ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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六月

Mission10 bloody past 2

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──場面は変わり、大和がメールを受け取った時の体育倉庫内

「クク……」

そこには端末を手に、酷く歪んだ笑みを浮かべる少年がいた。
彼はくるりと振り返ると目の前にいる同級生の男子たちに言った。

「喜べ、アイツが来るみてえだ」
「おお、やったな!」

その報告に全員がわいわいと騒ぐ。
……しかし一人は違った。

「大和クン……」

その一人というのは鶫だった。
彼女は少年たちの足元に座り込んでいた……両手を後ろで縛られた状態で。
その心配そうな呟きを聞き、スマホを持った少年は彼女の目の前にしゃがんだ。

「やったな。お前の従兄、来るってよ」
「卑怯者……」

奥歯を食いしばり、罵りの言葉を吐き出して、怒りを込めて睥睨した。
しかしそれは彼を怒らせる材料にはならず、少年は鼻で笑うと「おお怖い怖い」と笑いながら言うだけだった。

「それにしても前々からアイツ、気に食わねえと思ってたんだよな」
「ちょーっと頭がいいからってな、タゴサク風情が」

目の前で従兄がそしられているが今の鶫は睨むことくらいしか許されていなかった。
立ち上がろうにも手首を縛られた状態では立つのは困難だった。
自由を封じられた彼女は耳を塞ぐこともできずに好き勝手に言う言葉を聞くしかない。

「気に入らねえ奴はボコる、ってのがいつもの俺たちのやり方だけどよ……」
「ああ。アイツは強え、癪だがよ。だからこうして人質を取った」

──その中学は有名な進学校だった。

そして彼らはその進学校でも珍しい不良だった。
落ちこぼれた彼らは成績の優秀な生徒たちを自分たちと同じ水底へと引きずり込もうとしていたのだ。
そして東条大和、彼もその一人にされてしまった。

「……へぇ、だから私を連れて来たんだ」

鶫は自分の連れて来られた意味を知る。
彼女は餌だ、大和をここにおびき寄せるための。

「ああ。アイツと違ってお前は女だしな、楽に捕まえられたぜ。こうすりゃアイツも大人しく殴られてくれンだろ」
「ハハ、きったねえァ、山下!」
「きたねえ?戦略家の間違いだろ」

性根同様に汚らしい笑い声が庫内に反響する。
そして足元にいる鶫を見下ろして言った。

「アイツをボコり終えたらみんなでコイツをヤろうぜ」
「おっ、いいねェ!」
「……だ」

少女は微かな声量で呟いた。
それに少年らの声は少しずつ静まっていく。

「あ?」
「なんか言ったか、鶫チャン?」

その問いに対し、先ほどやられた様に鼻で笑い返す。
そして見下す様な視線を向け、言った。

「正面切ってじゃ勝てないから私を捕まえたんだ」
「なんだと……?」

その挑発にリーダー格の少年、山下は鶫の胸倉を掴む。
いきなりぐいっと服を引っ張られ一瞬怯むものの更に口撃を与える。

「情けないね、男なのに。性根が腐ってるよ」

嘲笑する様な口調で更に彼らを小馬鹿にする。

「テメ……ッ!」

それに対し、少年は怒りを隠すことなく両手を首に回した。
そして目を充血させながら言った。

「なにテメーもバカにしてンだ!あァ!?」
「あ……が……ッ」
「女だからって優しくすると思うンじゃねえぞ!」

両手に更に力を込める。
それと同時に鶫の細い首は締まっていき、身体は酸素を求める様になる……つまりは息苦しくなる。

「ふんッ」
「ぐぅ……っ」

首から手を離すと再び胸倉を掴み、持ち上げると同時に投げる。
彼女の身体は近くに置かれていた跳び箱にぶつかり、背中に鈍い熱を与える。

「調子乗りやがって、このアマ!」
「はぁ……はぁ……」

肺の奥まで吸うことを許された酸素を思い切り吸って息を整える。
しかしそんな僅かな時さえも許可してくれない少年は言った。 

「安心しろよ、アイツをボコったらお前も可愛がってやるから」
「……ってか、アイツが来るまでに死んでなけりゃなにしてもいんじゃね?」

下卑た笑みを浮かべ、一人がそう提案をする。
それに賛成するとでも言うかの様にリーダー格の少年は懐中からナイフを取り出して笑ってみせた。

「……そーいうワケだ。可愛い顔に傷を付けられたくなきゃ俺たちの言うことを聞けよ」
「…………」

流石に刃を顔に向けられては下手に口を開くこともできない。
両手と口の権利を奪われた鶫は跳び箱に背を預けた。

「そーそー、最初ッからそう大人しくしてりゃいいンだよ」

大人しくなった鶫から離れると山下は倉庫の扉へと身体を向ける。
そして彼女に向けていたナイフをしまった。

「来いよ、東条……お前もドン底に引きずり落としてやるからよ」
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