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生を願う④

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【side 蓮】

どうすることもできず俺は、タワーマンション前の橋にボーッと立っていた。欄干に手をかけて、帰ることも出来ずに月を眺めた。

何度かアオのスマホにかけてみたものの、それに応答はなくて。ボーッとするしか、俺にはできなかった。

握りしめたスマホを、川に投げたい衝動に駆られる。なんの役にも立たないスマホ。

と、突然そのスマホが、ピコンと光った。

『2501』

メッセージに突然暗証番号のような4桁の文字が入った。送り主は、アオ。

「アオ!?」

それを見て慌てて電話をかけるが、それに応答はなくて。「なんなんだよ……」と頭を掻いた。

「2501……2501……なんだこれ……」

その番号を眺める。

なんの暗号だ。
俺は推理は得意じゃない。
よくある推理小説だと……数字はどこかのコインロッカーの番号とか。暗証番号とか。なんの番号だよ……。

頭の中をぐるぐると巡る。4桁の数字。

「アオ~わかんねぇって……」

マンションを見上げて、どこかにいるアオに情けない声を出す。

黒い鳥が見える。
コウモリのように、直線的に飛ぶ姿。

「あんなたっかいところにコウモリ飛ぶんや……」

と、俺は4桁の番号をもう一度見た。

2501

マンションの下から、思わず数える。
1.2.3.4.……

そのマンションの高さはすぐに20階を越え、24.25.26……もう何階建やねん!とツッコミを入れると同時に、これかっ!!と走り出した。

先程のコンシェルジュがまた、怪訝そうな顔をしてこちらを見た。

「すいません、アオの部屋……あーさっきの、2501! 連絡、きました」

ドヤッという顔をして、心臓バクバク言わせて、俺はコンシェルジュの表情を読んだ。

「2501……あぁ、今しがた、来客者様対応依頼が来ております」

らいきゃくしゃ……? たいおういらい……

「こちらからお通しするように依頼承っております。」と、コンシェルジュは脇にある重厚そうな扉の横に、電子認証キーをかざした。

「え、そっちなん……」

先程、住民と思われるキーを持った人たちとは、違う入り口に通される。

「居住者様と来客者様は別ルートでのお通しとなっております」

コンシェルジュのあとについて、俺はマンションのエントランスを潜る。そこは黒を基調としたシックな作りとなっていて、開かれた空間にはエレベーターが2基設置されていた。こんなに大きなマンションでエレベーター2基なんて、よほど来客者が来ないのだろうか。

「ここから25階にあがってください。出て左に2501号室がございます」
「あ、ありがとうございます」

全然人がいない来客用通路を通って俺は、25階へ進む。緊張で心臓がバクバクしていて、1階ずつ光る階を示すライトをジッと、目で追った。

25の表示で、扉が開いた。
出て左。出て左に。

並ぶ扉を確認しながら、2501を探す。
おそらく1番端なのか。
端まで小走りをして見つけた。2501。

呼び鈴を鳴らすが、応答がない。
何度も鳴らして、でも、応答がなくて。

ノブに、手をかけた。
それはあまりにもすんなりとカチャリという音を立てて動いて、スッとその扉が、開いた。

「不用心すぎやろ……アオ……?」

ドアを開けると、目の前に広がったのは大きな窓から見える夜景で。
そしてその部屋は意外と普通の部屋で。
真っ黒のアオのイメージとは違う。
白い壁、白い床。
部屋の真ん中には、大きなベッドがあって、それはアオのイメージ通りの黒いベッドで。シワひとつない、綺麗なシーツがかけられている。

「アオ? ……おらんの?」

気配を感じない。
手前にある大きなソファに目をやりそっと、覗き込んだ。

端に、タオルのようなものから出た白い足が見えて、あまりに白いその足に俺は、ゴクリと、唾液を飲み込んだ。

「ア……オ……?」

真っ白の足は、血が通っていないように見えた。
背を、汗が流れた気がした。

何が起きたのか、目の前に何が起きているのか。

目を、ソファの前にあるローテーブルに移す。上には無造作にアオの黒い服が置かれていて、糸がちぎれたボタンがいくつか、丁寧に置いてある。

カラダ中の血液が、心臓に集まったかのように、ドクンドクンと音を立てて、でもそれがうまく回らなくて、頭がジンジン痺れるような気がした。

足首には、血が滲んでいて、それはすでに、固まっているように見えた。  

血液が一気に、脳内に流れ込んだように、頭で何かが波打っているようで、頭が、痛い。

その視線をゆっくりとずらす。

髪が、見える。
アオの、真っ黒の、少し長めの髪。

震える手で、その髪に触れた。
サラサラの、アオの髪。
昨日触れた、アオの髪。

ふっと小さく、息を吐いた。
そしてその髪を、そっとかき上げた。

現れたアオの顔は、眠っているようだった。
その顔は、生きた人間の、顔。
死んだ人間の顔色では、なかった。

俺はその瞬間、大きく息を吸った。

それはアオの生を確認した安堵か。
その状況に対する怒りか。

目に飛び込んできた受け入れ難い情報の数々。受け入れたくない、その情報を拒否する脳の働きと、それをつなげる神経の働き。それは無情にも神経が優位で。

全ての情報が繋がって、俺は、泣いた。
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