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濫觴の四月[April of Beginning]
Mission18 元暗殺者の実力
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遠くから彼女を監視していたが本当に風に当たるだけだった。
顔がバレているとはいえ、彼女ならば逃げようと思えば逃げられたはずだ。
そして風に当たり終えると再びどこかへと歩いて行った。
「ところでどこに?」
「寮の地下」
「寮の地下……?なにかあるの?」
寮生ではない俺にはなにがあるか判らない。
イージス学園は国や地域を問わずに世界各国からやってきた人間を対テロ戦闘員に養成するための学校だ。
当然生徒たちが在学中に寝食する場所がないと生徒たちは困る。
故に寮が存在する……というのは知っているが、何故寮の地下に行く必要が?
「ワタシの実力を見せろと言ったのはあなたでしょう?そこで見せてあげるわ」
「…………?」
なにがなんだかよく判らないがここはついていくしかなさそうだ。
そこに行けばなにがあるのか判るだろう。
俺たちは彼女についていき、寮の中に入ると地下へと続く階段を下りていく。
「……この先になにが?」
聞いてみても彼女は黙ったままだ。
まるで『それについて知りたければついてこい』と言っている様だ。
階段を下り終えると早速目の前に扉が存在している。
彼女は重厚感のある扉を開ける。
「……ここは」
灰色のコンクリートでできた壁が4面、縦に長い部屋だ。
俺たちの目の前、部屋の奥には人の形をした的が設置されている。
確か……マンターゲットといったか。
的とはいえ、人型のものを撃つのはなんだか抵抗感を感じそうだ。
的はその場で静止しているものもあるし、左右に動いているものもある。
「射撃訓練場。これから1発も外さずに全ての的を撃ち抜いてみせるわ」
「1発も外さずに……?」
「ええ」
彼女は射撃位置の目の前に置かれているテーブルの上から訓練用の狙撃銃を取る。
そして迷うことなく、一番手前にある的を撃ち抜いてみせた。
1発の銃弾はその的の頭部を撃ち抜いていた。
「1発で頭を……!」
森さんはそう呟いた。驚いている様だった。
射撃というのは思っている以上に難しい様だ。
『1発も外さない』という誓約に緊張することなく、彼女はその隣にあった的の頭を撃ち抜く。
「次」
銃声と共にいくつもの的に穴が穿たれていく。
銃弾は全て頭部を捉えており、彼女が的確に狙撃する能力に長けていることが知れた。
(これまで8発……全て的の頭を撃ち抜いている……)
実力は確かな様だ。
残された的は2つ……一番奥にある静止している的とその手前にある左右に動く的だ。
静止している的は動いていないが一番奥にあるため、距離はある。
動いている的は手前にある分距離は離れていないが左右に同じところを往復している。
「…………」
どちらも当てることは難しいだろう。それも1発で。
けれど彼女は一切集中力を切らすことなく、引き金を引いた。
静止していた的に銃声と共に的の頭部に弾痕が刻まれる。
「……最後」
そして最後に動いている的を冷静に撃ち抜いた。
彼女は床に転がった空薬莢に一度視線を下ろした。
構えていた狙撃銃を下ろすとそのままテーブルの上に置いた。
「……どう。これがワタシの実力よ」
確かに彼女は『一度も外さない』という誓約通り全ての的を撃ち抜いてみせた。
しかも全て頭部のみを狙って。
「……凄い」
「え?」
「凄いよ、ナギサ!全て当てるなんてっ!」
レイはそう言って彼女を称賛した。
その赤い瞳を燦爛と輝かせて、熱い眼差しを送る。
「な、なに……いきなり……」
突然称賛されたことに彼女は困惑している様だ。
どうやら彼女は自身が褒め称えられるとは思っていなかったらしい。
「うん、凄いよ。西郷さん。1発も外さないで、しかもためらいなく撃てるなんて」
「ああ。君が部隊に入ってくれるなんて心強いよ」
「…………」
俺たちもそう彼女を称賛すると彼女は片手で顔を隠す様にして、そっぽを向いた。
「……西郷さん?どうした?」
「……その、いきなり褒めるものだから……褒められ慣れていなくて……」
その顔を見てみると若干赤くなっている様だった。
先ほどまでのクールな暗殺者ではない、年頃の少女らしい反応だ。
「あ、照れてるの?可愛いなぁ」
「べっ、別に照れてなんか……!」
頬を赤らめ、そう反論する。
レイはそんな彼女を見て、ニヤニヤしている。
確かに少しからかいたい気持ちも判る様な気がする。
(最初は殺し屋って聞いてとっつきにくそうだって思ったけど)
(うん。普通の女の子と変わらないね)
俺と森さんはレイが西郷さんにじゃれあっている様子を見ながら小声でそう話していた。
朗らかな性格のレイと冷淡そうな性格の西郷さん。
全く違う2人だが気が合うのかもしれない。
「色々あったとはいえ、今日から君は俺たちの仲間だ。よろしく、西郷さん」
「……渚でいいわ。戦場じゃ短く呼んだ方が合理的でしょう?」
それもそうだろう。
けれど女性を下の名前で呼ぶというのは中々勇気がいる。
初対面ですぐに打ち解けられる様な性格の直巳なら遠慮なく下の名前にチャン付けで呼ぶだろうが。
「ああ。判った、渚。俺も呼び捨てでいいよ」
「了解よ。……えー、っと?」
彼女は俺の名前を呼ぼうとしたらしいが知らない様だ。
俺は短く「東条大和」と名乗った。
「……大和」
「ああ。よろしく」
俺は再び手を差し出した。
先刻は無視されたが今度は手を握ってくれた。
ありきたりな表現だが氷の様に冷たい手だった。俺の手の熱が吸い取られていく。
けれど彼女は心までは決して冷たくはない人間なのだと握ってくれた手が物語っていた。
顔がバレているとはいえ、彼女ならば逃げようと思えば逃げられたはずだ。
そして風に当たり終えると再びどこかへと歩いて行った。
「ところでどこに?」
「寮の地下」
「寮の地下……?なにかあるの?」
寮生ではない俺にはなにがあるか判らない。
イージス学園は国や地域を問わずに世界各国からやってきた人間を対テロ戦闘員に養成するための学校だ。
当然生徒たちが在学中に寝食する場所がないと生徒たちは困る。
故に寮が存在する……というのは知っているが、何故寮の地下に行く必要が?
「ワタシの実力を見せろと言ったのはあなたでしょう?そこで見せてあげるわ」
「…………?」
なにがなんだかよく判らないがここはついていくしかなさそうだ。
そこに行けばなにがあるのか判るだろう。
俺たちは彼女についていき、寮の中に入ると地下へと続く階段を下りていく。
「……この先になにが?」
聞いてみても彼女は黙ったままだ。
まるで『それについて知りたければついてこい』と言っている様だ。
階段を下り終えると早速目の前に扉が存在している。
彼女は重厚感のある扉を開ける。
「……ここは」
灰色のコンクリートでできた壁が4面、縦に長い部屋だ。
俺たちの目の前、部屋の奥には人の形をした的が設置されている。
確か……マンターゲットといったか。
的とはいえ、人型のものを撃つのはなんだか抵抗感を感じそうだ。
的はその場で静止しているものもあるし、左右に動いているものもある。
「射撃訓練場。これから1発も外さずに全ての的を撃ち抜いてみせるわ」
「1発も外さずに……?」
「ええ」
彼女は射撃位置の目の前に置かれているテーブルの上から訓練用の狙撃銃を取る。
そして迷うことなく、一番手前にある的を撃ち抜いてみせた。
1発の銃弾はその的の頭部を撃ち抜いていた。
「1発で頭を……!」
森さんはそう呟いた。驚いている様だった。
射撃というのは思っている以上に難しい様だ。
『1発も外さない』という誓約に緊張することなく、彼女はその隣にあった的の頭を撃ち抜く。
「次」
銃声と共にいくつもの的に穴が穿たれていく。
銃弾は全て頭部を捉えており、彼女が的確に狙撃する能力に長けていることが知れた。
(これまで8発……全て的の頭を撃ち抜いている……)
実力は確かな様だ。
残された的は2つ……一番奥にある静止している的とその手前にある左右に動く的だ。
静止している的は動いていないが一番奥にあるため、距離はある。
動いている的は手前にある分距離は離れていないが左右に同じところを往復している。
「…………」
どちらも当てることは難しいだろう。それも1発で。
けれど彼女は一切集中力を切らすことなく、引き金を引いた。
静止していた的に銃声と共に的の頭部に弾痕が刻まれる。
「……最後」
そして最後に動いている的を冷静に撃ち抜いた。
彼女は床に転がった空薬莢に一度視線を下ろした。
構えていた狙撃銃を下ろすとそのままテーブルの上に置いた。
「……どう。これがワタシの実力よ」
確かに彼女は『一度も外さない』という誓約通り全ての的を撃ち抜いてみせた。
しかも全て頭部のみを狙って。
「……凄い」
「え?」
「凄いよ、ナギサ!全て当てるなんてっ!」
レイはそう言って彼女を称賛した。
その赤い瞳を燦爛と輝かせて、熱い眼差しを送る。
「な、なに……いきなり……」
突然称賛されたことに彼女は困惑している様だ。
どうやら彼女は自身が褒め称えられるとは思っていなかったらしい。
「うん、凄いよ。西郷さん。1発も外さないで、しかもためらいなく撃てるなんて」
「ああ。君が部隊に入ってくれるなんて心強いよ」
「…………」
俺たちもそう彼女を称賛すると彼女は片手で顔を隠す様にして、そっぽを向いた。
「……西郷さん?どうした?」
「……その、いきなり褒めるものだから……褒められ慣れていなくて……」
その顔を見てみると若干赤くなっている様だった。
先ほどまでのクールな暗殺者ではない、年頃の少女らしい反応だ。
「あ、照れてるの?可愛いなぁ」
「べっ、別に照れてなんか……!」
頬を赤らめ、そう反論する。
レイはそんな彼女を見て、ニヤニヤしている。
確かに少しからかいたい気持ちも判る様な気がする。
(最初は殺し屋って聞いてとっつきにくそうだって思ったけど)
(うん。普通の女の子と変わらないね)
俺と森さんはレイが西郷さんにじゃれあっている様子を見ながら小声でそう話していた。
朗らかな性格のレイと冷淡そうな性格の西郷さん。
全く違う2人だが気が合うのかもしれない。
「色々あったとはいえ、今日から君は俺たちの仲間だ。よろしく、西郷さん」
「……渚でいいわ。戦場じゃ短く呼んだ方が合理的でしょう?」
それもそうだろう。
けれど女性を下の名前で呼ぶというのは中々勇気がいる。
初対面ですぐに打ち解けられる様な性格の直巳なら遠慮なく下の名前にチャン付けで呼ぶだろうが。
「ああ。判った、渚。俺も呼び捨てでいいよ」
「了解よ。……えー、っと?」
彼女は俺の名前を呼ぼうとしたらしいが知らない様だ。
俺は短く「東条大和」と名乗った。
「……大和」
「ああ。よろしく」
俺は再び手を差し出した。
先刻は無視されたが今度は手を握ってくれた。
ありきたりな表現だが氷の様に冷たい手だった。俺の手の熱が吸い取られていく。
けれど彼女は心までは決して冷たくはない人間なのだと握ってくれた手が物語っていた。
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