見せかけだけの優しさよりも。

aito

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筋書き通りにチョロくあれ

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いや、と言うか……それより。


「──⋯なき?」

俺の言葉に春川は楽しそうに頷く。
黒髪がもっふもっふと……おお、揺れる揺れる。

「おうッあだ名だ!その方がかわいーだろ?」
「可愛い…じゃあ空汰は……空?」
「へ?…………え、おれも?」

……ん?違うのか?
 
ぽかんと開いた口が少し阿呆っぽい。自分を指さして首を傾げる彼にこちらも首が曲がる。自然と見つめ合い視線が絡む。

あれ──⋯

わかり辛いがメガネの奥の瞳は、穢れなど知らないと主張するような晴れ渡った青空の色だった。眼鏡や前髪出隠れてしまっているのが勿体ない。──って。あぁそうだ、“おれも?”って、聞かれてたんだっけ。俺は我に返って春川に確認する。

「えっと、うん…その方が可愛いんでしょ?」

もしかして人の事は可愛く呼びたいけど自分は違うとか?空はよくわからない子だ。あぁ、でも……確かに可愛いよりかっこいいって言われたい人の方が多いしのも確かだし、空汰もそうなのだろうか。…なんて考えていたけど、空汰は「いや!それでいー!」と詰め寄ってくる。急に近いしちょっとうるさいなこの子……いや、けど構え構えってうるさい中型犬みたい。
周りからの抑えられた罵声や悲鳴を無視して「那希ってキレーな顔してるよなー」とか「なー、その舌ピアス自分で開けたのか?」と、何故か俺にだけ話しかけ続ける。

……よく気付いたな舌ピアス。普段は半透明の赤色にしてるから目立たない筈なんだけど。

とにかく空からは好意的な感情しか見て取れなかった。
俺たちが話しているからか、親衛隊の子をはじめとしたクラスメイト達が皆こっちに意識を持っていかれてしまっている。そのせいか先生は朝の連絡事項が伝えられなかったようだ。誰も聞いていなければ意味が無い。…当の先生も諦めたのかこちらを観察し始めてしまった。今はもうHRをする気がないらしい。
何度か「HRが始まらないから、前を向いて静かにしよう?」と言ったのだが「わかった!じゃあ小声なっ」とか言い、若干声量を落とした状態で会話を続けられてしまっている。……如何せん楽しそうに話すものだから何度も注意を促し辛い。純粋で騒がしい子ってなかなか扱いが難しいんだな。

これは空が満足するまで終わりそうにないなぁ。

先生を初めとした周りの人間をすっかり忘れているのか、一向に止まない空からの質問。内心苦笑しながら答えるうち自分に興味を示し続ける彼にいつの間にか、俺まで好意的感情を抱いていたことに気付いた。

もう……唖然としてしまう。

こんなにうるさくて、普通なら煩わしいって思ってもおかしくないのに不思議だ。楽しくて周りが見えていないらしい彼がついつい可愛く見えてきてしまう。何故だろうか、なんて答えはわかりきってるだろう。
空がここまで無自覚にグイグイとくるタイプで、珍しいって言うのももちろんあるだろうけど…結局、こんなに好意を寄せられて俺は嬉しくなっちゃってるんだ。やっぱり安上がりというかチョロいというか。

「それ、どーしたんだ?」
「それ?」
「首のやつ、痛そー」
「あー、噛まれた」

は?!と驚く空を見て苦笑する。でも、空が見ている位置的にそうだろう。一昨日、お茶会の帰りに親衛隊の子にキスマークが付けたいとお願いされた。もちろん、俺はむしろ嬉しいからってどうぞとばかりに首元を差し出した。

のだが──

…激痛が走ったと思ったら何故かキスマークすっ飛ばして噛み付かれており、一緒にいた悠里や他の親衛隊の子達が慌てて引き剥がそうとしてくれたけど……思い切り噛み付いてる時に無理に引き離すことも出来ず。結局、噛まれた上に甘噛みされながら長いこと吸われて見事な痣が出来上がった。

「な、どうして?!なんで?!……誰に!」
「?えと、誰って…………知り合い…いや、顔見知り?」

確かあの後、何やら抑えられなかったとか、止まらなかったとかで件の子に謝られたんだけど俺は特に気にしてないからと快く許した。……いやもちろん痛かったけどね?何故か空の反応が過剰だ。俺は深刻にならないよう笑みを浮かべながら“知り合いか顔見知りかそこら”と言ったようなことを伝え、安心させ……………られなかった。

なんだ知り合いか、と弓を描くと思ったその口はへの字に歪められ、空は意味がわからないと言った顔で首を捻っている。

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