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兵革の五月[May of Struggle]
Mission30 火花を散らす二人
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──昼休み
「さて、と……行くか」
俺は財布を手に取ると席から立ち上がる。食堂に向かうためだ。
この学園は食堂にもかなり力を入れており、和洋中それぞれの料理を極めた料理人を呼んでいて美味な上に値段が大体四百円から高くても八百円程度と安い。
今日はなにを食べようか、日替わり定食でも頼もうか、と廊下を歩きながらそんなことを考える。
「……ん?」
そんな時、なんだか廊下が騒がしいと感じた。
わいわいがやがやとした平和な騒がしさではなく、ざわざわとしたなにか事件でも起きたかの様な騒がしさだ。
「中庭で編入生同士が戦り合ってるみたいだぜ、中庭で」
「マジかよ、早く先生を呼んで来ないと」
一体なんだろうと近くにいた生徒の会話を盗み聞く。
編入生同士が戦っている?それって……ベアともう一人が?
俺は食堂に向かうという予定を変更し、中庭へと駆けていく。
俺が一階への階段を降りると中庭前の廊下が人でぎっちりと溢れていた。
「うわっ……凄い人だかり……!」
「よぉ、大和。その様子だと編入生同士がバトってるって聞いたみてえだな」
学年に関係なく目白押しになっている野次馬の中でそう俺に手を振る人間がいた。
直巳だ。彼は密集する生徒たちの少し後ろで様子を見ていた。
「直巳!ああ、一体なにがあったの……?」
「なんでももう一人の編入生がベアチャンに襲いかかったらしい」
「襲いかかった……?なんでそんな……」
──って、今は理由なんてどうでもいいか。
俺は人と人の集まっているその空隙を見つけ、身体をねじ込む様にして進む。
凄まじい数の野次馬だ。少しでも気を抜けば人波に飲まれてしまうだろう。
窒息寸前になりつつ、俺はなんとか人混みの最前へとやって来る。
「極悪なテロリストめっ!“対テロ党”の一員として貴様を断罪する!」
「テロリストっ!?なんか誤解が──」
そこで俺は目撃した。
今朝初めて逢ったベアがもう一人の編入生に襲われている様子を。
「問答無用!切り伏せてくれるっ!」
もう一人の編入生は手にした刀をベアへと向けて振るっている。
けれどベアは丸腰だ。つまり彼女は武器を持たない相手を襲っていることになる。
「止め──」
「止めてっ!」
腰の脇差に手を触れると俺は二人の間に割って入ろうとした。
しかし俺よりも先に二人の間へと飛び出した者がいた。
「ッ!なんのつもりだ……!」
「丸腰の相手を襲うなんてダメだって!」
それは凛華だった。
愛用するサーベルで編入生の刃を受け止める。
「対テロ党に仇なすならば容赦はしない──ぞ……」
突然二人の間を割って入った凛華に対して鋭い視線を向けるがどうしたことだろう。
突然刀を持つ彼女は刀を下げてしまった。
「何故お前がここに……!?」
「え?」
「いや、それよりもお前もここに来たならば奴がテロリストであることは知っているはずだ!何故止める!?」
一瞬狼狽える様な表情を見せたもののすぐに彼女は得物を構え直し、問いと同時に凛華に向ける。
けれど凛華はいきなり問われて当惑している。
「なんのこと……?あの子がテロリストって……?」
「寝ぼけてるのか?指令を受けただろう。密入国者である奴を捕らえろ、生死は問わないと……」
「???」
そんなことを言われても……といった表情を浮かべている。
一体どういうことだ?凛華と彼女は知り合いなのか?俺も状況を理解できずにいる。
「待ちなさい」
そんな時、人混みの中から冷たい声が聞こえてくる。
がやがやとしていた野次馬たちが一斉に静まり、声の主のために左右によって道を作る。まるでモーゼが海を割った様だ。
「流城先生……」
その道を一人の女性が歩いて、中庭へとやって来る。
──数日前、湖城・流城両家の和平を終えた後、俺たちの学校へと教師として異動してきた文香さんだ。
彼女は1年A組の副担任となったので俺たちは今日から文香さんではなく、流城先生と呼んでいる。
そういえば編入生もA組だ。彼女は止めに来たのだろう。
その証拠にレディスーツの内側から取り出した拳銃を彼女へと向ける。
「……ワタシを撃つつもりですか?ワタシよりもそこのテロリストを断罪すべきだと思いますが。それにワタシは対テロ党の所属です。ワタシを撃てばイージスがどうなるか……判って銃口を向けているんですよね?」
対テロ党は自衛隊とは違った独自の部隊を有する日本の政党だ。
今彼女を撃てばそれは国家への叛逆を意味する。
たった一発の銃弾がイージスの命運を握っているのだと理解した俺たちは固唾を呑んだ。
「……紅宮篝さん、あなたが対テロ党の所属だろうと任務でこの学園に来たんだろうと関係ない。あなたは対テロ党の所属であると同時にその学園の生徒でもある。まずはこの学園の『法律』に従ってもらうわ」
「法律……?」
そう、と流城先生は拳銃と視線を向けたまま頷いた。
「負けた方が勝った方の言うことを聞く。それがここでの法律よ。そしてこの学園には生徒同士での模擬戦の場……アリーナが設けられているわ」
「そこで戦って言うことを聞かせろ、と」
「そういうこと。この条件を飲み込んでくれるかしら?」
彼女、紅宮篝は一度周りを見回す。
彼女の双眸に映ったのは武器を手にした俺たちと流城先生だ。
(ふむ……丸腰の奴を仕留めても他の奴らが黙ってなさそうだ)
そうなっては自分も無事では済まないし、任務を遂行できない。
そう考えた紅宮さんは刀を鞘に収めた。つまりそれはイエスということだった。
「よかったわ、話が判るみたいで」
流城先生は彼女に向けていた拳銃を下げるとスーツの内側へと戻す。
数秒経過し、俺たちはアリーナと呼ばれる施設への移動を開始する。
「さて、と……行くか」
俺は財布を手に取ると席から立ち上がる。食堂に向かうためだ。
この学園は食堂にもかなり力を入れており、和洋中それぞれの料理を極めた料理人を呼んでいて美味な上に値段が大体四百円から高くても八百円程度と安い。
今日はなにを食べようか、日替わり定食でも頼もうか、と廊下を歩きながらそんなことを考える。
「……ん?」
そんな時、なんだか廊下が騒がしいと感じた。
わいわいがやがやとした平和な騒がしさではなく、ざわざわとしたなにか事件でも起きたかの様な騒がしさだ。
「中庭で編入生同士が戦り合ってるみたいだぜ、中庭で」
「マジかよ、早く先生を呼んで来ないと」
一体なんだろうと近くにいた生徒の会話を盗み聞く。
編入生同士が戦っている?それって……ベアともう一人が?
俺は食堂に向かうという予定を変更し、中庭へと駆けていく。
俺が一階への階段を降りると中庭前の廊下が人でぎっちりと溢れていた。
「うわっ……凄い人だかり……!」
「よぉ、大和。その様子だと編入生同士がバトってるって聞いたみてえだな」
学年に関係なく目白押しになっている野次馬の中でそう俺に手を振る人間がいた。
直巳だ。彼は密集する生徒たちの少し後ろで様子を見ていた。
「直巳!ああ、一体なにがあったの……?」
「なんでももう一人の編入生がベアチャンに襲いかかったらしい」
「襲いかかった……?なんでそんな……」
──って、今は理由なんてどうでもいいか。
俺は人と人の集まっているその空隙を見つけ、身体をねじ込む様にして進む。
凄まじい数の野次馬だ。少しでも気を抜けば人波に飲まれてしまうだろう。
窒息寸前になりつつ、俺はなんとか人混みの最前へとやって来る。
「極悪なテロリストめっ!“対テロ党”の一員として貴様を断罪する!」
「テロリストっ!?なんか誤解が──」
そこで俺は目撃した。
今朝初めて逢ったベアがもう一人の編入生に襲われている様子を。
「問答無用!切り伏せてくれるっ!」
もう一人の編入生は手にした刀をベアへと向けて振るっている。
けれどベアは丸腰だ。つまり彼女は武器を持たない相手を襲っていることになる。
「止め──」
「止めてっ!」
腰の脇差に手を触れると俺は二人の間に割って入ろうとした。
しかし俺よりも先に二人の間へと飛び出した者がいた。
「ッ!なんのつもりだ……!」
「丸腰の相手を襲うなんてダメだって!」
それは凛華だった。
愛用するサーベルで編入生の刃を受け止める。
「対テロ党に仇なすならば容赦はしない──ぞ……」
突然二人の間を割って入った凛華に対して鋭い視線を向けるがどうしたことだろう。
突然刀を持つ彼女は刀を下げてしまった。
「何故お前がここに……!?」
「え?」
「いや、それよりもお前もここに来たならば奴がテロリストであることは知っているはずだ!何故止める!?」
一瞬狼狽える様な表情を見せたもののすぐに彼女は得物を構え直し、問いと同時に凛華に向ける。
けれど凛華はいきなり問われて当惑している。
「なんのこと……?あの子がテロリストって……?」
「寝ぼけてるのか?指令を受けただろう。密入国者である奴を捕らえろ、生死は問わないと……」
「???」
そんなことを言われても……といった表情を浮かべている。
一体どういうことだ?凛華と彼女は知り合いなのか?俺も状況を理解できずにいる。
「待ちなさい」
そんな時、人混みの中から冷たい声が聞こえてくる。
がやがやとしていた野次馬たちが一斉に静まり、声の主のために左右によって道を作る。まるでモーゼが海を割った様だ。
「流城先生……」
その道を一人の女性が歩いて、中庭へとやって来る。
──数日前、湖城・流城両家の和平を終えた後、俺たちの学校へと教師として異動してきた文香さんだ。
彼女は1年A組の副担任となったので俺たちは今日から文香さんではなく、流城先生と呼んでいる。
そういえば編入生もA組だ。彼女は止めに来たのだろう。
その証拠にレディスーツの内側から取り出した拳銃を彼女へと向ける。
「……ワタシを撃つつもりですか?ワタシよりもそこのテロリストを断罪すべきだと思いますが。それにワタシは対テロ党の所属です。ワタシを撃てばイージスがどうなるか……判って銃口を向けているんですよね?」
対テロ党は自衛隊とは違った独自の部隊を有する日本の政党だ。
今彼女を撃てばそれは国家への叛逆を意味する。
たった一発の銃弾がイージスの命運を握っているのだと理解した俺たちは固唾を呑んだ。
「……紅宮篝さん、あなたが対テロ党の所属だろうと任務でこの学園に来たんだろうと関係ない。あなたは対テロ党の所属であると同時にその学園の生徒でもある。まずはこの学園の『法律』に従ってもらうわ」
「法律……?」
そう、と流城先生は拳銃と視線を向けたまま頷いた。
「負けた方が勝った方の言うことを聞く。それがここでの法律よ。そしてこの学園には生徒同士での模擬戦の場……アリーナが設けられているわ」
「そこで戦って言うことを聞かせろ、と」
「そういうこと。この条件を飲み込んでくれるかしら?」
彼女、紅宮篝は一度周りを見回す。
彼女の双眸に映ったのは武器を手にした俺たちと流城先生だ。
(ふむ……丸腰の奴を仕留めても他の奴らが黙ってなさそうだ)
そうなっては自分も無事では済まないし、任務を遂行できない。
そう考えた紅宮さんは刀を鞘に収めた。つまりそれはイエスということだった。
「よかったわ、話が判るみたいで」
流城先生は彼女に向けていた拳銃を下げるとスーツの内側へと戻す。
数秒経過し、俺たちはアリーナと呼ばれる施設への移動を開始する。
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