36 / 92
濫觴の四月[April of Beginning]
Mission36 撤退中の3人
しおりを挟む
紙越町GR占領地上空──
蹂躙されつくした無秩序な町を翳らせる機影があった。
ティルトローターだ。主翼の右側には黒ずくめの男が立っていた。
〈──商店街にあった神機は破壊されてしまったか〉
「ええ。ですが、新たなチップ所持者が判ったのは非常に大きな収穫です」
黒ずくめの男、志熊司はそう耳に取り付けた無線機の向こう側の人間に報告する。
〈ああ。アームズメイカーにいた研究開発部の部長……彼が作り出した24個のチップ。俺たちの悲願達成には全て要る〉
「ええ。そうですね」
〈それはそうと志熊、商店街の兵たちにはそこから撤退する様に言っておいてくれ〉
「了解です」
そう言って無線機から声は聞こえなくなる。
「それにしてもオレを負かしたあいつ……あいつもチップ持ちだったのか」
無線通信を終えると彼の右脇に抱えられている少女、速水沙々は言った。
「ああ。ただでさえイージスにはチップ持ちが多いのに……厄介な人間が増える」
「厄介ィ?オレとしては新しい楽しみができて嬉しいけどな」
そう言ってにやりと笑う。
それを聞いてやれやれと志熊は呆れる。
「君みたいな戦闘狂の考えは理解できないよ」
「戦いは楽しいだろ?で、敵を倒して勝つのがオレの行動原理って言っても過言じゃねえからな」
「そのくせ勝てなかったのはどういうことかな?」
「うるせえ。手加減したンだよ、て・か・げ・ん」
志熊の言葉にそう反論する。
「お前だって手加減したンじゃねえのか?お前の液体金属兵装とやらなら勝てただろ」
「…………」
速水沙々の追加の反論に志熊は噤んだ。
それに満足し、言葉を続ける。
「まぁいいや。次からは手加減しなくてよさそうだって判ったしな。久々に大暴れできそうだ。次会ったらチップ持ちなのはイージスだけじゃねぇってこと、教えてやるよ」
「……沙々さん、その状態でカッコよさそうなセリフを言ってもダサいだけですよ」
志熊の左脇からそう声がする。
否、正確には志熊の左脇に抱えられた少女、太刀花優希からだ。
気絶から回復した彼女は開口一番、そう言った。
「あぁ!?てか、志熊、そろそろ降ろせよ!足ついてない状態で飛んでンの怖いんだよ!」
「お仕置きだって言ったろ?イタタ……殴るなって。余計危ないよ」
速水沙々は志熊の腹を両手で殴る。
しかし姿勢が姿勢なので本気で殴れない。
それでもサイボーグ化している彼女のパンチは常人のものに比べて相手にかなりのダメージを与えられるはずだが志熊は「痛い」と言うだけで痛がる素振りは見せない。
(相変わらずすっげぇ力……オレが暴れても片腕だけで押さえつけてるんだもんな)
──戦闘力も自分以上だ。
本来ならば第1部隊隊長の座は速水沙々ではなく、彼だろう。
GRの部隊は戦闘力のある部隊から順に第1部隊、第2部隊……と置かれている。
けれど彼はイージスを裏切ったばかりの人間であるため、GR総統としては優れた力を持っていてもGRへの忠誠心を見るために第2部隊に配置されている。
「それにしても……次のミッションで“神殺しの少女”を見つけられるといいんだけれど」
「ああ確かそいつはまだどこの勢力にもついてないみたいだしな。しかもメチャクチャ強えぇみたいだし……会いたいぜ」
「……でも、管轄地区に入ってから姿が見えないんですよね?」
太刀花優希の言葉に志熊は2秒ほど間を置いてから「ああ」と言った。
「……もうかなり時間が経つ。イージスに保護されてしまったと考えるのが一番か……」
「へぇ?じゃあもしかしたら敵として戦えるってことか?」
「ワクワクして言うなよ……ただでさえチップ所持者が増えて困っているのに……」
溜め息を吐き、今後について考える。
〈もうすぐ“基地”に着きます〉
──無線機を介した短い報告。ティルトローターの操縦者からだ。
「ああ。判った」
志熊がそう返すとぷつりと切れる。
彼は彼らの“基地”とやらが近付くとようやく2人を離した。
「ふぅ、やぁっと離してくれたな……」
「次は負けない様にね」
志熊はそう軽く戒める。
「勿論さ。チップ持ちがチップ持ちに遠慮をする理由がねえからな」
蹂躙されつくした無秩序な町を翳らせる機影があった。
ティルトローターだ。主翼の右側には黒ずくめの男が立っていた。
〈──商店街にあった神機は破壊されてしまったか〉
「ええ。ですが、新たなチップ所持者が判ったのは非常に大きな収穫です」
黒ずくめの男、志熊司はそう耳に取り付けた無線機の向こう側の人間に報告する。
〈ああ。アームズメイカーにいた研究開発部の部長……彼が作り出した24個のチップ。俺たちの悲願達成には全て要る〉
「ええ。そうですね」
〈それはそうと志熊、商店街の兵たちにはそこから撤退する様に言っておいてくれ〉
「了解です」
そう言って無線機から声は聞こえなくなる。
「それにしてもオレを負かしたあいつ……あいつもチップ持ちだったのか」
無線通信を終えると彼の右脇に抱えられている少女、速水沙々は言った。
「ああ。ただでさえイージスにはチップ持ちが多いのに……厄介な人間が増える」
「厄介ィ?オレとしては新しい楽しみができて嬉しいけどな」
そう言ってにやりと笑う。
それを聞いてやれやれと志熊は呆れる。
「君みたいな戦闘狂の考えは理解できないよ」
「戦いは楽しいだろ?で、敵を倒して勝つのがオレの行動原理って言っても過言じゃねえからな」
「そのくせ勝てなかったのはどういうことかな?」
「うるせえ。手加減したンだよ、て・か・げ・ん」
志熊の言葉にそう反論する。
「お前だって手加減したンじゃねえのか?お前の液体金属兵装とやらなら勝てただろ」
「…………」
速水沙々の追加の反論に志熊は噤んだ。
それに満足し、言葉を続ける。
「まぁいいや。次からは手加減しなくてよさそうだって判ったしな。久々に大暴れできそうだ。次会ったらチップ持ちなのはイージスだけじゃねぇってこと、教えてやるよ」
「……沙々さん、その状態でカッコよさそうなセリフを言ってもダサいだけですよ」
志熊の左脇からそう声がする。
否、正確には志熊の左脇に抱えられた少女、太刀花優希からだ。
気絶から回復した彼女は開口一番、そう言った。
「あぁ!?てか、志熊、そろそろ降ろせよ!足ついてない状態で飛んでンの怖いんだよ!」
「お仕置きだって言ったろ?イタタ……殴るなって。余計危ないよ」
速水沙々は志熊の腹を両手で殴る。
しかし姿勢が姿勢なので本気で殴れない。
それでもサイボーグ化している彼女のパンチは常人のものに比べて相手にかなりのダメージを与えられるはずだが志熊は「痛い」と言うだけで痛がる素振りは見せない。
(相変わらずすっげぇ力……オレが暴れても片腕だけで押さえつけてるんだもんな)
──戦闘力も自分以上だ。
本来ならば第1部隊隊長の座は速水沙々ではなく、彼だろう。
GRの部隊は戦闘力のある部隊から順に第1部隊、第2部隊……と置かれている。
けれど彼はイージスを裏切ったばかりの人間であるため、GR総統としては優れた力を持っていてもGRへの忠誠心を見るために第2部隊に配置されている。
「それにしても……次のミッションで“神殺しの少女”を見つけられるといいんだけれど」
「ああ確かそいつはまだどこの勢力にもついてないみたいだしな。しかもメチャクチャ強えぇみたいだし……会いたいぜ」
「……でも、管轄地区に入ってから姿が見えないんですよね?」
太刀花優希の言葉に志熊は2秒ほど間を置いてから「ああ」と言った。
「……もうかなり時間が経つ。イージスに保護されてしまったと考えるのが一番か……」
「へぇ?じゃあもしかしたら敵として戦えるってことか?」
「ワクワクして言うなよ……ただでさえチップ所持者が増えて困っているのに……」
溜め息を吐き、今後について考える。
〈もうすぐ“基地”に着きます〉
──無線機を介した短い報告。ティルトローターの操縦者からだ。
「ああ。判った」
志熊がそう返すとぷつりと切れる。
彼は彼らの“基地”とやらが近付くとようやく2人を離した。
「ふぅ、やぁっと離してくれたな……」
「次は負けない様にね」
志熊はそう軽く戒める。
「勿論さ。チップ持ちがチップ持ちに遠慮をする理由がねえからな」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ベル・エポック
しんたろう
SF
この作品は自然界でこれからの自分のいい進歩の理想を考えてみました。
これからこの理想、目指してほしいですね。これから個人的通してほしい法案とかもです。
21世紀でこれからにも負けていないよさのある時代を考えてみました。
負けたほうの仕事しかない人とか奥さんもいない人の人生の人もいるから、
そうゆう人でも幸せになれる社会を考えました。
力学や科学の進歩でもない、
人間的に素晴らしい文化の、障害者とかもいない、
僕の考える、人間の要項を満たしたこれからの時代をテーマに、
負の事がない、僕の考えた21世紀やこれからの個人的に目指したい素晴らしい時代の現実でできると思う想像の理想の日常です。
約束のグリーンランドは競争も格差もない人間の向いている世界の理想。
21世紀民主ルネサンス作品とか(笑)
もうありませんがおためし投稿版のサイトで小泉総理か福田総理の頃のだいぶん前に書いた作品ですが、修正で保存もかねて載せました。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる