ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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六月

Mission12 bloody past 4

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「あば……ッ」

気付くと彼らの目の前まで駆け出して、右の拳を放っていた。
拳は取り巻きの一人の頬を打ち付け、彼は後ろにあるハードルの規則正しい列へと突っ込んだ。

「テメエ……!」
「やりやがったな、東条ッ!」

鉄パイプを持った一人が早速それを振り下ろそうとかかってきた。
仲間がやられたことに対して激昂しているのだろう。

「ぅぐぅ……!?」

鈍器を手にして強くなった気でいたらしい。
振り上げた際にガラ空きになった腹に三日月蹴りを叩き込む。
その身躯は近くの壁に叩き付けられ、手からパイプを放す。

「…………」

ゆっくりと木刀を手にした取り巻きに近付く。
すると彼はまるで俺を気味の悪いものでも見るかの如く表情を浮かべ、その切っ先を向ける。

「く、来るんじゃねえ……!」

先端を向けてそう近寄らない様にしようとする。
けれど俺が彼らの制止を聞いてやる筋合いは一つもありはしない。
何故なら向こうが先にその約束を反故にしたのだから。
その顔面に手を伸ばし、潰さんばかりに掴む。

「べぶァっ!」

その状態でちょうど近くにあった壁に後頭部を打ち付ける。
彼はその場で地面に倒れながら頭の後ろを押さえて転げ回り始める。
そんな少年の腹に勢いよくつま先での蹴りを叩き込むと更に苦しそうにし出す。

「な、なーにそんなに怒ってんだよ……」
「そーそー……傷付けるフリをしただけじゃねーか……東条クン」

先ほど見せた害意はまるで冗談だとでも言う様な笑いを顔に貼り付けて、山下と取り巻きの一人が俺に近寄ってくる。

「悪かったよ、仲直りしようぜ。な?」

そう言って手を差し出してくる。
それに身構えていた俺は、その警戒を解いた──

「──なんて言うワケねえだろがッ!」
「死ねェ!」

──瞬間に背後に隠していたナイフで切り掛かってきた。
本来ならば避けられない和平の申し入れからの攻撃だ。
しかし俺は得物を持つ二人の手首を、自分の身体に当たる前に掴んだ。

「っ!?」

不可避の騙し討ちをなんで受け止めることができたか。
それは俺が彼らの言葉の一つひとつを信用していないからである。
故に二人の攻撃を受け止められた。

「ぎゃああっ……!」
「痛てぇ!?」

掴んだ手首にありったけの力を込めて、握り締める。
それに彼らは苦痛を顔に浮かべ、思わずナイフを手放す。
武器を失った二人の腕を引っ張り、地面にその身体を叩き付ける。

「ぐあッ」
「ぁぐ……っ」

背を打ち、痛みに顔をしかめる二人。
そんな彼らの腹を踏み付けると顔中から脂汗を滲み出させながら苦悶する。

「へっ……くたばれェ!」

突如視界が大きく揺れた。まるで神が世界を左右に揺さぶっている様だ。
それと同時に頭頂部に走った鈍い痛みを感じる。
くるりと後ろを振り向いてみる。

「じ、冗談だろ……」

そこには先ほど三日月蹴りを叩き込んでやった少年が鉄パイプを手に立っていた。
俺が殴られてすぐに倒れないことに驚愕しているのだろう。
仰天のあまり動くことを忘れている彼のおもてを裏拳で打つ。

「へぶァっ!?」

これは威力はパンチに比べると威力は劣るが顔面を叩けば脳を揺らして気絶させることができる。
彼はその場に倒れて意識を手放した。

「な……なんだよっ、この化け物……ッ!」

背後で一人の少年が恐怖で身体を震わせてそう言った。
山下だ。彼は両目から涙を流し、俺から逃げようとしている。

──次のターゲットはあいつだ。

この場から一人逃げ出そうとしている彼へとゆらりと接近していく。
彼は逃げようとはしているものの腰が抜けているらしく、立てない。

「や、やめろ……ッ!来るんじゃねぇ!」

立てない彼はその場で足をじたばたとさせて、なんとか俺との距離を離そうとする。
けれど足をばたつかせてもただ虚しく空を蹴るだけで逃げることはできなかった。

「やめろッ!やめ──」

精一杯懇願する。接近してこない様に。
しかしそんな彼の願いを聞き入れない代わりに顔面に拳を叩き付けた。
ゴリ、と鈍いなにかが壊れる音が響いた。恐らく鼻の折れた音だ。

「やめッ──お、れが……悪か……っ……」

鼻が折れて相当な痛みが走っているにも関わらず彼は謝罪の言葉を紡ごうとする。
けれど俺は関係なしに山下に馬乗りになるとその面に拳骨げんこつを喰らわした。

「へぶっ……や、め……でく……っ」

殴られている時も遠慮なく顔面への殴打を止める様に言ってくる。
それでもありったけの力で殴り続けたので彼の人中じんちゅうが切れて血が湧出してきた。
俺の拳は彼を殴る度に湧き出た鮮血によって赤く染まっていく。

「…………」

ある程度殴ると彼は意識を手放した。
関係ない。俺は殴り続けた。
そんな作業・・がしばらく続いて、手に鈍い痛みを感じて殴ることを止めた。
手の甲を見てみると擦り切れ、出血していたのだ。当然だろう。力の限り山下の顔面を打ち付けていたのだから。
彼の血と俺の血が拳で混ざり合って、生臭い匂いを放つ。

──けれど関係ない。

再び殴ろうと拳を振り上げると突然視界がぐらりと歪んだ。
先ほど鉄パイプで殴られた衝撃が今脳に到達したのだろう。
これ以上殴れないな、と薄れゆく意識の中で思う。

──その時、偶然置いてあるスポーツミラーに映った自分の顔が目に入った。

その顔は……悪魔の如く笑みを浮かべていた。
そして保てなくなった意識を手放し、そこいらに血の散った惨憺さんたんたる空間の中に倒れる。

「大丈夫か!なにがあっ──」

突然倉庫の扉が乱暴に開かれる。
開いたのはジャージに身を包んだ体育教師だ。
そして彼は開けた瞬間に視界に映る異常な光景に、後ろに倒れて尻を地面に打ち付けた。

「な、なんだ……これは……!?」
「どうしました──……」

新たに教師が二、三人駆け込んでくるが全員がその血まみれた空気に驚きを隠せずにいた。
しかし両手を縛られた鶫を見て、

「と……東条さん……一体なにが……」

教師は説明を求める。
鶫は震えながらもこの狂った状況の説明をしようとするが、

「そんなことより……た、担架っ!担架だ!運ぶぞ!」

怪我人をすぐに処置することが重要だと考えた別の教師はそう叫ぶ。
そうして血に染まった俺と山下、そしてその取り巻きたちは運び出された。
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