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道②
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店に流れるJAZZYな音楽が、朔良に降り注ぐ。
何もなかった、ただの箱だったこの場所に、人々が集い、そして音が鳴る。
「弦くんみたいになれたらなぁ」
思わずホロリと漏れ出た本音。
そしてそれは、弱音。
「なんや、どうしたん」
「あんくらい、目標に向かってスジ通った人だったらカッコ良かったのに」
「朔ちゃんやてスジ通っとらんことないやん」
「そぉかな……」
小さく笑うその横顔は、薄明かりに影をつくる。
「朔ちゃん、櫂とはちゃんと話しとる?」
「なにを?」
「今後のこととか、さ。この仕事のこととか」
「話したよ、わかったって、言ってたけど……」
朔良はグイッと酒を流し込んだ。
喉が、熱い。
いつだったかも、こんな弱音を吐きながら酒を飲み、そして、意識を失った。
あれはいつだったか。
櫂に会いたくて、会いたくて、堪らなかったとき。
あんなにも会いたくて堪らなかった。
再会さえできればあの頃のように、笑って、ただ楽しい日々が待っていると思っていた。
なのに今、なぜか櫂との距離を、遠く感じた。
「わかるわけあるか」
不意に後ろから声がして、振り向くとそこには凌空が立っていた。
「え、どうしたんすか?」
「明日休みだからさー弦ちゃん仕事終わったら一緒に帰ろうかなーと思って」
「仲良しだなー」
「つぅかこないだバッタリ会った時は仲良さそうにやってるんだなぁって思ったけど」
「まぁ、それなりに仲は良いんだけど……」
「なぁ考えてみ?」
凌空は、すぐ近くのテーブル席の椅子を引き寄せKANと朔良の後ろに座る。カウンターを背にして朔良は、凌空と向き合った。
「考えてみろよ、好きな奴が他の奴とヤんだよ」
「それは嫌だ」
それは、驚くほど小声で、頭を突き合わせて。
そこにKANも加わる。
「他の子とヤル朔ちゃんの気持ちは、ちゃんと言ったん?」
「気持ちって?」
「他の奴と絡む気持ちとか、こうなったら区切りをつけるとか、なんかこう、気持ちと見通し?」
「多分……一応……」
「頼りねぇなぁー」
「朔良もすげぇしっかりしてて冷静なのに本当こーゆーこと不器用だよなー」
肝心なところが不器用。
凌空、KANに代わる代わるつっこまれ、自信なさげに朔良は小さく背を丸めた。
「自信なくすことじゃねぇよ、男なんてそんなもんだ。甘えたり感情出したり、相手のすることに口出すことって、なんかかっこわりーじゃん。そーゆーもんなんだよ。だから腹割って話す覚悟もいるし、相手のこと深く考えないといけねぇんだよ。友だちなら流せることが、関係深くなればなるほど、それがただのすれ違いになる」
聞こえていたのかいなかったのか、カウンターの中から弦が言い、「弦ちゃんかっこいい~」と凌空が嬉しそうに酒を飲む。
まさに、それだと思った。
お互いの気持ちを感じながらそれを口にできず、どんどんすれ違っていく。
「とりあえずちゃんと話せよ」
その言葉に、朔良はうなずきスマホを手に取った。
『櫂、今度の休み時間とれる?』
素早く打ち込み、送信した。
何もなかった、ただの箱だったこの場所に、人々が集い、そして音が鳴る。
「弦くんみたいになれたらなぁ」
思わずホロリと漏れ出た本音。
そしてそれは、弱音。
「なんや、どうしたん」
「あんくらい、目標に向かってスジ通った人だったらカッコ良かったのに」
「朔ちゃんやてスジ通っとらんことないやん」
「そぉかな……」
小さく笑うその横顔は、薄明かりに影をつくる。
「朔ちゃん、櫂とはちゃんと話しとる?」
「なにを?」
「今後のこととか、さ。この仕事のこととか」
「話したよ、わかったって、言ってたけど……」
朔良はグイッと酒を流し込んだ。
喉が、熱い。
いつだったかも、こんな弱音を吐きながら酒を飲み、そして、意識を失った。
あれはいつだったか。
櫂に会いたくて、会いたくて、堪らなかったとき。
あんなにも会いたくて堪らなかった。
再会さえできればあの頃のように、笑って、ただ楽しい日々が待っていると思っていた。
なのに今、なぜか櫂との距離を、遠く感じた。
「わかるわけあるか」
不意に後ろから声がして、振り向くとそこには凌空が立っていた。
「え、どうしたんすか?」
「明日休みだからさー弦ちゃん仕事終わったら一緒に帰ろうかなーと思って」
「仲良しだなー」
「つぅかこないだバッタリ会った時は仲良さそうにやってるんだなぁって思ったけど」
「まぁ、それなりに仲は良いんだけど……」
「なぁ考えてみ?」
凌空は、すぐ近くのテーブル席の椅子を引き寄せKANと朔良の後ろに座る。カウンターを背にして朔良は、凌空と向き合った。
「考えてみろよ、好きな奴が他の奴とヤんだよ」
「それは嫌だ」
それは、驚くほど小声で、頭を突き合わせて。
そこにKANも加わる。
「他の子とヤル朔ちゃんの気持ちは、ちゃんと言ったん?」
「気持ちって?」
「他の奴と絡む気持ちとか、こうなったら区切りをつけるとか、なんかこう、気持ちと見通し?」
「多分……一応……」
「頼りねぇなぁー」
「朔良もすげぇしっかりしてて冷静なのに本当こーゆーこと不器用だよなー」
肝心なところが不器用。
凌空、KANに代わる代わるつっこまれ、自信なさげに朔良は小さく背を丸めた。
「自信なくすことじゃねぇよ、男なんてそんなもんだ。甘えたり感情出したり、相手のすることに口出すことって、なんかかっこわりーじゃん。そーゆーもんなんだよ。だから腹割って話す覚悟もいるし、相手のこと深く考えないといけねぇんだよ。友だちなら流せることが、関係深くなればなるほど、それがただのすれ違いになる」
聞こえていたのかいなかったのか、カウンターの中から弦が言い、「弦ちゃんかっこいい~」と凌空が嬉しそうに酒を飲む。
まさに、それだと思った。
お互いの気持ちを感じながらそれを口にできず、どんどんすれ違っていく。
「とりあえずちゃんと話せよ」
その言葉に、朔良はうなずきスマホを手に取った。
『櫂、今度の休み時間とれる?』
素早く打ち込み、送信した。
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