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第一話 一輪の花
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君の命は長くって、ぼくの命は短いだろう。
一緒にいられる時間はそう長くない。
君にとってぼくとの時間は、ほんの一瞬に過ぎないのかもしれない。
だけど、その一瞬でも、君と共に過ごすことが出来たのならぼくは幸せだ。
――ぼくはこの大きなせかいに生まれて、そして、君と出逢った。
ぼくが生まれた場所は草木の少ない土地だった。辺りには人間が作ったであろう物がたくさん散らばっていた。でも、どれも少し汚く、新品とは言えなかった。
変なところだったけど、嫌いではなかった。空を見上げれば、綺麗な青色と星たちがよく見えた。
ぼくが生まれて少し経った頃、雨が降らない日が続いた。根もあまり伸びていないぼくは水分を補給できず喉が渇いていた。
そんな時、ひとりのロボットが近づいて来た。でも暫くこちらを見つめるとどこかへ行ってしまった。よくあることだ、とぼくは特に気にしなかった。
さっきまでと同じように、空を見上げる。白く長細い雲が空を横切っていた。見ているとそれは移動していき、ある鉄の塊に遮られた。せっかくおもしろかったのに見れなくなって、少し残念だった。しかし、その鉄塊を改めて見るとさっきのロボットだった。わざわざ水を汲んで来てくれたらしい。……優しいのだな。
たくさんの水がぼくの体に降りそそぐ。久しぶりのそれは体の渇きを充分に癒してくれた。
――その日から、そのロボットはずっとぼくの隣にいてくれる。水を汲んでくる時以外は、ずっと。
夜になると星がよく見える。
「今日も綺麗な星空だね」
ロボットはよくぼくに話しかけてくれる。だけど、花は喋れない。歩けないし、歌えない。だから、いつも君を眺めるだけ。
「『すき』って言いたくても言えない」
って、ひとは言うけど、たった一言「うん」と言うこともできないぼくは、そんなことを言うひとたちが羨ましい。
だからせめて、綺麗な花を咲かせようと思う。どんな花にも負けないくらい綺麗な花を。
――そして暫く経ったある日から、ロボットがぼくの側を離れなくなった。それはぼくのことを心配しているからなのか、どこか調子が悪いからなのかは分からなかった。
だけど、少し心配になった。例えずっと一緒にいられなくとも、長い君の人生で、ぼくという花を思い出のひとつにしてくれればいいと思っていた。それなのに、もし君の方が先にいなくなってしまったら……そうなった君の隣で、ぼくはどうすればいいのか。
星空の下で、君を見つめる。
風が冷たくても、大きな君の心が温めてくれる。
ふとこっちを向いた君が言った。
「明日には、花、咲くかな」
――空の色が明るくなって、太陽が昇り始めた頃
「綺麗……」
向かい合って君が言った。優しい笑顔が、朝日に照らされてきらきらと輝いている。
「キミに出逢えてよかった」
そう言って、そっとぼくに触れるその手は、せかいで一番優しかった。
――もう動かなくなった優しいロボットの隣で、朝露で煌めく一輪の美しい花が咲いていた。
(後書き)
読んでいただきありがとうございます。
次回、ロボット視点で続きます。お楽しみに(´꒳`)
よければいいねやコメント、お願いします。
一緒にいられる時間はそう長くない。
君にとってぼくとの時間は、ほんの一瞬に過ぎないのかもしれない。
だけど、その一瞬でも、君と共に過ごすことが出来たのならぼくは幸せだ。
――ぼくはこの大きなせかいに生まれて、そして、君と出逢った。
ぼくが生まれた場所は草木の少ない土地だった。辺りには人間が作ったであろう物がたくさん散らばっていた。でも、どれも少し汚く、新品とは言えなかった。
変なところだったけど、嫌いではなかった。空を見上げれば、綺麗な青色と星たちがよく見えた。
ぼくが生まれて少し経った頃、雨が降らない日が続いた。根もあまり伸びていないぼくは水分を補給できず喉が渇いていた。
そんな時、ひとりのロボットが近づいて来た。でも暫くこちらを見つめるとどこかへ行ってしまった。よくあることだ、とぼくは特に気にしなかった。
さっきまでと同じように、空を見上げる。白く長細い雲が空を横切っていた。見ているとそれは移動していき、ある鉄の塊に遮られた。せっかくおもしろかったのに見れなくなって、少し残念だった。しかし、その鉄塊を改めて見るとさっきのロボットだった。わざわざ水を汲んで来てくれたらしい。……優しいのだな。
たくさんの水がぼくの体に降りそそぐ。久しぶりのそれは体の渇きを充分に癒してくれた。
――その日から、そのロボットはずっとぼくの隣にいてくれる。水を汲んでくる時以外は、ずっと。
夜になると星がよく見える。
「今日も綺麗な星空だね」
ロボットはよくぼくに話しかけてくれる。だけど、花は喋れない。歩けないし、歌えない。だから、いつも君を眺めるだけ。
「『すき』って言いたくても言えない」
って、ひとは言うけど、たった一言「うん」と言うこともできないぼくは、そんなことを言うひとたちが羨ましい。
だからせめて、綺麗な花を咲かせようと思う。どんな花にも負けないくらい綺麗な花を。
――そして暫く経ったある日から、ロボットがぼくの側を離れなくなった。それはぼくのことを心配しているからなのか、どこか調子が悪いからなのかは分からなかった。
だけど、少し心配になった。例えずっと一緒にいられなくとも、長い君の人生で、ぼくという花を思い出のひとつにしてくれればいいと思っていた。それなのに、もし君の方が先にいなくなってしまったら……そうなった君の隣で、ぼくはどうすればいいのか。
星空の下で、君を見つめる。
風が冷たくても、大きな君の心が温めてくれる。
ふとこっちを向いた君が言った。
「明日には、花、咲くかな」
――空の色が明るくなって、太陽が昇り始めた頃
「綺麗……」
向かい合って君が言った。優しい笑顔が、朝日に照らされてきらきらと輝いている。
「キミに出逢えてよかった」
そう言って、そっとぼくに触れるその手は、せかいで一番優しかった。
――もう動かなくなった優しいロボットの隣で、朝露で煌めく一輪の美しい花が咲いていた。
(後書き)
読んでいただきありがとうございます。
次回、ロボット視点で続きます。お楽しみに(´꒳`)
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