ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

文字の大きさ
上 下
70 / 92
兵革の五月[May of Struggle]

Mission32 ベアトリクスVS篝

しおりを挟む
紅宮さんはベアの間合いに入ると同時に刀を水平に振るった。
ベアは一瞬斧で受け止めようとしたが途中でやめて、後ろに飛び退いて避けた。

「燃える刀だなんて……随分と面白い武器を使いますわね」
「“紅蓮ぐれん”。対テロ党の科学力を集結した結晶だ。今貴様が避けたのは賢明な判断だ」
「でしょうね。受け止めるだけでも危なそうですもの」

斧を構えるとベアは彼女の肉薄を警戒する。
重量のある斧は一撃一撃のダメージは大きいものの動きは制限される。
常に警戒していないと受け止めることも回避もできないまま敗北してしまう。

「燃える刀か……まさかあんな武器が存在するなんてな……」
「難しいの?技術的に」
「ああ。難しいだろうな。刀身に炎を纏わせるには当然だが燃料が必要だ。しかし見た感じ彼女は燃料タンクの様なものを持っていない。恐らく燃料はあの柄にでも入れられているんだろう」

柄に入れられている燃料で刀を燃やしているわけか。
刀と火炎放射器を合わせた武器と考えれば判りやすい。

「しかし柄だけでは入れられる燃料の量もそこまではないはずだ……」
「……だろうな。あんな風に燃やしてたらすぐになくなりそうな気がするぜ」
「なら燃料切れを狙って攻撃すれば……」

刀が燃えている状態では接近戦を仕掛けるのが困難だ。
彼女がそれに気付いて燃料切れを狙えば勝機はある。

(あの刀は刀身に炎を纏わせてる……炎を纏わせるには当然ながら燃料が必要。その燃料がなくなれば炎を出すこともできないはず……)
「……少し、いいかしら」

武器を構えたままベアはそう言った。
これから接近して刀による攻撃を叩き込もうと思っていた紅宮さんは「……なんだ」と言いつつ、攻め込むのを中断した。

「わたくしは確かに密入国をしましたわ。でも対テロ党は、あなたのやってることは些かならずやり過ぎな気がするんですけれど……」
「秩序を守るワタシたちとしては貴様にどんな理由があろうと関係ない。殺すか捕らえるだけだ」
「……随分過激ラジカルな思想を持っているみたいですわね」

一度息を吐くと斧を構え直した。
それと同時に紅宮さんが燃ゆる刀を手に肉薄する。

「はあっ!」
「はっ!」

ベアはそんな彼女の一撃を受け止めるのではなく、彼女と同じタイミングで斧を振るった。
二つの得物がぶつかり合い、火の粉を散らす。

「っ……熱い……」
「重いな……」

両者、相手の攻撃を受け止めてそう感想を呟く様に言った。
炎を放っている紅宮さんはの刀の方が有利かと思ったがそうでもないみたいだ。
ベアは熱さに、紅宮さんは重さに耐えているとやがて炎が消えてしまった。

「ちっ……消えたか」
(燃料切れ!チャンスですわ──)

炎の消えた刃をそのまま押し切ってしまおうと斧へと入れている力を更に込める。
しかし紅宮さんは一度バックステップで距離を取ると刀を鞘へと戻した。

「何故刀をしまって……?」
「……しばらく待て」

彼女は刀を鞘に収めたままそう言った。
けれど刃が鞘に収まったままという好機を逃すはずもなく、

「待つわけがないでしょう!」

ベアは斧を握りしめて肉薄する。

「喰らいなさいっ!」
「くっ……」

紅宮さんは佩刀はいとうしたまま彼女の一撃を避ける。
大振りなだけあって回避するのは容易そうだ。
彼女はしばらくベアの攻撃を回避すると鞘から刀を引き抜いた。

「ッ!?なんで……」

ベアは刀身を見て、驚きを隠せずにいた。
それもそうだろう。一度消えたはずの紅炎をまた刀身に纏っているのだから。

「また火が……!」
「……そうか、鞘にも燃料が入っているんだ」

神崎さんは一人納得した様に独り言ちた。

「どういうこと?千秋」

そんな彼女へとレイは説明を求める。

「普段刀を燃やす際は柄の燃料を使うが燃料切れを起こした時は鞘の方に入っている燃料を補給しているんだ」
「だからさっき刀を戻したのか……」

刀を鞘に戻すというのは燃料補給を目的とした行動だったということが判った。
そうでもなければ鞘に戻す理由がない。

「燃える刀……燃料の補給方法も独特ユニークね」

俺たちの背後に立ち、グラウンドの方を見ながらそう言う者がいた。
振り返ってみるとそこには濡れた様な黒髪を風になびかせている美少女が立っていた。

「あっ、渚ちゃん。どこにいたの?」
「食堂よ。日替わりランチ、美味しかったわ」

全校生徒が動くくらいの戦いイベントがあるというのに食堂にいたのか。
彼女は他人に左右されない、マイペースなところがある。

「そういや昼まだだった……」
「多分昼は二人の戦いで潰れるわね。だから、ほら」

そう言って彼女は俺たちの目の前にとあるものを差し出した。
レジ袋だ。中にはおにぎりや菓子パン、炭酸飲料の入ったペットボトルなどがどっさりとある。

「これは?」
「食堂の人に渡されたのよ。みんなアリーナに行ってるみたいで食堂に人がいないから『今日は人があまり来ないし、無駄になるから持ってって』って」

ありがたい。空腹のまま午後の授業を受けるのは流石にキツい。
渚と食堂の人に感謝し、俺たちは昼食をとることとする。

「そういえば……彼女、ベアトリクスは本当に密入国なんてしたのかしら?」
「あ、そういえばそれってどうなんだろう……」

それは俺たち全員が気になっていたことだ。
彼女が密入国をしたというのは事実らしいが何故密入国をしたのか。俺たちは真実を知りたかった。

「紅宮さんは理由なんて関係ないって言ってたけど……気になるよね」

森さんの言葉に皆頷いた。
俺たちは二人の戦いの結末を見届けるという覚悟を決めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

3000年後の地球からやって来た未来人

ケイ・ナック
SF
SFショートショート

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...