ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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兵革の五月[May of Struggle]

Mission10 蹂躙された会議

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中にいたのは湖城・流城両家の人々、そして両家の会議を混沌の色に染め上げた者たちだ。

「なんだァ?誰か来やがったぞ」

混沌をもたらした者たちの1人が俺たちの方を向いてそう言った。
その1人は髪を剃り込み、サングラス、黒いマスクと典型的なヤンキーの様な出で立ちをしている。
彼以外の他の人間も似た様な格好をしている。

「警備の奴らじゃねぇか?ついでにやっちまおうぜ!」
「おうよっ!」

彼らは複数人で徒党を組んでおり、そのうちの数人が俺たちへと向かってきた。
その手には金属バット、鉄パイプ、角材などが握られている。
それを手に俺たちに向かってくる……彼らの接近を許せば俺たちがどうなるかは容易に想像できた。

「はっ!」

しかしそんな彼らへと自身の刃を一度振るうレイ。
暗闇に1本の直線が引かれ、男たちが切り伏せられる。

〈流石だな、レイ〉
「チッ……先に両家の人間をやっちまえっ!」

その言葉と共に男たちが両家の人々に武器を手に襲いかかる。
湖城・流城両家の人々は長机や椅子を倒し、彼らから逃げる。
いくら武術や暗殺術を身につけているとはいえ、会議の場に武器は無用ということで所持している人間はいないのだ。

「くそっ……まさか内側から襲撃してくるなんて……!」

床にはガラスが散乱し、射し込む陽光を反射している。割って入ったのだろう。
会議室前周辺には窓がなかったので油断して会議室の窓から入ってくるとは思っていなかった。

「怪我人が出る前に片付けるわよ」
「OKっ!」

湖城家、そして流城家の人々を守るために俺たちはそれぞれの得物を手に取る。
彼らは両家の人間を害することを目的としてやってきた様だ。
しかし──

「ふっ!」
「ぅぐ……っ」

連中の1人の鳩尾に肘打ちが入り、その場で崩れる。
──湖城家には戦闘のプロフェッショナルがいることを彼らは知らなかった様だ。
湖城柚、イージス学園の教師でもある彼女は徒手での戦闘に手慣れている。

「この程度か?」
「……ンのアマァっ!」

仲間がやられたことに激昂した男が鉄パイプを振り上げる。

「甘いっ!」
「っぶッ!」

振り下ろされた鉄パイプが自身に到達する前に男の顔面に蹴りを入れる湖城先生。
ベキッと鼻が折れる嫌な音が響き渡る。

「あのメスゴリラ以外の奴をやるぞっ!」
「おうっ!」

男たちは湖城先生はとても相手にできないと考えたのか他の人たちへと襲いかかる。

「誰が独身怪力メスゴリラだっ!君たち!奴らを捕らえるぞ!」

……彼らはメスゴリラとは言っていたけれど『独身怪力』とは言っていない。
彼女ならば武器を持っていなくても問題ないだろう。
とはいえ、武器を持っていない両家の人々は逃げるしかない。

「皆さん!こっちです!」

そんな人々を逃がすために藍川先輩が扉を開けっぱなしにした状態で叫んで誘導する。
彼女の誘導に従い、そちらへと走っていく人々。

「逃がすかよっ!」

男たちの目的は両家の人間を害することだ。
外へと逃れようとする人々へと迫る男たち。

「はぁっ!」
「うぐ……っ」

そんな彼らはとある人物の一太刀によってその場に倒れる。

「凛華!」

彼らに一太刀を与えた人物──それは4月の終わりに俺たち東条家の新たな家族となった少女だった。
彼女は男たちを一瞬のうちに切り伏せた得物を構え直し、男たちが逃げている人々へと危害を加えない様に彼らを睨みつける。
それでも向かってきた輩を途中で緩やかに曲がっている刀身を持つサーベルで切り伏せてゆく。

「……結構戦えるんだね、リンカって」
「……そうみたい」

彼女が遠慮なく男たちを切り伏せる様子を見て、レイも一瞬沈黙してしまう。
レイも実力者だがそんな彼女を沈黙させるほどの剣術に俺たちも感心する。
しかし一番驚いているのは彼女の様だった。

「記憶がなくなる前もこうやって戦ってたのかな……?」

彼女はイージス内で使用されている汎用型のサーベルを見つめ、そう言った。
彼女には記憶がない。故に自分がどこで、なにをしていたのかを知らない。
けれど握っているサーベルは不思議なほどに自身の手に馴染んでいる。

「ちっ、逃げた奴はどうでもいい!残ってる奴らをやっちまえ!」

凛華によって扉の外に逃れた人々の安全は保障されているため、標的を変える。
男たちはまだ逃げられていない人々へと数人がかりで襲いかかる。

「あれは……」

俺の視界に偶然1人の人物が入った。

「……そんな、せっかく会議がいいところまで行ったのに……」

彼女は逃げるでもなく、その場でただ立ち尽くし、なにかを呟いている。
彼女は不和の終結を望んでいた。そしてこの会議はいいところまでいった。
けれど突然潰され、彼女が感じている失意は相当なものだろう。

「へっ、逃げないなんて恰好の的だぜっ!」

そんな彼女へ角材を振り上げる男がいた。
それでも彼女は気付いていない様だ。

「湖城先輩──」

咄嗟に手を伸ばす。
けれどそれで彼女へ振り下ろされるのを阻止できるわけではない。
このままでは……彼女が──

「くっ……!」
「えっ」

部屋全体に鈍い音が響き渡った。
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