ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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兵革の五月[May of Struggle]

Mission6 流城家の起源

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「……湖城家は武術の名家なんだけど、今から200年くらい前、文政10年かな……湖城家に湖城流の武術に暗殺術を取り入れた人間が現れたの」
「武術に……暗殺術を?」
「うん。それが流城流暗殺術の開祖、流城るじょう幻斎げんさい……幕末期の日本で幕府の人間の大半を暗殺した暗殺者……」

幕府の人間の大半を暗殺──幕府の人間がどのくらいいたかは知らないが大半を暗殺したというのは凄まじい功績だというのは理解できた。

「……湖城家の当時の当主は『湖城流武術を暗殺術として使うとはけしからない』って流城幻斎を追放して、幻斎はその後流城家をつくったんだ。それから湖城家と流城家の不和が始まった」
「200年も前から仲が悪い、ってことですか?」

200年……2世紀という果てしない時はまだ十数年程度しか生きていない俺たちにはとても想像できなかった。

「うん。でも今はお互い不和を解消したいって思ってる」
「……?なら、さっさと仲直りすれば……」
「簡単に言うが湖城と流城、どちらの家も名家だ。規模が大きいとそう思っていてもうまくいかないものなのだろう」

神崎さんがそう言う。
彼女の言う通りだ。そんなに簡単にいくのは物語の中だけだ。

「……そう。この町の人たちは湖城家ウチと流城家、それぞれを支持する2つの派閥に分かれてて、両派ともお互いを嫌ってる。わたしたちのせいで町民の不和まで引き起こしてることになる……」
「……かなり深刻、なんですね」

──武術と暗殺術の名家である両家、その不和は町にまで影響を及ぼしている。

「……うん」

でも、と続ける。

「今回の会議はうまくいきそうなんだ。そうすれば両家の不和も終わるかも……」

沈んだ空気をどこかへとやるために湖城先輩はそう言った。

「そうなんですか?」
「……そもそも両家の当主のうち片方説得できるだけでもいい方だったんだ。でも今回は両家の当主を説得できた。だからうまくいく気がする、予感だけど」

彼女がそう言って微かに笑みを浮かべた様な気がした。
成功の未来を想像しているのだろう。

「──なら、俺たちも頑張って依頼された警備という役割を果たしませんとね」
「うん、2つの家が仲直りできる様に……これくらいしかできないですけど」
「……ううん、それをしてくれるだけで充分だよ。さぁ、家に帰ろう」

湖城先輩の後に続いて俺たちは湖城家へと戻る。

「……今のが湖城家の?」
〈ああ。分家ではあるが湖城の人間だ。当日襲撃してもらうターゲットの1人だ〉
「OK。アンタらからは高い金を貰ってる。当日はメチャクチャにしてやるよ」

──俺たちは気付いていなかった。
悪意の牙を剥く存在が喉元まで迫っていることを。
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