職業、死神〜今夜、終わるいのち〜

運命の時⑧

【side 蓮】

泣くなよ。
隠し通せよ。
責めてないから。


なんで、なんで泣くんだよ。
俺はまだ、なにも言ってないのに。




子どもには不思議な力がある。
重症な子どもが多い病院で、亡くなる子どもも多くて。

子どもたちが、よく話してくれる。


死神さんが迎えにくる
死神さんは優しいよ


なんだよ死神さんって。

真っ黒い服で、頭からすっぽりマントみたいなのを被っていて。ちょっと怖いけど、優しいんだよ。


なんで優しいってわかるんだよ。

だってお空に行った子たちいつも笑って遊びにくるもん。ほら、昨日の夜点滴ピーピーいったでしょ、悪戯して帰ったんだよ


なんだよそれって笑っていた。
もしかしたら、そんな世界もあるのかもしれない。


優しい死神さんとやらが迎えに来て、連れて行ってくれる世界はどんな世界やろな。


アオに出会って、頭からすっぽりマントみたいなものを被ったアオを見ても俺は、なんらピンときていなくて。

いつかコスプレしてもらおうくらいにしか、思っていなくて。

この前。
夜中に仕事で飛び出して行った時、あのマントを手に出て行って、仕事道具なのかと驚いた。それでもどんな仕事だよ、としか思っていなかった。


時々、香る、あの匂い。
あれで俺は、ピンと来てしまったんだ。

アオ、俺が渡したあの香水を。
大事につけてくれとったんやろ。
アホやな。
姿は隠せても、香りは隠せんらしいで。

何度かふわりと香って、いるはずのないアオの香りと、その時に起こること。

デカイ病院やから、多くはなくとも人は死ぬ。
時々、多分、来とったやんな。
その香りがすると、そのあと死後の対応が始まっとったん。多分俺の目には入っていたけど繋がってはいなくて。断片的にあった記憶が全部、今日繋がった。


アオ、今日ずっと、おったやろ。
俺のそばに、ずっとおってくれとったやんな。
その香りが近くにあって、心強かった。

そしてあの子どもの命の鼓動が消えて、少ししてアオの香りが、消えた。

子どもの命が消えたとき。

アオなん？って。
そこにおるのは、アオなん？って。
今までのことが、ぶわっと一気に繋がった気がして、思わず振り返ってしまった。なにも、見えてなかったけどそこに、アオがいる気がしたんだ。


なぁ、アオ。
知りたくなかったかと言われたら、そうでもないんだよ。

だって子どもたちが笑って話す相手が、アオだったかもしれないんやろ。そうじゃなくても、アオの仲間が。俺が救えなかった子たちを、笑顔にして連れて行ってくれてたんやったら、俺の心は救われる。



だから。
だから泣くなよ。



静かに互いに服を着て。
静かな部屋で、俺は口を開いた。

「アオ……って、さ……」
「蓮、あの……さ」
「俺……今日な……」
「待って……俺、蓮とこのままおりたいねん」
「……なに？」
「言ったらあかん……」
「なんでや……俺別に……アオがどんなんでもいい……」
「待て、蓮ちょっと待って……」

俺の言葉を遮るアオは焦っていて。
そしてその瞬間に、部屋の中に大きな風が、舞い込んできた。