ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

文字の大きさ
上 下
56 / 92
兵革の五月[May of Struggle]

Mission18 反撃開始⑦

しおりを挟む
それは凛華だった。
彼女は震える手でサーベルを握ると切っ先を二人に向ける。

「……随分とボロボロだけれど、そんな状態で僕たちとり合うつもりかい?」
「無理だろうよ──」

速水沙々は俺たち同様に満身創痍である凛華に対して思わず構えを解いてしまった。
相手は戦えるほどの体力はなく、いつでも倒せる……そう思っていたのだろう。
しかしそれは彼女にとって大きな誤算だった。

「!」

凛華は目の前に立ち塞がる志熊を無視して、素早く地を蹴ると手に持ったサーベルで油断しきっていた彼女を刺突した。
その素早さに思わず瞬間移動でもしたのかと勘違いしてしまいそうになった。

「お前……っ!」

油断していた速水沙々はマチェットで受け止めるがその表情には余裕がない。
辛うじて受け止められたといった感じだ。

(こいつ……奇妙な服にダメージを吸収されたとはいえ、オレの一撃を喰らってここまで動けるなんて……!)

しかもサイボーグ化されていて常人以上の膂力を持つ彼女を僅かながら押している。
それもサーベルの先端で、だ。

(こんなボロボロで沙々ちゃんの攻撃を受け止めるなんて……まさか──)
「君が……“神殺しの少女”なのか!」

志熊は速水沙々に加勢する様に素早く駆けると手に持った剣を凛華へと向けて振るった。
彼女はサーベルで速水沙々を押し切ってバランスを崩させると志熊の剣を受け止めた。
押し切ってから受け止めるまでの動作は僅か0.7秒、その素早い動作に俺たちは思わず感心してしまった。

(普通の女の子と変わらないくらいに細い腕なのに彼女の一撃を刺突で受け止めるなんて……とても人間業じゃない)
「神殺しの少女だァ?まさかこんなところで戦えるなんてな!チップ持ちと戦いたくはあったけど……チカラを使えないンじゃあ仕方ねえ」

体勢を整えると速水沙々はマチェットを構え直し、凛華の目へと向ける。

神殺しの少女オマエを殺してから他の連中を皆殺しにしてやるよ!」
「まずいわね……いくら彼女が強くても隊長格の戦闘員二人を相手にできるわけが……」
「ああ……判ってる……!」

俺は攻撃を喰らって痛む身体を無理やり動かそうとする。
けれど──

「──ぁああッ……!」

やられた際に思っている以上にダメージを負ったらしく立ち上がろうとしただけでも激痛が全身に電流の如く流れた。
立ち上がろうとした俺はそれに耐えきれずにその場に崩れる。

〈東条君!大丈夫か!?〉
「……いや、結構キツい……」

けど、と続ける。

「ここで立ち上がらないわけにはいかないからね……っ!」

動かす度にギシギシという軋む様な音が聞こえてきそうな身体を無理やり動かし、俺は立ち上がる。

「おっ?立ち上がったか、まぁそう簡単に死ぬ奴じゃねえとは思ってたけどな」

速水沙々は凛華と刃を交えながら立ち上がった俺の方を見る。
彼女は凛華の隙を狙って彼女との剣戟を中断すると俺の方へと駆けてくる。

「ほら、武器を取って戦い合おうぜ!」
「言われ……なくても……!」

無理にでも動かしたら折れそうな腕を上げて、脇差を握る。
そして彼女の一撃を受け止める。

「ぐ……っ」

思わず腕が痛む。
けれど彼女の膂力が神速とも言える速度で強化されたその一撃は受け止めずにまともに喰らったらどうなるか想像に難くない。
痛んだとしても受け止める他ないのだ。

「ほらほら、こんなもんで倒れンなよっ?」

速水沙々は遠慮なく第二の攻撃を俺へと振るう。
俺は腕を動かして脇差で受け止める。

「っ……!」

最初の一撃に比べて威力は落ちているがそれでも受け止めた衝撃が腕に激痛となって襲う。
あまりの痛さにこの場で意識を手放して楽になりたいくらいだったがそういうわけにもいかない。
俺は受け止めた直後に脇差を彼女へと振るった。

「はぁっ!」
「へぇ、お前まだ動けるのか」

大したもんだぜ、とひらりと回避し、そう称賛した。
そして直後に彼女は得物を大きく振るった。

「──っと……!」

しかしそれは遠方から放たれた一発の銃弾によって遮られた。
七菜さんだ。彼女が狙撃で彼女の攻撃を止めさせたのだ。
彼女のお陰で数瞬の隙が生まれた。

(チャンス──!)

俺はその僅かな好機へと狼の如く食らい付き、脇差を振るった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞
SF
「お前もういらないから」  大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。  彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。 「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」 「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」  個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。 「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」  現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。  私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。  その力、思う存分見せつけてあげるわ!! VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。 つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。 嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。

モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。 とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。 主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。 スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。 そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。 いったい、寝ている間に何が起きたのか? 彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。 ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。 そして、海斗は海斗であって海斗ではない。 二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。 この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。 (この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

地球は茶色かった〜水陸逆転の荒廃した世界での生存記録〜

雨宮 徹
SF
レオンは宇宙飛行士だ。ある日、宇宙船は小規模な隕石と衝突する。修理パーツを求めて地球に戻ると、そこには青い惑星としての地球の姿はなく――。

(完結)相談女とお幸せに!(なれるものならの話ですけども。)

ちゃむふー
恋愛
「私は真実の愛に目覚めたんだ!ミレイユ。君は強いから1人で大丈夫だろう?リリアンはミレイユと違って私がいないとダメなんだ。婚約破棄してもらう!!」 完全に自分に酔いしれながらヒーロー気分なこの方は、ヨーデリア侯爵令息のガスパル。私の婚約者だ。 私はミレイユ・ハーブス。伯爵令嬢だ。 この国では、15才から18才まで貴族の令息令嬢は貴族の学園に通う。 あろう事かもうすぐ卒業のこの時期にこんな事を言ってきた。 できればもう少し早く言って欲しかったけれど…。 婚約破棄?大歓迎ですわ。 その真実の愛とやらを貫いてくださいね? でも、ガスパル様。 そのリリアンとやらは、俗に言う相談女らしいですわよ? 果たして本当に幸せになれるのかしら…?? 伯爵令嬢ミレイユ、伯爵令嬢エミール2人の主人公設定です。 学園物を書いた事があまり無いので、 設定が甘い事があるかもしれません…。 ご都合主義とやらでお願いします!!

恋するジャガーノート

まふゆとら
SF
【全話挿絵つき!巨大怪獣バトル×怪獣擬人化ラブコメ!】 遊園地のヒーローショーでスーツアクターをしている主人公・ハヤトが拾ったのは、小さな怪獣・クロだった。 クロは自分を助けてくれたハヤトと心を通わせるが、ふとしたきっかけで力を暴走させ、巨大怪獣・ヴァニラスへと変貌してしまう。 対怪獣防衛組織JAGD(ヤクト)から攻撃を受けるヴァニラス=クロを救うため、奔走するハヤト。 道中で事故に遭って死にかけた彼を、母の形見のペンダントから現れた自称・妖精のシルフィが救う。 『ハヤト、力が欲しい? クロを救える、力が』 シルフィの言葉に頷いたハヤトは、彼女の協力を得てクロを救う事に成功するが、 光となって解けた怪獣の体は、なぜか美少女の姿に変わってしまい……? ヒーローに憧れる記憶のない怪獣・クロ、超古代から蘇った不良怪獣・カノン、地球へ逃れてきた伝説の不死蝶・ティータ── 三人(体)の怪獣娘とハヤトによる、ドタバタな日常と手に汗握る戦いの日々が幕を開ける! 「pixivFANBOX」(https://mafuyutora.fanbox.cc/)と「Fantia」(fantia.jp/mafuyu_tora)では、会員登録不要で電子書籍のように読めるスタイル(縦書き)で公開しています!有料コースでは怪獣紹介ミニコーナーも!ぜひご覧ください! ※登場する怪獣・キャラクターは全てオリジナルです。 ※全編挿絵付き。画像・文章の無断転載は禁止です。

アルファポリスで閲覧者数を増やすための豆プラン

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
エッセイ・ノンフィクション
私がアルファポリスでの活動から得た『誰にでも出来る地道なPV獲得術』を、豆知識的な感じで書いていきます。 ※思いついた時に書くので、不定期更新です。

処理中です...