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兵革の五月[May of Struggle]
Mission32 ベアトリクスVS篝
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紅宮さんはベアの間合いに入ると同時に刀を水平に振るった。
ベアは一瞬斧で受け止めようとしたが途中でやめて、後ろに飛び退いて避けた。
「燃える刀だなんて……随分と面白い武器を使いますわね」
「“紅蓮”。対テロ党の科学力を集結した結晶だ。今貴様が避けたのは賢明な判断だ」
「でしょうね。受け止めるだけでも危なそうですもの」
斧を構えるとベアは彼女の肉薄を警戒する。
重量のある斧は一撃一撃のダメージは大きいものの動きは制限される。
常に警戒していないと受け止めることも回避もできないまま敗北してしまう。
「燃える刀か……まさかあんな武器が存在するなんてな……」
「難しいの?技術的に」
「ああ。難しいだろうな。刀身に炎を纏わせるには当然だが燃料が必要だ。しかし見た感じ彼女は燃料タンクの様なものを持っていない。恐らく燃料はあの柄にでも入れられているんだろう」
柄に入れられている燃料で刀を燃やしているわけか。
刀と火炎放射器を合わせた武器と考えれば判りやすい。
「しかし柄だけでは入れられる燃料の量もそこまではないはずだ……」
「……だろうな。あんな風に燃やしてたらすぐになくなりそうな気がするぜ」
「なら燃料切れを狙って攻撃すれば……」
刀が燃えている状態では接近戦を仕掛けるのが困難だ。
彼女がそれに気付いて燃料切れを狙えば勝機はある。
(あの刀は刀身に炎を纏わせてる……炎を纏わせるには当然ながら燃料が必要。その燃料がなくなれば炎を出すこともできないはず……)
「……少し、いいかしら」
武器を構えたままベアはそう言った。
これから接近して刀による攻撃を叩き込もうと思っていた紅宮さんは「……なんだ」と言いつつ、攻め込むのを中断した。
「わたくしは確かに密入国をしましたわ。でも対テロ党は、あなたのやってることは些かならずやり過ぎな気がするんですけれど……」
「秩序を守るワタシたちとしては貴様にどんな理由があろうと関係ない。殺すか捕らえるだけだ」
「……随分過激な思想を持っているみたいですわね」
一度息を吐くと斧を構え直した。
それと同時に紅宮さんが燃ゆる刀を手に肉薄する。
「はあっ!」
「はっ!」
ベアはそんな彼女の一撃を受け止めるのではなく、彼女と同じタイミングで斧を振るった。
二つの得物がぶつかり合い、火の粉を散らす。
「っ……熱い……」
「重いな……」
両者、相手の攻撃を受け止めてそう感想を呟く様に言った。
炎を放っている紅宮さんはの刀の方が有利かと思ったがそうでもないみたいだ。
ベアは熱さに、紅宮さんは重さに耐えているとやがて炎が消えてしまった。
「ちっ……消えたか」
(燃料切れ!チャンスですわ──)
炎の消えた刃をそのまま押し切ってしまおうと斧へと入れている力を更に込める。
しかし紅宮さんは一度バックステップで距離を取ると刀を鞘へと戻した。
「何故刀をしまって……?」
「……しばらく待て」
彼女は刀を鞘に収めたままそう言った。
けれど刃が鞘に収まったままという好機を逃すはずもなく、
「待つわけがないでしょう!」
ベアは斧を握りしめて肉薄する。
「喰らいなさいっ!」
「くっ……」
紅宮さんは佩刀したまま彼女の一撃を避ける。
大振りなだけあって回避するのは容易そうだ。
彼女はしばらくベアの攻撃を回避すると鞘から刀を引き抜いた。
「ッ!?なんで……」
ベアは刀身を見て、驚きを隠せずにいた。
それもそうだろう。一度消えたはずの紅炎をまた刀身に纏っているのだから。
「また火が……!」
「……そうか、鞘にも燃料が入っているんだ」
神崎さんは一人納得した様に独り言ちた。
「どういうこと?千秋」
そんな彼女へとレイは説明を求める。
「普段刀を燃やす際は柄の燃料を使うが燃料切れを起こした時は鞘の方に入っている燃料を補給しているんだ」
「だからさっき刀を戻したのか……」
刀を鞘に戻すというのは燃料補給を目的とした行動だったということが判った。
そうでもなければ鞘に戻す理由がない。
「燃える刀……燃料の補給方法も独特ね」
俺たちの背後に立ち、グラウンドの方を見ながらそう言う者がいた。
振り返ってみるとそこには濡れた様な黒髪を風になびかせている美少女が立っていた。
「あっ、渚ちゃん。どこにいたの?」
「食堂よ。日替わりランチ、美味しかったわ」
全校生徒が動くくらいの戦いがあるというのに食堂にいたのか。
彼女は他人に左右されない、マイペースなところがある。
「そういや昼まだだった……」
「多分昼は二人の戦いで潰れるわね。だから、ほら」
そう言って彼女は俺たちの目の前にとあるものを差し出した。
レジ袋だ。中にはおにぎりや菓子パン、炭酸飲料の入ったペットボトルなどがどっさりとある。
「これは?」
「食堂の人に渡されたのよ。みんなアリーナに行ってるみたいで食堂に人がいないから『今日は人があまり来ないし、無駄になるから持ってって』って」
ありがたい。空腹のまま午後の授業を受けるのは流石にキツい。
渚と食堂の人に感謝し、俺たちは昼食をとることとする。
「そういえば……彼女、ベアトリクスは本当に密入国なんてしたのかしら?」
「あ、そういえばそれってどうなんだろう……」
それは俺たち全員が気になっていたことだ。
彼女が密入国をしたというのは事実らしいが何故密入国をしたのか。俺たちは真実を知りたかった。
「紅宮さんは理由なんて関係ないって言ってたけど……気になるよね」
森さんの言葉に皆頷いた。
俺たちは二人の戦いの結末を見届けるという覚悟を決めた。
ベアは一瞬斧で受け止めようとしたが途中でやめて、後ろに飛び退いて避けた。
「燃える刀だなんて……随分と面白い武器を使いますわね」
「“紅蓮”。対テロ党の科学力を集結した結晶だ。今貴様が避けたのは賢明な判断だ」
「でしょうね。受け止めるだけでも危なそうですもの」
斧を構えるとベアは彼女の肉薄を警戒する。
重量のある斧は一撃一撃のダメージは大きいものの動きは制限される。
常に警戒していないと受け止めることも回避もできないまま敗北してしまう。
「燃える刀か……まさかあんな武器が存在するなんてな……」
「難しいの?技術的に」
「ああ。難しいだろうな。刀身に炎を纏わせるには当然だが燃料が必要だ。しかし見た感じ彼女は燃料タンクの様なものを持っていない。恐らく燃料はあの柄にでも入れられているんだろう」
柄に入れられている燃料で刀を燃やしているわけか。
刀と火炎放射器を合わせた武器と考えれば判りやすい。
「しかし柄だけでは入れられる燃料の量もそこまではないはずだ……」
「……だろうな。あんな風に燃やしてたらすぐになくなりそうな気がするぜ」
「なら燃料切れを狙って攻撃すれば……」
刀が燃えている状態では接近戦を仕掛けるのが困難だ。
彼女がそれに気付いて燃料切れを狙えば勝機はある。
(あの刀は刀身に炎を纏わせてる……炎を纏わせるには当然ながら燃料が必要。その燃料がなくなれば炎を出すこともできないはず……)
「……少し、いいかしら」
武器を構えたままベアはそう言った。
これから接近して刀による攻撃を叩き込もうと思っていた紅宮さんは「……なんだ」と言いつつ、攻め込むのを中断した。
「わたくしは確かに密入国をしましたわ。でも対テロ党は、あなたのやってることは些かならずやり過ぎな気がするんですけれど……」
「秩序を守るワタシたちとしては貴様にどんな理由があろうと関係ない。殺すか捕らえるだけだ」
「……随分過激な思想を持っているみたいですわね」
一度息を吐くと斧を構え直した。
それと同時に紅宮さんが燃ゆる刀を手に肉薄する。
「はあっ!」
「はっ!」
ベアはそんな彼女の一撃を受け止めるのではなく、彼女と同じタイミングで斧を振るった。
二つの得物がぶつかり合い、火の粉を散らす。
「っ……熱い……」
「重いな……」
両者、相手の攻撃を受け止めてそう感想を呟く様に言った。
炎を放っている紅宮さんはの刀の方が有利かと思ったがそうでもないみたいだ。
ベアは熱さに、紅宮さんは重さに耐えているとやがて炎が消えてしまった。
「ちっ……消えたか」
(燃料切れ!チャンスですわ──)
炎の消えた刃をそのまま押し切ってしまおうと斧へと入れている力を更に込める。
しかし紅宮さんは一度バックステップで距離を取ると刀を鞘へと戻した。
「何故刀をしまって……?」
「……しばらく待て」
彼女は刀を鞘に収めたままそう言った。
けれど刃が鞘に収まったままという好機を逃すはずもなく、
「待つわけがないでしょう!」
ベアは斧を握りしめて肉薄する。
「喰らいなさいっ!」
「くっ……」
紅宮さんは佩刀したまま彼女の一撃を避ける。
大振りなだけあって回避するのは容易そうだ。
彼女はしばらくベアの攻撃を回避すると鞘から刀を引き抜いた。
「ッ!?なんで……」
ベアは刀身を見て、驚きを隠せずにいた。
それもそうだろう。一度消えたはずの紅炎をまた刀身に纏っているのだから。
「また火が……!」
「……そうか、鞘にも燃料が入っているんだ」
神崎さんは一人納得した様に独り言ちた。
「どういうこと?千秋」
そんな彼女へとレイは説明を求める。
「普段刀を燃やす際は柄の燃料を使うが燃料切れを起こした時は鞘の方に入っている燃料を補給しているんだ」
「だからさっき刀を戻したのか……」
刀を鞘に戻すというのは燃料補給を目的とした行動だったということが判った。
そうでもなければ鞘に戻す理由がない。
「燃える刀……燃料の補給方法も独特ね」
俺たちの背後に立ち、グラウンドの方を見ながらそう言う者がいた。
振り返ってみるとそこには濡れた様な黒髪を風になびかせている美少女が立っていた。
「あっ、渚ちゃん。どこにいたの?」
「食堂よ。日替わりランチ、美味しかったわ」
全校生徒が動くくらいの戦いがあるというのに食堂にいたのか。
彼女は他人に左右されない、マイペースなところがある。
「そういや昼まだだった……」
「多分昼は二人の戦いで潰れるわね。だから、ほら」
そう言って彼女は俺たちの目の前にとあるものを差し出した。
レジ袋だ。中にはおにぎりや菓子パン、炭酸飲料の入ったペットボトルなどがどっさりとある。
「これは?」
「食堂の人に渡されたのよ。みんなアリーナに行ってるみたいで食堂に人がいないから『今日は人があまり来ないし、無駄になるから持ってって』って」
ありがたい。空腹のまま午後の授業を受けるのは流石にキツい。
渚と食堂の人に感謝し、俺たちは昼食をとることとする。
「そういえば……彼女、ベアトリクスは本当に密入国なんてしたのかしら?」
「あ、そういえばそれってどうなんだろう……」
それは俺たち全員が気になっていたことだ。
彼女が密入国をしたというのは事実らしいが何故密入国をしたのか。俺たちは真実を知りたかった。
「紅宮さんは理由なんて関係ないって言ってたけど……気になるよね」
森さんの言葉に皆頷いた。
俺たちは二人の戦いの結末を見届けるという覚悟を決めた。
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