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濫觴の四月[April of Beginning]
Mission10 契約
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紙越町に帰って来てから3日目──
俺も対テロ戦闘員の1人として今日から学園に通うこととなった。
「……対テロ戦闘員養成校って言うからもっと難しい試験を想像してたけど……」
「案外大したことなかった?」
イージス学園の制服に袖を通していると姉さんがそう問うてきた。
「まぁ、筆記だけだったしね。……ところでこの制服って」
「ああ。アームズメイカー製の衝撃吸収素材でできた制服よ」
「120万するやつ?」
「そうね。そのくらいはするわね。まぁ、イージスが購入したものだからあたしたちが払ったわけじゃないけど大切にね」
100万を超える服に袖を通すことになるとは……しかもそれが制服とは……。
多分100万を超える服に袖を通す機会はそうそうないだろう。
「うん、似合ってるわ」
「見た感じ普通の制服だけど……ホントにこれが衝撃を吸収してくれるの?」
「ええ。ほらッ」
頷くと同時に姉さんは俺の背中へと蹴りを入れた。
普通ならば背骨が砕けてもおかしくないレベルの蹴りだった。
けれど特に背中に痛みを感じはしなかった。
「痛くないでしょ?」
「ああ……だけどいきなり背中を蹴るのは……」
弟相手だというのに全く遠慮のなかった。恐ろしい姉だ。
彼女は軽く「ああごめんごめん」と謝る。
……ホントにごめんって思ってないな……
「でも、これで衝撃を吸収してくれるって判ったでしょ」
「…………」
「あ、そうだ。あんたがあたしに預けてくれたこれ、返すわ」
姉さんは黙ってじっと睨む俺の視線から逃れる様にして右手に握っていたものを俺に差し出す。
脇差だ。あの時巨人の剣を斬った刃を持つ武器だ。
俺はそれを受け取ると鞘から抜いた。
「ちょ~っとだけ改造したわ」
「……?どこも変わってない様な気が……」
銀色の刃を持つそれは以前と全く変わっていない様だった。
俺は柄を握りながらその脇差を色々な方向から見ていると──
「ッ!」
突然その動きは止められた。
物理的に止められたわけではない。
なにかが脳に流れ込んでくる様な感覚に俺は思わず頭を抱えた。
「……ぐ……ぁ……ッ!」
それは脳が破裂してしまうのではというくらいに強烈な痛みを伴っている。
立っていられずに背中からは汗が一気に湧き出す。
姉さんのことをちらりと見てみると特になにか驚いている様子でもない。
「姉、さん……なにを……!?」
「もうちょっと待ってね。それはその武器との『契約』みたいなものだから」
「契約……?」
姉さんはこうなることを知っていて俺にこの脇差を手渡した様だ。
しばらくすると痛みに徐々に慣れてきた。
[──武器使用者の生体データを登録──完了]
痛みに慣れ始めると脳内にそう囁く声が聞こえた。
姉さんの声ではない、人工的な、温かみのない無機質な女声の声だ。
やがて痛みも消え、姉さんは俺が頭から手を離したのを見て「終わったわね」とだけ言った。
「終わったって……?」
「『契約』よ。……いえ、登録と言った方が正しいかしら」
「登録……?」
今のが登録だって?
「凄い痛かったけど……姉さんはこうなるって知ってたの?」
「まぁね。武器を改造したのはあたしだもの」
「凄く痛かっただけでなにもない様に見えるけど……これでなにもなかったら恨むからね」
「どうぞご自由に。時が来れば判るわ。それに……あたしが意味のない改造はしないわ」
それもそうか。意味のない改造をしたところで彼女になにかメリットがあるわけでもない。
となると武器を使うことになればなにを改造したか、改造した意味について判るだろう。
「さ、腰に挿して行きなさい」
「え、大丈夫なの?捕まったり通報されたりしない?」
「大丈夫よ。社会科で習わなかった?対テロ戦闘員は──」
「──武器の携行が認められた超法規的な公務員、だっけ。今思い出したよ」
しかし武器の携行を認めるだなんて日本……いや、世界も五輪テロから随分と変わったものだ。
武器の携行、テロリストの逮捕、或いは殺害──それらの行為が認められている職業なんてそうそうないだろう。
「そう。あたしも一応対テロ戦闘員の資格を取得してるから……ほら」
そう言って姉さんは白衣の内側から拳銃を取り出す。自動式拳銃だ。
「まぁ、あたしは無線とかで支援するから撃つ機会なんてないけどね」
「確かに姉さんが銃を撃ってるイメージってあまりないな……」
「まぁ、大和撫子は銃を撃ったりはしないものね」
「……大和撫子は風呂から上がった後に下着だけでいるなんてことはしないと思うけどね」
「なにか言った?」
ニコリと微笑みながら手中にある拳銃を俺の額に突きつけた。
微笑んでいるもののその瞳は笑っていない。
……というか弟に実銃を突きつける姉がこの世界にいるだろうか?
「いえなにも言っておりません……」
「よろしい。さ、行くわよ。あたしもこの後入学式やらの準備やらで色々と忙しいんだから」
彼女は拳銃をしまうと先に出て行ってしまった。
俺も腰に刀を帯びると姉さんの後に続いて学園に向かう。
俺も対テロ戦闘員の1人として今日から学園に通うこととなった。
「……対テロ戦闘員養成校って言うからもっと難しい試験を想像してたけど……」
「案外大したことなかった?」
イージス学園の制服に袖を通していると姉さんがそう問うてきた。
「まぁ、筆記だけだったしね。……ところでこの制服って」
「ああ。アームズメイカー製の衝撃吸収素材でできた制服よ」
「120万するやつ?」
「そうね。そのくらいはするわね。まぁ、イージスが購入したものだからあたしたちが払ったわけじゃないけど大切にね」
100万を超える服に袖を通すことになるとは……しかもそれが制服とは……。
多分100万を超える服に袖を通す機会はそうそうないだろう。
「うん、似合ってるわ」
「見た感じ普通の制服だけど……ホントにこれが衝撃を吸収してくれるの?」
「ええ。ほらッ」
頷くと同時に姉さんは俺の背中へと蹴りを入れた。
普通ならば背骨が砕けてもおかしくないレベルの蹴りだった。
けれど特に背中に痛みを感じはしなかった。
「痛くないでしょ?」
「ああ……だけどいきなり背中を蹴るのは……」
弟相手だというのに全く遠慮のなかった。恐ろしい姉だ。
彼女は軽く「ああごめんごめん」と謝る。
……ホントにごめんって思ってないな……
「でも、これで衝撃を吸収してくれるって判ったでしょ」
「…………」
「あ、そうだ。あんたがあたしに預けてくれたこれ、返すわ」
姉さんは黙ってじっと睨む俺の視線から逃れる様にして右手に握っていたものを俺に差し出す。
脇差だ。あの時巨人の剣を斬った刃を持つ武器だ。
俺はそれを受け取ると鞘から抜いた。
「ちょ~っとだけ改造したわ」
「……?どこも変わってない様な気が……」
銀色の刃を持つそれは以前と全く変わっていない様だった。
俺は柄を握りながらその脇差を色々な方向から見ていると──
「ッ!」
突然その動きは止められた。
物理的に止められたわけではない。
なにかが脳に流れ込んでくる様な感覚に俺は思わず頭を抱えた。
「……ぐ……ぁ……ッ!」
それは脳が破裂してしまうのではというくらいに強烈な痛みを伴っている。
立っていられずに背中からは汗が一気に湧き出す。
姉さんのことをちらりと見てみると特になにか驚いている様子でもない。
「姉、さん……なにを……!?」
「もうちょっと待ってね。それはその武器との『契約』みたいなものだから」
「契約……?」
姉さんはこうなることを知っていて俺にこの脇差を手渡した様だ。
しばらくすると痛みに徐々に慣れてきた。
[──武器使用者の生体データを登録──完了]
痛みに慣れ始めると脳内にそう囁く声が聞こえた。
姉さんの声ではない、人工的な、温かみのない無機質な女声の声だ。
やがて痛みも消え、姉さんは俺が頭から手を離したのを見て「終わったわね」とだけ言った。
「終わったって……?」
「『契約』よ。……いえ、登録と言った方が正しいかしら」
「登録……?」
今のが登録だって?
「凄い痛かったけど……姉さんはこうなるって知ってたの?」
「まぁね。武器を改造したのはあたしだもの」
「凄く痛かっただけでなにもない様に見えるけど……これでなにもなかったら恨むからね」
「どうぞご自由に。時が来れば判るわ。それに……あたしが意味のない改造はしないわ」
それもそうか。意味のない改造をしたところで彼女になにかメリットがあるわけでもない。
となると武器を使うことになればなにを改造したか、改造した意味について判るだろう。
「さ、腰に挿して行きなさい」
「え、大丈夫なの?捕まったり通報されたりしない?」
「大丈夫よ。社会科で習わなかった?対テロ戦闘員は──」
「──武器の携行が認められた超法規的な公務員、だっけ。今思い出したよ」
しかし武器の携行を認めるだなんて日本……いや、世界も五輪テロから随分と変わったものだ。
武器の携行、テロリストの逮捕、或いは殺害──それらの行為が認められている職業なんてそうそうないだろう。
「そう。あたしも一応対テロ戦闘員の資格を取得してるから……ほら」
そう言って姉さんは白衣の内側から拳銃を取り出す。自動式拳銃だ。
「まぁ、あたしは無線とかで支援するから撃つ機会なんてないけどね」
「確かに姉さんが銃を撃ってるイメージってあまりないな……」
「まぁ、大和撫子は銃を撃ったりはしないものね」
「……大和撫子は風呂から上がった後に下着だけでいるなんてことはしないと思うけどね」
「なにか言った?」
ニコリと微笑みながら手中にある拳銃を俺の額に突きつけた。
微笑んでいるもののその瞳は笑っていない。
……というか弟に実銃を突きつける姉がこの世界にいるだろうか?
「いえなにも言っておりません……」
「よろしい。さ、行くわよ。あたしもこの後入学式やらの準備やらで色々と忙しいんだから」
彼女は拳銃をしまうと先に出て行ってしまった。
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