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サツキさんという人④
しおりを挟む【side アオ】
「サツキさん……」
「んあ?」
「窓際は……まずくないすか?」
「なんで?」
「飛んでくる奴らに見られますよ」
「……あぁ、まぁええやん、見せたったらええわ」
「……」
サツキさんは俺を腕枕しているが、どちらかというと腕枕をしているというよりは、俺に絡み付いている。
長い手足を俺に巻き付かせ、顔を俺の髪に埋めている。
正直、重い。
けどそれを言うと多分、怒る。
この人はすぐ、拗ねるから。
「アオぉ……明日も仕事?」
「うん……」
「明日も来るわ」
「……せめて、来ていいか聞いてもらっていいっすか」
「冷たいやつだなぁ……」
それ以上、何も言わない。
サツキさんが俺に会いにくる日。
それは、決まっている。多分。これは、予想だけど。
必ずそれは、仕事の日で。
仕事帰りにそのままウチに来る。
仕事できっと、何かがあったんだと思う。
一度、本部のケイに聞いたことがある。
サツキさんの仕事ってなんかやばいの?と。
ケイが言っていた。
「サツキさんクラスになるとグレードAの仕事振られるんだよ。あの人意外と繊細なんだよなぁ……」
詳しくは言われなかったけど。
ケイもサツキさんのことは知っている。
きっとなにかメンタル抉られたときに、ウチに来てるんだと、思っている。
グレードAの仕事。
それは難しい案件。
突然死や老衰ではない死。
俺にはまだわからない領域。
仕事をしていてメンタル抉られるようなことなんて、経験したことがない。サツキさんに何が起きているのか、俺は、知らない。
明日の仕事はもう連絡が来ているはずだから。
きっとそれを見て、明日の話をしたんだと思う。
サツキさんがムクッと起き上がって、さっき噛んだ俺の首筋にキスをした。
「……痛い?」
「平気です……」
俺に向ける顔は、すごく優しい。
この人の心が、わからない。
痛みを与えたいのか。
その割には、優しい痛み。
この痛みが、俺の心を癒したのも、事実。
ずっと孤独だった。
「は? ありえんし気持ち悪っ!」
忘れもしない。言葉。
友達だと思っていた。親友だと思っていた。
周りがどんどん彼女とやらを作っていき、その気持ちがよくわからない俺の出した結論。俺は、女には興味がないんじゃないか。それを、打ち明けた親友だと思っていた奴に、笑いながら投げられた言葉。
ソイツには、悪意はなくて。本気で拒否したわけでもなくて、笑いながら軽く投げられた言葉だった。まるで肩慣らしのキャッチボールのように。緩く投げられた。でも俺はその緩い言葉すら、受け取れなかった。変わらない友人関係は続いたが、壁があるような気がして。それは勝手な被害妄想だとわかっているのにそれを取っ払えなくて。
勝手に感じていた、孤独。
わかっているのに、手放すことができなかった孤独。
よくわかんないけどサツキさんの持っている痛みを少し俺に分けてくれた気がした。それが、俺の孤独を癒した。
どんだけ歪んでんねんと、思う。
それでも事実なんだから、仕方ない。
「サツキさん……」
「うん?」
「……うーん……」
「え、なに?」
「んや……なんでもない……」
なんかあったの?
なんでそんな顔してるの?
なんでウチに来るの?
なんで、俺なの?
聞きたいことはたくさんあるけど、それをグッと飲み込んだ。多分、真面目に答えてくれないと思ったし、それに、自分ががどんな答えを期待しているのか、俺にもわからない。
そんな俺の気持ちを知っているのか、サツキさんも「ふぅん」とジロリと俺を見てはいるが、それ以上は聞いてこない。
歪んでるとは思う。
それでも、必要な人。
それが、俺とサツキさんの関係。
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