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第二話 錆びついた体
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工場の裏口からまた荷台が運ばれてくる。錆だらけの機械、動かなくなったロボット達……。
替えはいくらでもあるのだろう。従業員は乱雑にそれらを捨て、さっさと工場内へと戻っていった。
その中のひとつのロボットは、少しの喜びを胸に、空を見上げた。
誰かが助けに来てくれるわけはない。でも、少しの土と草木が心地よかった。
――ボクは工場で生まれた。もう何十年も前のことだけれど、よく覚えている。自分が生まれた工場から違う工場へと出荷され、昨日までずっとそこで働いていた。人間と違ってロボットは睡眠をとる必要も食事をとる必要もない。燃料を補給する時以外はたぶんずっと働いていた。楽しくなかったかと言われれば、楽しかった。なにしろ、ボクは工場で働くために生まれたのだから、それが生きがいといっても過言ではなかった。……ただ、工場外へ行ったことのないボクは、少しだけ土に憧れていた。逃げようと思えば逃げられたけれど、やっぱりボクは、この仕事も仲間も好きだった。
だけど、この工場に来た時に一緒にいた仲間たちの殆どがもう古くなっていて、日に日に数が減っていくのは悲しかった。
そんな時、機械が壊れたとかで人間に呼び出された。こういう危険なことをするのはロボットの役目なのだ。ボクはその大きな機械の内部に入っていくと、どこに問題があるかを調べ始めた。
暫くすると機械から不審な音が鳴り始めたので、近くの人間には少し離れるように言った。細部を確認すると部品が欠けてしまっており、どうやらそれが原因らしかった。この間まで順調に動いていたことを考えると、誰かが間違った操作をして壊してしまったのだろうか? ボクは身体に内臓されている工具箱を取り出そうと手を伸ばした。しかしその瞬間機械は爆発し、咄嗟に逃げたもののボクの片足はダメになってしまった。もう片方も傷ついて……もう長くは使えないだろうと悟った。
――自分は古くなっていたし、新しい優秀なロボットはたくさんいた。捨て時だったのかもしれない。
廃棄場に向かう荷台の上で、そんなことを考える。
……ドサッ。
なんでもないように捨てられて、少し哀しくなった。もう少し、みんなと一緒にいたかった。
でも、ここでは空がこんなに広く見える。土の上に寝転がって鼻歌を歌う。けど、どこか虚しくて、少しだけ残った燃料を使って寝返りをうつ。
ふと、自分の近くに生えている小さな植物に気がついた。ここのところ雨が降っておらず、土は乾いている。まだ小さく、守ってやらなければ萎れてしまいそうだった。
近くで水が流れる音がする。
ボクはうまく動かない足を動かし、汲んできた水をそれに与えた。太陽の光に反射して水滴がキラキラと輝いている。その様子が何故かとても愛らしく思えた。独りじゃないことに、安心した。
「キミは大きくなったらどんな姿になるかな」
植物のことなんて殆ど知らないけれど、なぜかわくわくした。元気に育ってほしいと思ったが、できれば自分が動かなくなる前にその姿を見たくて、どうか木のような大きな植物ではありませんようにと願った。
水を運ぶ以外には、あまり動きたくなかった。燃料はただでさえ残り少ないというのに、動きまわったりすれば、すぐに無くなってしまうだろう。
終わりを待つだけのロボットにとって、汚い廃棄場に生えたその植物は、とても心強く、大切なものになっていた。
暫くして植物が殆ど育った頃、水を汲みに行ったロボットは気がついた。
自分の足がもう役に立ちそうにないことに。
汲めるだけ水を汲んで、花の元に戻るとロボットは言った。
「大きくなってね」
それからまた少し経ち……満天の星空の下で、ボクは元気に育った植物に目を向ける。
よかった。これなら、間に合いそうだ……。
「明日には、花、咲くかな」
――朝日が昇り始め、白い光が花を照らす。
「綺麗……」
思わず言葉が漏れた。
工場内で生活していたボクは花なんて数回しか見たことがないけれど、間違いなく世界で一番美しいと思った。
「――キミに出逢えてよかった」
一人で死を待つのは、きっと怖かった。初めて会った時から、キミは綺麗で、ずっとボクの心の支えだった。
最後のエネルギーを使って、その子に触れる。温度を感じない筈の体が少しだけ、あたたかくなったような気がした。
(後書き)
儚いお話を目指しました。というより書いていたら勝手にそんな感じになりました。
ロボットと花の組み合わせは何もしなくても儚いと勝手に思っています。
なんでそう思うんでしょうね。命の長さ、魂の有無故でしょうか。
今回初めて二話構成にしましたが、元々お花の方の視点しかありませんでした。でもロボットの心情なんかも書きたくなって付け足したら長くなったので、二話に分けました。
心がちょこっと温かくなってくれたら嬉しいです。
いいねやコメント、お待ちしています(´꒳`)
過去にも何作か出しているので覗いてみてくれると嬉しいです。
読んでいただきありがとうございました!
替えはいくらでもあるのだろう。従業員は乱雑にそれらを捨て、さっさと工場内へと戻っていった。
その中のひとつのロボットは、少しの喜びを胸に、空を見上げた。
誰かが助けに来てくれるわけはない。でも、少しの土と草木が心地よかった。
――ボクは工場で生まれた。もう何十年も前のことだけれど、よく覚えている。自分が生まれた工場から違う工場へと出荷され、昨日までずっとそこで働いていた。人間と違ってロボットは睡眠をとる必要も食事をとる必要もない。燃料を補給する時以外はたぶんずっと働いていた。楽しくなかったかと言われれば、楽しかった。なにしろ、ボクは工場で働くために生まれたのだから、それが生きがいといっても過言ではなかった。……ただ、工場外へ行ったことのないボクは、少しだけ土に憧れていた。逃げようと思えば逃げられたけれど、やっぱりボクは、この仕事も仲間も好きだった。
だけど、この工場に来た時に一緒にいた仲間たちの殆どがもう古くなっていて、日に日に数が減っていくのは悲しかった。
そんな時、機械が壊れたとかで人間に呼び出された。こういう危険なことをするのはロボットの役目なのだ。ボクはその大きな機械の内部に入っていくと、どこに問題があるかを調べ始めた。
暫くすると機械から不審な音が鳴り始めたので、近くの人間には少し離れるように言った。細部を確認すると部品が欠けてしまっており、どうやらそれが原因らしかった。この間まで順調に動いていたことを考えると、誰かが間違った操作をして壊してしまったのだろうか? ボクは身体に内臓されている工具箱を取り出そうと手を伸ばした。しかしその瞬間機械は爆発し、咄嗟に逃げたもののボクの片足はダメになってしまった。もう片方も傷ついて……もう長くは使えないだろうと悟った。
――自分は古くなっていたし、新しい優秀なロボットはたくさんいた。捨て時だったのかもしれない。
廃棄場に向かう荷台の上で、そんなことを考える。
……ドサッ。
なんでもないように捨てられて、少し哀しくなった。もう少し、みんなと一緒にいたかった。
でも、ここでは空がこんなに広く見える。土の上に寝転がって鼻歌を歌う。けど、どこか虚しくて、少しだけ残った燃料を使って寝返りをうつ。
ふと、自分の近くに生えている小さな植物に気がついた。ここのところ雨が降っておらず、土は乾いている。まだ小さく、守ってやらなければ萎れてしまいそうだった。
近くで水が流れる音がする。
ボクはうまく動かない足を動かし、汲んできた水をそれに与えた。太陽の光に反射して水滴がキラキラと輝いている。その様子が何故かとても愛らしく思えた。独りじゃないことに、安心した。
「キミは大きくなったらどんな姿になるかな」
植物のことなんて殆ど知らないけれど、なぜかわくわくした。元気に育ってほしいと思ったが、できれば自分が動かなくなる前にその姿を見たくて、どうか木のような大きな植物ではありませんようにと願った。
水を運ぶ以外には、あまり動きたくなかった。燃料はただでさえ残り少ないというのに、動きまわったりすれば、すぐに無くなってしまうだろう。
終わりを待つだけのロボットにとって、汚い廃棄場に生えたその植物は、とても心強く、大切なものになっていた。
暫くして植物が殆ど育った頃、水を汲みに行ったロボットは気がついた。
自分の足がもう役に立ちそうにないことに。
汲めるだけ水を汲んで、花の元に戻るとロボットは言った。
「大きくなってね」
それからまた少し経ち……満天の星空の下で、ボクは元気に育った植物に目を向ける。
よかった。これなら、間に合いそうだ……。
「明日には、花、咲くかな」
――朝日が昇り始め、白い光が花を照らす。
「綺麗……」
思わず言葉が漏れた。
工場内で生活していたボクは花なんて数回しか見たことがないけれど、間違いなく世界で一番美しいと思った。
「――キミに出逢えてよかった」
一人で死を待つのは、きっと怖かった。初めて会った時から、キミは綺麗で、ずっとボクの心の支えだった。
最後のエネルギーを使って、その子に触れる。温度を感じない筈の体が少しだけ、あたたかくなったような気がした。
(後書き)
儚いお話を目指しました。というより書いていたら勝手にそんな感じになりました。
ロボットと花の組み合わせは何もしなくても儚いと勝手に思っています。
なんでそう思うんでしょうね。命の長さ、魂の有無故でしょうか。
今回初めて二話構成にしましたが、元々お花の方の視点しかありませんでした。でもロボットの心情なんかも書きたくなって付け足したら長くなったので、二話に分けました。
心がちょこっと温かくなってくれたら嬉しいです。
いいねやコメント、お待ちしています(´꒳`)
過去にも何作か出しているので覗いてみてくれると嬉しいです。
読んでいただきありがとうございました!
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