のだが──
…激痛が走ったと思ったら何故かキスマークすっ飛ばして噛み付かれており、一緒にいた悠里や他の親衛隊の子達が慌てて引き剥がそうとしてくれたけど……思い切り噛み付いてる時に無理に引き離すことも出来ず。結局、噛まれた上に甘噛みされながら長いこと吸われて見事な痣が出来上がった。
「な、どうして?!なんで?!……誰に!」
「?えと、誰って…………知り合い…いや、顔見知り?」
確かあの後、何やら抑えられなかったとか、止まらなかったとかで件の子に謝られたんだけど俺は特に気にしてないからと快く許した。……いやもちろん痛かったけどね?何故か空の反応が過剰だ。俺は深刻にならないよう笑みを浮かべながら“知り合いか顔見知りかそこら”と言ったようなことを伝え、安心させ……………られなかった。
なんだ知り合いか、と弓を描くと思ったその口はへの字に歪められ、空は意味がわからないと言った顔で首を捻っている。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

生徒会会長と会計は王道から逃げたい
玲翔
BL
生徒会長 皇晴舞(すめらぎはるま)
生徒会会計 如月莉琉(きさらぎりる)
王道学園に入学した2人…
晴舞と莉琉は昔からの幼馴染、そして腐男子。
慣れ行きで生徒会に入ってしまったため、王道学園で必要な俺様とチャラ男を演じることにしたのだが…
アンチ転校生がやってきて!?
風紀委員長×生徒会長
親衛隊隊長×生徒会会計
投稿ゆったり進めていきます!


笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

ボクに構わないで
睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。
あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。
でも、楽しかった。今までにないほどに…
あいつが来るまでは…
--------------------------------------------------------------------------------------
1個目と同じく非王道学園ものです。
初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです
王道学園なのに会長だけなんか違くない?
ばなな
BL
※更新遅め
この学園。柵野下学園の生徒会はよくある王道的なも
のだった。
…だが会長は違ったーー
この作品は王道の俺様会長では無い面倒くさがりな主人公とその周りの話です。
ちなみに会長総受け…になる予定?です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる