月夜の闇に煌めく星〜ゲイビの世界に愛はあるのか〜

デンキウナギ②

「水族館、いつぶり？」
「小学生とか？　行かねぇよなぁなかなか」
「俺も。イルカショーとか見たいなぁ」
「俺、あれ見たい。デンキウナギ」
「なにそれ？」
「いや、なんか覚えてる、昔の記憶。光るんじゃなかった？」
「ウナギが？」
「え、違ったっけ？」

高速を走る、櫂の横顔は真っ直ぐ前を見て笑っていた。その隣で、その顔を盗み見て朔良は、胸がドキンと鳴った。

なぜ、彼の笑顔に惹かれるのか。
彼の強さと弱さを、知ってしまったからだろうか。

ただ真っ直ぐ前を見て笑うその顔が、朔良には嬉しかった。


・


「うおーっ！　朔！　すげぇ！　でっけぇ！」
「綺麗だなぁ～キラッキラだなぁ魚」

平日の昼間。
小さな子供たちに混じり水族館を巡る。
それを追いかけるカメラを構えたSUUとKANに、すれ違う人が振り返る。

「櫂！　いた！　デンキウナギ！」
「おぉっ！　ほんとだ！」
「……普通のウナギじゃねぇ？」
「うん……つうか、ちょっとグロテスクだな……」

小さな頃の記憶の中にある光るウナギ。
すごいすごいと、見入った記憶は、何だったのだろうか。

「ウナギが光ったんじゃないんじゃないの？」
「どーゆうこと？」
「ウナギが放電した電気を使って、何か別のものを光らせてたんじゃない？」
「えぇえ！　俺の記憶……」
「朔ちゃんにしては珍しいなぁ」

SUUとKANの言葉に、目の前にいるひらひらと漂うウナギを朔良は、ジトリと見つめた。

「くそぅ、お前が光ってたんじゃなかったのか」
「はははっ！　朔、悔しがっとる！」
「だってデンキウナギは光る魚だと思ってた……」
「でもさ、朔は昔から光るもんが好きなんだな」
「なんかそれ、語弊ない？　大丈夫？」
「え？　なんで？　夜景とか好きやん。そういうもんにさ、惹かれるってゆうか、勇気もらえるってゆうかさ」

薄暗いその部屋に、ポツリポツリと客が増える。

光に勇気をもらって、光る場所へ行きたいと願った。
闇に吸い込まれないように、光を、求めた。

「そうだな……」

見下ろす櫂の顔が、優しく微笑む。
そのとき、パッと部屋が明るく光った。
薄暗い部屋に彩られた電球が、キラキラと、色鮮やかに光る。

「え、なに？」
「食事の時間だって」

戸惑い辺りを見渡す朔良と櫂に、SUUが言う。
水槽には、投げ込まれた餌の魚。
それを目掛けて泳ぐ、デンキウナギ。

『デンキウナギは、獲物を食べる時に放電し、気絶させ餌を食べます』

女性のアナウンスの声が、響く。

『放電した電気を使い、電飾に光が灯っています』

「ハハッ……捕食のための放電だってよ」

乾いた声で笑う朔良は、光る天井を見上げた。
狭い部屋を彩る光たち。

生きるために、電気を放つ。
そしてこの、光を生む。
決して自分は、輝かない。
それでも必死で、生きるために放った力。
それがなにかを、輝かせる。

人が勝手に作ったこの仕組み。
それでもその光に、朔良は見入った。

その時きゅっと、何かが手を、包み込んだ。　
視線を落として、朔良は高鳴る胸を、抑えきれなかった。

人々が見上げる小さな部屋の光の下で、櫂が、キュッと手を、握っていた。
その手を静かに握り返す。


これは、映像に収まっているのだろうか。
作品の一部、なのだろうか。

温かいその手から視線を移し、朔良は、櫂を見上げた。

光を見上げる櫂の横顔は、あのグロテスクなデンキウナギの放つ力によって、キラキラと照らされていた。