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かざぐるま②

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【side アオ】

仕事のメールが来た。
蓮の働く病院が、死亡場所。

死神として、終わらせる命。



患者は高齢男性で。
家族に見守られているところだった。

ローブに姿を隠して。
そっと見守る。

いつなのか。
この4時間を、どう使うのか。
どうその命を、終わりにするのか。

俺が持っている情報なんて、到着してからのことしかなくて。 

家族に見守られながら、息を引き取る。
まだ待つ人間はいないのか。
これから会いたい人は、いないのか。
様子からそれを、想像して。

眠るように、苦しまずに。
できるだけ穏やかに。
その時を迎えられるように。

悲しみに包まれながら。
別れを惜しみながら。
暖かい空気の中でその命を、終わらせた。


病院の入り組んだ構造の中を、行く。
ローブの力を最大限に利用して。

と、そこに、聞いたことのある声がして、思わず足を止めた。

賑やかな声。
子どもの甲高い声と。
「おっしゃやったるからなっ!」という、蓮の声。

子どもたちに囲まれて、これはきっと夏祭りで。
射的をする姿。

皆に応援されて、拳を突き上げて喜んで。
2個目のかざぐるまをGETして、笑う。 
そのまま蓮は、「じゃあ楽しんでな」と祭りを後にした。

本当はこんなことにローブの力を使ってはいけない。でも、その後ろを、ついて行く。
入ったその部屋には、ベッドに座ってひとりオモチャで遊ぶ小さな子ども。

「おー起きとった? これもらってきたで?」

穏やかな声。
蓮の姿を見て、笑って手を伸ばす子ども。

「お祭り、来年は行こうな」

そう言って手に持つかざぐるまをベッドに飾る。

「先生が、治したるからな」

子どもはそんな蓮を見て、手を伸ばす。

「こっちはあげられへんねん、先生な、これあげたい人おるねんやん。1個で我慢してや」

そう言って手に持つもうひとつのかざぐるまに、息を吹きかける。

くるくると回る、赤いかざぐるま。
カラカラと回る。

「データ、良くなっとったで。頑張っとるやん。頑張ろな。こっからキツイけど、頑張ろな」

わしゃわしゃと頭を撫でて。子どもはその手を掴んで指で遊ぶ。

「いって! あかん方向に曲げとるやんか」

子どもに遊ばれて、笑う声。
穏やかな時間が流れる。

ふと頬を緩ませ、ふわりとその場を、去った。
その時蓮が、こちらを見た気がしてドキリとしたが。

蓮の帰りを、蓮の部屋で、待つ。







「ただいま」
「おかえり」

すっかり日も暮れて。
日付も変わりそうな、そんな時間に蓮は帰ってくる。

「アオ聞いてや! あの子どもおったやん? 今日の検査結果めちゃ良くてさぁ! 移植できそうやねん! そしたら一歩進むわぁー」

おそらくまたシャワーを浴びてきていて、髪がふわふわした蓮が、ベッドに大の字にゴロンと横になった。俺はそのベッドにパフンと座って、「良かったやん」と言って蓮を、見下ろした。

「明日から忙しくなるわ……」
「そうなん……治るとええなぁ」
「あれ、どしたん? いつもとちゃうやん」
「そう? 見解は基本変わらへんで?」
「おーおーそうか。やっぱ相変わらずやな」
「そんな簡単に人は変わらんわ」
「せやな。絶対治したるって思っとる反面、怖い気持ちもあんねん。もし運命があるなら……辛い治療さしてなんの意味があったんってなるやん」
「……」
「くっそー死神来んなよー!?」
「……死神?」

いつも通りの会話の中に突然の「死神」ワードに思わず反応する。

「死神。んや最近やたら運命論語るで考えてしまったわ。運命が決まっとるとしたら死神が迎えに来んのかなぁとかさ。やとしたら俺がそれ覆したら神様と死神が闘うんかなとかさ、漫画の世界みたいなこと真剣に考えてひとりでアホちゃうかって笑っとったわ」

蓮らしい発想に、笑う。
あながち間違ってもいないが、神様とやらがいるかは、知らない。

「死神めちゃ悪もんやん」
「俺の倒すべき相手みたいなもんやん」
「ハハッそうやんな」
「でもアオ死神みたいなコスプレしとったな、今思えば最初。あれなに?」
「あぁ、コスプレみたいなもんやん気にすんな」
「こんな時期にあんなカッコして歩くとかビビるわ」
「たまたまやん別にいつもやないわ」
「たまたまもないわ普通」

ハハハと笑って。
蓮の手を、握った。

今日子どもが遊んでいた、蓮の手。
同じように指で遊んで。

「いって! お前子どもみたいなことすんなや!」と笑って怒る。そして「あっ」と蓮が小さく声を上げてガサゴソ鞄から取り出した。

「アオ、これ……」
「ん?」

目の前には、赤いかざぐるま。
それは昼間に子どもに渡していたものと、もうひとつ手に持っていた、かざぐるま。

「どしたん、これ?」
「今日病棟のお祭りでさ……なんか、アオにあげよかなーと思って」
「……ありがとう」
「こんなんしか用意できんくて、さ」
「ん?」
「時間なくてさ、なんかこう……」
「……」

蓮は頬を赤くして、ガバッと起き上がって頭をぽりぽり掻いて、黙り込んだ。

「なに?」

思わず蓮の顔を覗き込む。
一瞬目を逸らして。
口を尖らせて。

「なんでやろ……俺、ちゃうねんけど……」

蓮が、なにかを言おうとしていて。
でも何かが彼を、抑え込んでいて。

ギュッと握ったままのかざぐるまを、受け取る。
懐かしい感じがして。
でもその記憶が、定かじゃない。

「蓮……ありがとう」

少しだけ、怖い顔をした蓮。

「顔……こえぇよ……?」

そう言って笑って、蓮の頬に触れた。
いつも、受け身で。
されるがままだった。

俺は、どうしたい。
俺は、誰といたい。

俺は、蓮のそばにいると、穏やかな気持ちでいられるんだ。

吸い込まれるようにそっと、蓮の唇に、キスをした。
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