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濫觴の四月[April of Beginning]
Mission24 第3部隊隊長
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ルーチェさん率いるセイクリッドワルツが敵と交戦している間に俺たちは先に進んでいた。
「それで……まず一番近い場所に行くのね」
「ああ。近場から見て行った方が合理的だしね」
俺たちはコンタクトに映る地図を頼りに、!マークの表示されている場所へと向かう。
けれど目的地までそのまま進ませてくれるほど敵も優しくはなかった。
「いたぞ!」
「撃てッ!」
商店街もGR占領地の1つであるだけあってルーチェさんたちが戦っている戦闘員たちが全てではなかった。
神崎さんの言った通り、商店街に敵は集中していた。
彼らは俺たちを視界に入れると手に持っている機銃を放ってきた。
「……結構いるわね」
「なら活路を開くしかないよっ!」
レイは鞘に収まったままの刀の柄を握る。
それに合わせて俺たちもそれぞれの得物を握る。
彼らは早速構えている機銃を俺たちへと撃ってくる。
咄嗟に身を反らして弾道から逃れたので放たれた銃弾はしまっている鮮魚店のシャッターに点をいくつか描いた。
「行くよっ!」
レイは刃を鞘に収めたまま戦闘員の1人へと接近する。
このままでは斬られると判っている戦闘員は手に持つ機銃で彼女へ向けて連射した。
けれど──
キンッ
彼女は弾丸が放たれた瞬間に抜刀した。
そのまま刀を片手に持ったまま距離を詰め、戦闘員を斬った。
「え、一体なにを……」
〈──銃弾を弾いたんだ。刀の側面でな〉
神崎さんがそう冷静に言った。
銃弾を、刀の側面で……?
「ありえない……」
「いやいや、あたしは大したことないよ。だってニッポンの人は銃弾を斬れるんでしょ?それに比べたら大したことないよ」
「……日本人でも斬れないと思うけどね」
一体彼女の誤った日本の情報はどこから仕入れているのだろうか。
「とにかく倒しながら進もう!」
「……了解よ」「判った」「ああ」
俺たちは地図にマークされている場所へと走り出す。
ここで立ち止まっている暇はない。
俺は脇差を抜いて近くにいた戦闘員を斬りつける。
人を斬るために刃を振るうというのはいい気分はしないがやらなければやられると脳が理解しているので斬ることができた。
しかしその刀身は赤に染まることはなく、銀色の輝きをまとっている。
斬った戦闘員は確かに腕から血を流して倒れているのだから斬れている。
最近の脇差は刃が鮮血に濡れない様な加工がされているのだろうか。
「待てっ!」
「っ!前から……!」
走っていると突然前方にあるサインポールが店前に置かれている床屋の中から5人ほど機銃を構えた戦闘員が現れる。
待ち伏せだ。戦闘員たちが一斉に機銃を構える。
「撃てッ!」
1人がそう叫ぶと全員が引き金に指を置き、そのまま引く──
「させないわよ」
「っ……!?」
戦闘員1人の手から機銃が消えた。
一体どういうことなのだ、と思っていると渚が狙撃銃を構えているのが見えた。
彼女が機銃を弾き飛ばしたのだと判った。
「森さん」
「判った!」
静かに森さんの名を呼ぶ。
彼女は片手に持つ拳銃の他にもう1つの拳銃もホルスターから抜いて、そのまま照準を定めずに数発放った。2名彼女の乱射によって倒れる。
彼女の乱射に戦闘員たちは怯んだもののすぐに応射してくる。
俺たちは咄嗟にシャッターの閉まっていない店の中へと飛び込み、銃撃を回避する。
特に被弾せずに回避できたもののいつまでもその店の中で銃撃をやり過ごすわけにもいかない。
「……反撃しにくいわね」
「タイミングが難しいね……」
店の外に出たらその瞬間に無数の銃弾をプレゼントされるだろう。
自身の身体を蜂の巣にされたくはない俺たちは慎重に反撃するタイミングを探っていた。
「!そうだ……!」
俺はそんなタイミングをつくりだすものを持っていることを思い出した。
自身の腰の後ろ辺りを探ってみる。
「?どうしたの?東条くん」
「目を閉じてっ!」
俺はそう叫ぶと腰にぶら下げていたもののピンを引き抜き、店の外へと投擲した。
瞬間俺に投げられたものが白い閃光と地を鳴動させる轟音を放つ。
〈閃光手榴弾か……!〉
「今のうちに進もう!」
店の外に飛び出すと閃光によって怯んでいる戦闘員たちがいた。
彼らは光によって一時的に目が見えない状態になっており、俺たちはそんな彼らに構わずに先に進んだ。
俺たちはそのまま走り続け、目的地に近付くとようやく歩きに変えた。
「……敵がいない。ここまで来たからかな?」
「油断は禁物よ、レイラ」
そう窘めつつ、狙撃銃を構えて慎重に歩く渚。
その足取りはまるで地雷原の中を進む兵士の様だ。
「でも、ホントに誰もいないよ?」
「……もうそろそろ1つ目の場所に着くけど、油断はしない方がいいかも」
森さんも銃を構えながらそう言った。
俺もいつでも脇差を抜ける様にしながら慎重に歩いていった。
けれど敵と遭遇することはなかった。
「……ここが1つ目のポイント?」
「なにもないわね」
渚の言う通り、ただ単にいくつかのテーブルと椅子が転がったまま放置されているだけの広場だった。
俺自身もかつてここで家族で憩いのひと時を過ごしていた。
けれど色褪せない思い出とは裏腹にこの場所も荒れ果てていた。
〈ふむ、そうか……。ならば残りの2つのうち、どちらかだろうな〉
「それじゃあ向かおう」
「待って下さいよ」
突然気だるそうな声が広場に響く。
その声の主は俺たちではない。
声がした方──俺たちは後ろを振り返ると1人の少女が立っていた。
「君は……?」
黒いパーカーに、それについているフードで顔を半分ほど隠している。
顔の下半分しか見えないが幼い容貌をしている。
年は俺たちより2、3歳ほど幼く見える──13、14くらいか。
彼女はフードから覗く黄色い瞳を俺たちに向けている。
「──逃がしませんよ」
「え?」
俺たちは油断していた。
戦場にただの13、14歳くらいの少女が1人でいるわけがない。
それをもっと早く気付くべきだった。
「死んでください」
彼女が俺たちへと掌を向けると青白い光の糸の様なものが彼女の手から現れる。
それはぬるりとまるで蛇の様に空中を這うと俺たちの近くにあるテーブルの脚にまとわりついた。
そして彼女がそのまま手を上に上げると糸の様なものはそのままテーブルを持ち上げた。
「え──」
一体なにが起こっているのかが理解できずにいた。
けれどそんな俺たちを待っていてくれるほど彼女は甘くはなかった。
糸の様なもので持ち上げたテーブルを俺たちへと投げつけた。
飛んできたテーブルの軌道自体は単純だったので回避することは可能だった。
「……テーブル程度じゃ威力もない、ですね」
そう言うと彼女は停めてあった高機動車へと掌を伸ばす。
すると先ほどと同じ様に青白い光の糸が彼女の掌から伸び、高機動車を持ち上げた。
「えいっ」
彼女はそのまま掌を俺たちを殴る様にして振った。
光の糸の先にある高機動車が俺たちへと勢いよく迫る。
「うわッ!」
俺たちはそれを回避しようとしたが避けきれず、そのまま飛んできた高機動車によって殴られ弾き飛ばされて、その身体を転がっているテーブルと椅子にぶつけた。
経年劣化によって脆くなっていた木製のテーブルと椅子はそのまま弾き飛ばされた俺たちの身体によって壊れた。
身体へのダメージ自体は制服が吸収してくれたお陰でほとんどなかった。
「……立てる?東条くん」
「ああ……ありがとう」
森さんは俺よりも早く立ち上がっていて、俺に手を差し伸べてくれた。
彼女はその儚そうな見た目に反して意外と強い様だ。
俺は彼女の手を握って立ち上がり、目の前の少女と対峙した。
「……君もGRの戦闘員か」
「ええ。隊長クラスのね」
「!君みたいな子が……?」
まだ俺たちよりも幼い様に見える。
本来ならば中学生として勉学に励んでいる頃の少女だ。
そんな少女がGRの戦闘員だというのも信じられないが、隊長を務めているだなんてとても信じられなかった。
「……失礼ですね。これでもわたし、それなりには強いんですよ」
俺の発言にむっとしたのか彼女は少し怒気を含んだ口調でそう言った。
確かに彼女はここまで来る間に戦った戦闘員たちより強いだろう。
(神崎さんは交戦したら逃げろって言ってたな……でも)
──このまま逃してくれそうじゃない。
少女が自身の手足の延長として使っているあの白い糸、その先にある高機動車はいつでも俺たちを殴る準備ができている。
もしこの場から背中を向けて逃げようものならば彼女はそれで俺たちを遠慮なく叩き潰すだろう。
「……言っておくけど、逃しませんよ」
「このまま逃げられそうにないしね……ホントはあまり戦いたくはないけど……」
──やるしかない。
俺は脇差を握った。
その瞬間レイと渚が一歩踏み出して俺の前に立つ。
「ここはあたしたちに任せて!」
「ええ。今回のミッションは兵器の破壊、ならここで時間をかけている暇はないわ。大和」
「そうだよ、ヤマト。ほらっ!」
そう言ってレイは俺に対してなにを投げ渡してきた。
片手では受け止められないと感じ、俺はそれを両手で受け止める。
そして受け止めたものを見るとそれはプラスチック爆弾だった。
「ホントは専門知識がないと危険だけど……」
〈そんなことも言っていられない。あの少女……隊長クラスならば戦いに慣れているレイと西郷さんが残った方がいいだろう〉
それもそうか。適材適所というやつだ。
神崎さんの言葉に納得し、俺は手にある爆弾に視線を落とす。
携行が可能なこれに兵器を破壊する威力があるのかと思うととんでもないものを投げ渡されたものだと思う。
〈爆弾の使用方法に関しては私が説明する。君と森さんは別のポイントに向かうんだ〉
「……判った!」
「……そのまま逃すわけ──」
この場から離れ、別の場所へと向かおうとしていた俺たちを高機動車で殴ろうとする少女。
けれどその動きは止められた。
「っ!?」
「悪いけど、キミの相手はあたしたちだよ」
レイは自身の刀を構えたままそう言った。
──車輌は彼女に真っ二つに斬られたのだ。
スサノオの剣を叩き斬る俺の脇差といい、車を両断する彼女の刀といい……現実離れしている威力だ。
俺たちは彼女によって助けられたことに感謝し、この場から離れる。
「──さて、行ったわね」
渚は俺たちの姿が見えなくなったことを確認すると狙撃銃を背負い、代わりにナイフを構える。
「……手加減はしてあげませんよ」
「……手加減?」
「いらないよ」「いらないわ」
そう2人は声を揃えて言った。
それを聞いて少女は初めて微かに笑った。
しかしそれは心からの笑いではなく、相手を嘲る笑みだ。
「そうですか。後悔しないで下さいよ」
彼女は斬られた高機動車の代わりに乗り捨てられたワゴン車を糸で掴む。
「わたしはGR黒の部隊第3部隊隊長、太刀花優希。あなたたちを、殺します」
「それで……まず一番近い場所に行くのね」
「ああ。近場から見て行った方が合理的だしね」
俺たちはコンタクトに映る地図を頼りに、!マークの表示されている場所へと向かう。
けれど目的地までそのまま進ませてくれるほど敵も優しくはなかった。
「いたぞ!」
「撃てッ!」
商店街もGR占領地の1つであるだけあってルーチェさんたちが戦っている戦闘員たちが全てではなかった。
神崎さんの言った通り、商店街に敵は集中していた。
彼らは俺たちを視界に入れると手に持っている機銃を放ってきた。
「……結構いるわね」
「なら活路を開くしかないよっ!」
レイは鞘に収まったままの刀の柄を握る。
それに合わせて俺たちもそれぞれの得物を握る。
彼らは早速構えている機銃を俺たちへと撃ってくる。
咄嗟に身を反らして弾道から逃れたので放たれた銃弾はしまっている鮮魚店のシャッターに点をいくつか描いた。
「行くよっ!」
レイは刃を鞘に収めたまま戦闘員の1人へと接近する。
このままでは斬られると判っている戦闘員は手に持つ機銃で彼女へ向けて連射した。
けれど──
キンッ
彼女は弾丸が放たれた瞬間に抜刀した。
そのまま刀を片手に持ったまま距離を詰め、戦闘員を斬った。
「え、一体なにを……」
〈──銃弾を弾いたんだ。刀の側面でな〉
神崎さんがそう冷静に言った。
銃弾を、刀の側面で……?
「ありえない……」
「いやいや、あたしは大したことないよ。だってニッポンの人は銃弾を斬れるんでしょ?それに比べたら大したことないよ」
「……日本人でも斬れないと思うけどね」
一体彼女の誤った日本の情報はどこから仕入れているのだろうか。
「とにかく倒しながら進もう!」
「……了解よ」「判った」「ああ」
俺たちは地図にマークされている場所へと走り出す。
ここで立ち止まっている暇はない。
俺は脇差を抜いて近くにいた戦闘員を斬りつける。
人を斬るために刃を振るうというのはいい気分はしないがやらなければやられると脳が理解しているので斬ることができた。
しかしその刀身は赤に染まることはなく、銀色の輝きをまとっている。
斬った戦闘員は確かに腕から血を流して倒れているのだから斬れている。
最近の脇差は刃が鮮血に濡れない様な加工がされているのだろうか。
「待てっ!」
「っ!前から……!」
走っていると突然前方にあるサインポールが店前に置かれている床屋の中から5人ほど機銃を構えた戦闘員が現れる。
待ち伏せだ。戦闘員たちが一斉に機銃を構える。
「撃てッ!」
1人がそう叫ぶと全員が引き金に指を置き、そのまま引く──
「させないわよ」
「っ……!?」
戦闘員1人の手から機銃が消えた。
一体どういうことなのだ、と思っていると渚が狙撃銃を構えているのが見えた。
彼女が機銃を弾き飛ばしたのだと判った。
「森さん」
「判った!」
静かに森さんの名を呼ぶ。
彼女は片手に持つ拳銃の他にもう1つの拳銃もホルスターから抜いて、そのまま照準を定めずに数発放った。2名彼女の乱射によって倒れる。
彼女の乱射に戦闘員たちは怯んだもののすぐに応射してくる。
俺たちは咄嗟にシャッターの閉まっていない店の中へと飛び込み、銃撃を回避する。
特に被弾せずに回避できたもののいつまでもその店の中で銃撃をやり過ごすわけにもいかない。
「……反撃しにくいわね」
「タイミングが難しいね……」
店の外に出たらその瞬間に無数の銃弾をプレゼントされるだろう。
自身の身体を蜂の巣にされたくはない俺たちは慎重に反撃するタイミングを探っていた。
「!そうだ……!」
俺はそんなタイミングをつくりだすものを持っていることを思い出した。
自身の腰の後ろ辺りを探ってみる。
「?どうしたの?東条くん」
「目を閉じてっ!」
俺はそう叫ぶと腰にぶら下げていたもののピンを引き抜き、店の外へと投擲した。
瞬間俺に投げられたものが白い閃光と地を鳴動させる轟音を放つ。
〈閃光手榴弾か……!〉
「今のうちに進もう!」
店の外に飛び出すと閃光によって怯んでいる戦闘員たちがいた。
彼らは光によって一時的に目が見えない状態になっており、俺たちはそんな彼らに構わずに先に進んだ。
俺たちはそのまま走り続け、目的地に近付くとようやく歩きに変えた。
「……敵がいない。ここまで来たからかな?」
「油断は禁物よ、レイラ」
そう窘めつつ、狙撃銃を構えて慎重に歩く渚。
その足取りはまるで地雷原の中を進む兵士の様だ。
「でも、ホントに誰もいないよ?」
「……もうそろそろ1つ目の場所に着くけど、油断はしない方がいいかも」
森さんも銃を構えながらそう言った。
俺もいつでも脇差を抜ける様にしながら慎重に歩いていった。
けれど敵と遭遇することはなかった。
「……ここが1つ目のポイント?」
「なにもないわね」
渚の言う通り、ただ単にいくつかのテーブルと椅子が転がったまま放置されているだけの広場だった。
俺自身もかつてここで家族で憩いのひと時を過ごしていた。
けれど色褪せない思い出とは裏腹にこの場所も荒れ果てていた。
〈ふむ、そうか……。ならば残りの2つのうち、どちらかだろうな〉
「それじゃあ向かおう」
「待って下さいよ」
突然気だるそうな声が広場に響く。
その声の主は俺たちではない。
声がした方──俺たちは後ろを振り返ると1人の少女が立っていた。
「君は……?」
黒いパーカーに、それについているフードで顔を半分ほど隠している。
顔の下半分しか見えないが幼い容貌をしている。
年は俺たちより2、3歳ほど幼く見える──13、14くらいか。
彼女はフードから覗く黄色い瞳を俺たちに向けている。
「──逃がしませんよ」
「え?」
俺たちは油断していた。
戦場にただの13、14歳くらいの少女が1人でいるわけがない。
それをもっと早く気付くべきだった。
「死んでください」
彼女が俺たちへと掌を向けると青白い光の糸の様なものが彼女の手から現れる。
それはぬるりとまるで蛇の様に空中を這うと俺たちの近くにあるテーブルの脚にまとわりついた。
そして彼女がそのまま手を上に上げると糸の様なものはそのままテーブルを持ち上げた。
「え──」
一体なにが起こっているのかが理解できずにいた。
けれどそんな俺たちを待っていてくれるほど彼女は甘くはなかった。
糸の様なもので持ち上げたテーブルを俺たちへと投げつけた。
飛んできたテーブルの軌道自体は単純だったので回避することは可能だった。
「……テーブル程度じゃ威力もない、ですね」
そう言うと彼女は停めてあった高機動車へと掌を伸ばす。
すると先ほどと同じ様に青白い光の糸が彼女の掌から伸び、高機動車を持ち上げた。
「えいっ」
彼女はそのまま掌を俺たちを殴る様にして振った。
光の糸の先にある高機動車が俺たちへと勢いよく迫る。
「うわッ!」
俺たちはそれを回避しようとしたが避けきれず、そのまま飛んできた高機動車によって殴られ弾き飛ばされて、その身体を転がっているテーブルと椅子にぶつけた。
経年劣化によって脆くなっていた木製のテーブルと椅子はそのまま弾き飛ばされた俺たちの身体によって壊れた。
身体へのダメージ自体は制服が吸収してくれたお陰でほとんどなかった。
「……立てる?東条くん」
「ああ……ありがとう」
森さんは俺よりも早く立ち上がっていて、俺に手を差し伸べてくれた。
彼女はその儚そうな見た目に反して意外と強い様だ。
俺は彼女の手を握って立ち上がり、目の前の少女と対峙した。
「……君もGRの戦闘員か」
「ええ。隊長クラスのね」
「!君みたいな子が……?」
まだ俺たちよりも幼い様に見える。
本来ならば中学生として勉学に励んでいる頃の少女だ。
そんな少女がGRの戦闘員だというのも信じられないが、隊長を務めているだなんてとても信じられなかった。
「……失礼ですね。これでもわたし、それなりには強いんですよ」
俺の発言にむっとしたのか彼女は少し怒気を含んだ口調でそう言った。
確かに彼女はここまで来る間に戦った戦闘員たちより強いだろう。
(神崎さんは交戦したら逃げろって言ってたな……でも)
──このまま逃してくれそうじゃない。
少女が自身の手足の延長として使っているあの白い糸、その先にある高機動車はいつでも俺たちを殴る準備ができている。
もしこの場から背中を向けて逃げようものならば彼女はそれで俺たちを遠慮なく叩き潰すだろう。
「……言っておくけど、逃しませんよ」
「このまま逃げられそうにないしね……ホントはあまり戦いたくはないけど……」
──やるしかない。
俺は脇差を握った。
その瞬間レイと渚が一歩踏み出して俺の前に立つ。
「ここはあたしたちに任せて!」
「ええ。今回のミッションは兵器の破壊、ならここで時間をかけている暇はないわ。大和」
「そうだよ、ヤマト。ほらっ!」
そう言ってレイは俺に対してなにを投げ渡してきた。
片手では受け止められないと感じ、俺はそれを両手で受け止める。
そして受け止めたものを見るとそれはプラスチック爆弾だった。
「ホントは専門知識がないと危険だけど……」
〈そんなことも言っていられない。あの少女……隊長クラスならば戦いに慣れているレイと西郷さんが残った方がいいだろう〉
それもそうか。適材適所というやつだ。
神崎さんの言葉に納得し、俺は手にある爆弾に視線を落とす。
携行が可能なこれに兵器を破壊する威力があるのかと思うととんでもないものを投げ渡されたものだと思う。
〈爆弾の使用方法に関しては私が説明する。君と森さんは別のポイントに向かうんだ〉
「……判った!」
「……そのまま逃すわけ──」
この場から離れ、別の場所へと向かおうとしていた俺たちを高機動車で殴ろうとする少女。
けれどその動きは止められた。
「っ!?」
「悪いけど、キミの相手はあたしたちだよ」
レイは自身の刀を構えたままそう言った。
──車輌は彼女に真っ二つに斬られたのだ。
スサノオの剣を叩き斬る俺の脇差といい、車を両断する彼女の刀といい……現実離れしている威力だ。
俺たちは彼女によって助けられたことに感謝し、この場から離れる。
「──さて、行ったわね」
渚は俺たちの姿が見えなくなったことを確認すると狙撃銃を背負い、代わりにナイフを構える。
「……手加減はしてあげませんよ」
「……手加減?」
「いらないよ」「いらないわ」
そう2人は声を揃えて言った。
それを聞いて少女は初めて微かに笑った。
しかしそれは心からの笑いではなく、相手を嘲る笑みだ。
「そうですか。後悔しないで下さいよ」
彼女は斬られた高機動車の代わりに乗り捨てられたワゴン車を糸で掴む。
「わたしはGR黒の部隊第3部隊隊長、太刀花優希。あなたたちを、殺します」
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