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兵革の五月[May of Struggle]
Mission28 休み明け、二人の編入生
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──5月6日、木曜日
俺は鉛と化した身体を引きずりながら学校に行く支度を済ませると家から出た。
(ダメだ、眠い……)
GWという長い休みを経るとどうしても休み明けに動くのが億劫である。
欠伸を噛み殺し、学園を目指して歩き始める。
学園まで中途ほどの時だ。前方から直巳が「よう」と軽く手を挙げてやってきた。
「ああおはよう、直巳」
「ダルいみてえだな。まあ俺もだけど」
そう言って彼は盛大に欠伸をした。
やはり休日明けの通勤・通学は全人類にとって最もしち面倒くさいものの一つだろう。
俺たちはたわいもない話をしながら学校に着くとなんだか騒がしかった。
「……?なんだかA組の方が騒がしいね」
「おはよー、休み明けだからやる気が出ないね~……」
俺たちの後に遅れてやってきたレイがそう言った。
そして彼女もA組の方がやけに騒がしいと感じたのか「なにかあったの?」と問うてきた。
「あら、知らないのね」
それに答える様にA組の教室から渚が現れる。
「ああ渚、おはよう」
「おはよう」
彼女は濡れ羽色の髪をかきあげ、そう短く返した。
「それでなにがあったの?」
「編入生よ」
「編入生?」
だからか。
新たな人物が来ると判ればそれはその生徒の話題などで騒がしくもなるだろう。
「そう。まだいないけれど二人いるみたいよ、編入生は」
「二人も?」
「ええ。実力者らしいわ、二人ともね」
それは戦士として純粋に楽しみだ。
俺たちは自分たちの教室に戻り、SHRを終える。
「さて、そろそろ編入生も来てるんじゃないかな」
「行こうぜ」
俺たちは編入生二人の顔を見るために再びA組へと向かう。
廊下を出て、A組の教室を覗いてみる。
「あれ、あそこだけやけに人が集まってるね」
「あそこに編入生がいるのかも」
俺たち四人はA組の教室へとやや遠慮しつつ入っていく。
複数人が一箇所に集まっている教室の真ん中へと行くと編入生の顔を見ることができた。
「あなた、水難の相が見えますわ」
複数人が集まる中で彼女は一人、机の上に置かれた水晶玉に手をかざしそう言った。
どうやら占いをしているらしい。占われているのは彼女の正面にいる女子だろう。
「ええ~?ホントかなぁ?」
占われているらしい女子は疑っている様だ。
確かに占いというのは非科学的だろう。それに占っているのは俺たちと同じ年齢の少女だ。
そんな彼女の占った結果なんてとてもじゃないが信じられないだろう。
「でもありがとう、今日一日は注意して過ごすよ」
──じゃね、とそのまま教室から出て行く時、水難は訪れた。
彼女は足元にあるものに気付かずに思い切りそれを蹴飛ばしてしまう。
それはバケツだった、それも水の入っている。
結果、彼女は足はバケツの水に濡らされることとなった。
「きゃあっ!?最悪っ!誰っ、こんなとこにバケツ置いたの!」
「……次の人は?」
編入生である少女は教室の外で怒っている女子を無視してそう言った。
彼女の言う水難とはバケツの水によって濡れることを言っていたのか。
「あ、次は俺……」
やや遠慮気味に手を挙げて男子生徒が彼女の目の前に立つ。
占いがぴたりと当たったからか彼は自身を占われることに対して若干の恐怖を抱いている様だった。
「あなたは……火難の相が見えますわ」
「いやいや、火難?流石に火難は──」
ないだろう、と言いかけ、彼は「熱っ!」と着ていたブレザーを脱いで勢いよく床に叩きつけた。
それに周りの人間がなんだなんだと脱ぎ捨てられたブレザーへと集まる。
「これって……スマホ?」
一人がブレザーの胸ポケットからスマホを取り出す。
しかしすぐに「熱っ!」と占われた男子生徒同様の反応を見せるとスマホを手放した。
「俺のスマホっ!」
手放されたスマホは無情にも重力に従って下に落ちる。
そして画面が粉々になってしまった。
「一体なにが……」
「発熱だな」
白衣のポケットに手を突っ込んだまま神崎さんがそう言った。
そう言えば彼女もA組の生徒だった。
「神崎さん……」
「スマホのバッテリーは劣化すると減りが早くなる。そうすると充電する頻度も増え、発熱の原因になる。充電しながらの使用も充電と放電を同時にするわけだから多大な負担をかける。それにスマホケースをつけていると放熱しづらくなって熱くなりやすい」
彼女はそうぺらぺらと説明をする。
確かに彼のスマホはケースをつけている。それも発熱の要因の一つになったのだろう。
「私に貸してくれ、昼までに直しておこう。ついでにバッテリーも交換しておく」
画面にいくつもの亀裂ができたスマホを拾おうとしている彼に対して神崎さんはそう言った。
どうやら神崎さんは機械に詳しいらしい。
「ああ頼むよ──っ熱ッぁ!」
落胆していたがありがたい話だと思い、スマホを拾おうとするがどうやらまだ熱いらしく拾えずにいる。
何度か拾おうとするもののそれはかなり熱くなっているらしく、持ち上げた瞬間に手放し、床に叩きつけられて画面のヒビが更に増える。
「……さて、次に占って欲しいのはあなたがた?」
少女は席から立ち上がるとくるりと身体の向きを変えて俺たちの方を向く。
そして微かな笑みを浮かべ、脛が隠れるほどの長いスカートの裾を両手でつまみ、ぺこりと頭を下げた。
ヨーロッパで見られる伝統的な女性の挨拶、カーテシーだ。
「初めまして、ベアトリクス・スプリンガーと申しますわ」
俺は鉛と化した身体を引きずりながら学校に行く支度を済ませると家から出た。
(ダメだ、眠い……)
GWという長い休みを経るとどうしても休み明けに動くのが億劫である。
欠伸を噛み殺し、学園を目指して歩き始める。
学園まで中途ほどの時だ。前方から直巳が「よう」と軽く手を挙げてやってきた。
「ああおはよう、直巳」
「ダルいみてえだな。まあ俺もだけど」
そう言って彼は盛大に欠伸をした。
やはり休日明けの通勤・通学は全人類にとって最もしち面倒くさいものの一つだろう。
俺たちはたわいもない話をしながら学校に着くとなんだか騒がしかった。
「……?なんだかA組の方が騒がしいね」
「おはよー、休み明けだからやる気が出ないね~……」
俺たちの後に遅れてやってきたレイがそう言った。
そして彼女もA組の方がやけに騒がしいと感じたのか「なにかあったの?」と問うてきた。
「あら、知らないのね」
それに答える様にA組の教室から渚が現れる。
「ああ渚、おはよう」
「おはよう」
彼女は濡れ羽色の髪をかきあげ、そう短く返した。
「それでなにがあったの?」
「編入生よ」
「編入生?」
だからか。
新たな人物が来ると判ればそれはその生徒の話題などで騒がしくもなるだろう。
「そう。まだいないけれど二人いるみたいよ、編入生は」
「二人も?」
「ええ。実力者らしいわ、二人ともね」
それは戦士として純粋に楽しみだ。
俺たちは自分たちの教室に戻り、SHRを終える。
「さて、そろそろ編入生も来てるんじゃないかな」
「行こうぜ」
俺たちは編入生二人の顔を見るために再びA組へと向かう。
廊下を出て、A組の教室を覗いてみる。
「あれ、あそこだけやけに人が集まってるね」
「あそこに編入生がいるのかも」
俺たち四人はA組の教室へとやや遠慮しつつ入っていく。
複数人が一箇所に集まっている教室の真ん中へと行くと編入生の顔を見ることができた。
「あなた、水難の相が見えますわ」
複数人が集まる中で彼女は一人、机の上に置かれた水晶玉に手をかざしそう言った。
どうやら占いをしているらしい。占われているのは彼女の正面にいる女子だろう。
「ええ~?ホントかなぁ?」
占われているらしい女子は疑っている様だ。
確かに占いというのは非科学的だろう。それに占っているのは俺たちと同じ年齢の少女だ。
そんな彼女の占った結果なんてとてもじゃないが信じられないだろう。
「でもありがとう、今日一日は注意して過ごすよ」
──じゃね、とそのまま教室から出て行く時、水難は訪れた。
彼女は足元にあるものに気付かずに思い切りそれを蹴飛ばしてしまう。
それはバケツだった、それも水の入っている。
結果、彼女は足はバケツの水に濡らされることとなった。
「きゃあっ!?最悪っ!誰っ、こんなとこにバケツ置いたの!」
「……次の人は?」
編入生である少女は教室の外で怒っている女子を無視してそう言った。
彼女の言う水難とはバケツの水によって濡れることを言っていたのか。
「あ、次は俺……」
やや遠慮気味に手を挙げて男子生徒が彼女の目の前に立つ。
占いがぴたりと当たったからか彼は自身を占われることに対して若干の恐怖を抱いている様だった。
「あなたは……火難の相が見えますわ」
「いやいや、火難?流石に火難は──」
ないだろう、と言いかけ、彼は「熱っ!」と着ていたブレザーを脱いで勢いよく床に叩きつけた。
それに周りの人間がなんだなんだと脱ぎ捨てられたブレザーへと集まる。
「これって……スマホ?」
一人がブレザーの胸ポケットからスマホを取り出す。
しかしすぐに「熱っ!」と占われた男子生徒同様の反応を見せるとスマホを手放した。
「俺のスマホっ!」
手放されたスマホは無情にも重力に従って下に落ちる。
そして画面が粉々になってしまった。
「一体なにが……」
「発熱だな」
白衣のポケットに手を突っ込んだまま神崎さんがそう言った。
そう言えば彼女もA組の生徒だった。
「神崎さん……」
「スマホのバッテリーは劣化すると減りが早くなる。そうすると充電する頻度も増え、発熱の原因になる。充電しながらの使用も充電と放電を同時にするわけだから多大な負担をかける。それにスマホケースをつけていると放熱しづらくなって熱くなりやすい」
彼女はそうぺらぺらと説明をする。
確かに彼のスマホはケースをつけている。それも発熱の要因の一つになったのだろう。
「私に貸してくれ、昼までに直しておこう。ついでにバッテリーも交換しておく」
画面にいくつもの亀裂ができたスマホを拾おうとしている彼に対して神崎さんはそう言った。
どうやら神崎さんは機械に詳しいらしい。
「ああ頼むよ──っ熱ッぁ!」
落胆していたがありがたい話だと思い、スマホを拾おうとするがどうやらまだ熱いらしく拾えずにいる。
何度か拾おうとするもののそれはかなり熱くなっているらしく、持ち上げた瞬間に手放し、床に叩きつけられて画面のヒビが更に増える。
「……さて、次に占って欲しいのはあなたがた?」
少女は席から立ち上がるとくるりと身体の向きを変えて俺たちの方を向く。
そして微かな笑みを浮かべ、脛が隠れるほどの長いスカートの裾を両手でつまみ、ぺこりと頭を下げた。
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