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濫觴の四月[April of Beginning]
Mission8 幼馴染
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「母さん、少し出かけてくる」
夕食を食べ終え、風呂に入った俺は台所で食器を洗っている母さんへと言った。
「あら、散歩?」
「うん」
母さんは皿洗いをしたまま「遅くならない様にね」と言った。
俺は風呂上がりということもあり、特にコートは羽織らずにジャージだけで外に出た。
肌を撫でる冷たい風が心地よい。
「……しっかし、ホントに変わったなぁ……この町は」
そういえば変わった町の様子をしっかりと観察したのは夕方に乗ったヘリだけだった。
空から町を見るのも普段とは違う様子を見られるがやはり普通に歩いて見てみたいという気持ちがあった。
丘にある我が家からは海が見える。
……それと同時にイージス学園のあるメガフロートも。
学園には明かりが点在している。それが海に微かな煌びやかさを与えていた。
「……大和?」
そんなメガフロートを見るのを終え、歩き始めようとすると俺の目の前に1人の少女が現れる。
白い縦縞のセーターに榛色のロングスカートを着ている茶色い長髪と琥珀色の瞳を持つ少女だ。
「……拓海姉」
俺は彼女の名を呼んだ。
すると彼女は俺へと駆け寄り、俺に抱きついた。
若干撃たれた肩の傷が痛むがそれは我慢した。せっかくの再会を痛みに邪魔されたくないからだ。
「大和、元気にしてた?東京はどうだった?生活リズムは乱れてない?あと……」
「ああ拓海姉……質問は一つずつにしてくれよ……」
怒涛の質問攻めに彼女らしさを感じた。
……町は変わっている様だが家族も友人も変わっていない。
それは幼馴染である彼女──南室拓海も同様だった。
「ああごめん。3年くらい逢ってなかったし、つい……。大和、結構大きくなってない?」
「まあ、3年もあればね」
「なんていうか……凛々しくなったって言うのかな、カッコよくなった」
「……姉さんたちも同じこと言ってたな」
彼女も姉さんたち同様に素直に褒めてくれるので結構照れ臭い。
「ははは、ところで大和はこれから出かけるの?」
「風呂上がりだし軽ーく夜風に当たろうと思ってね」
「ああ。それじゃあわたしもいい?」
「もちろん」
俺は拓海姉を側に歩き始めた。
彼女と逢うのは3年ぶりだ、特に電話やメールなどで連絡もしていなかったので家族以上に久しぶりに逢ったという感じがする。
(カッコよくなったって言ってくれたけど……拓海姉も結構……)
俺は俺の側を歩く拓海姉の顔をちらりと見た。
琥珀色の瞳にそれを強調させる長い睫毛、艶やかな茶色の髪、象牙の様に白い肌、高く通った鼻。
──そしてはち切れんばかりに盛り上がっている胸部。
セーターを着ているのもあって身体のラインが綺麗に出ている。
男ならしばらく彼女に釘付けになるだろう。
(……しばらく逢わなかった間に随分と、ねぇ)
可愛らしくなった。
男子たちは彼女を見て反応しないわけがないだろう。それくらいに可愛らしい。
「ところで東京の中学ってどうだった?都会の学校って授業早いの?」
「まぁまぁかな。特に早いとは思わなかったよ。特に難しいわけでもなかったし」
「そういや仙ちゃんも同じこと言ってたなぁ。姉弟揃って同じこと言うなんて思いもしなかったよ」
姉さんは俺が小学校の時に海外の大学を飛び級で卒業してあっという間に帰ってきた。
確か姉さんは19歳の時に入学し、21歳の時に卒業した。
俺が12歳の時の出来事だ。優秀な姉を持ったと思う。
「へぇ、姉さんがそんなことを?」
「うん。改めて思うけど海外の大学を飛び級で卒業って……ホントに人間?」
「……まぁ、それは思うね。計算は異常なくらいに速い……というかいきなり答えを書くし、僅かな動作とか表情の変化とかから思ってることを的確に読んでくるし……人間をやめてなきゃあれだけの頭も技術も持てないよ」
……恐ろしいくらい優れた姉だ。
そんな姉がイージス学園で教員として働いているのだから謎だ。
彼女ならば今からでももっと稼げる職業に就くこともできるだろうに。
……まぁ、金だけで職業を選んでもつまらないだろうが。
「はは、そういや大和がいない時に仙ちゃんに勉強を教えて貰ったんだけど……教えるのも上手かったよ。お陰で科学で学年1位取れたよ」
「そんなに?……ホントに恐ろしいくらい優れた姉を持ったなぁ……」
「大和も優れてると思うけどね──ん?」
卒然彼女は歩みを止めた。
それに合わせて俺も足を止める。
「……どうした?」
「あれ……暗くて見えないけど、人だよね?」
拓海姉はそう言って公園の方を指差す。
できてまだ年数の経っていない公園だ。管轄地区内にも憩いや遊びの場があるのは住民としてもありがたい話だろう。
そんな公園にある遊具の一つ、ブランコの近くになにか黒い塊がもぞもぞと動いているのを俺は視認した。
目を凝らしてみると拓海姉の言う様にそれが人だということが判った。そしてうずくまっているのだということも。
「具合が悪いのかな?少し話しかけてくる、大和はここで待ってて」
「こんな時間に公園に1人でいるのは怪しいよ。俺も行く」
拓海姉になにかあったら俺は後悔することになるだろう。
そんな俺の気など知らずに見ず知らずの他人へと近付こうとする警戒心の拓海姉に俺は同行し、うずくまっている人物の元へと寄った。
「大丈夫ですか?どこか痛いんですか?」
「…………」
「……大丈夫ですか?」
彼女は心配の言葉と共にその人物の肩に触れる。
するとその人物はすっくと立ち上がり、俺たちの方へと身体を向けた。
(女の子……?)
緋色の短い髪とまるでレッドベリルの様な美しい両瞳、長く整った睫毛、純白の肌──幼さの残る顔立ちをしている。
その人物はどこをとっても完璧な美少女だった。
けれど彼女には『普通』とはかけ離れた点があった。
(なんでこんな夜に……?しかも公園でうずくまってたんだ?)
おかしいのは夜の公園に1人でいることだけではない。
──彼女はぴっちりと肌を包む黒い服を身にまとっている。
それは上下一続きでダイバースーツの様だった。
「…………」
彼女はそんな格好で、夜の公園にいるのだ。
俺は怪しさしか感じていなかった。
「……おーい?大丈夫ですか?」
「…………」
拓海姉はその虚ろな瞳へと手を振る。
けれど一切の返答は返ってこない。まるで生きているが死んでいる様だった。
「…………」
返答を待っていると突然彼女はふらりとなにかが抜けた様に倒れた。
俺と拓海姉は咄嗟に彼女が地面でその身を打ち付ける前に2人で受け止めた。
「……っと、危ない」
「気絶した……みたいだね」
女性に対して言うのはなんだが重い。
気絶した人間は重く感じると言うが本当のことなんだと知った。
とりあえずそのまま少女の身軀をゆっくりと地へと下ろした。
「とりあえずどうしよう?救急車を……」
「ちょっと待って」
スマホを取り出そうとする俺をそう止めて、拓海姉は倒れた少女の横で両膝を突いた。
そしてその胸に静かに耳を近付ける。
「……うん、特に鼓動がズレていたりとかはない。命に別状はなさそう。しばらくすれば目を覚ますと思うよ」
「そっか。相変わらず凄い聴力だね」
「ピアノやってるからね。……さて、どうする?」
拓海姉は少女の身体に視線を落とし、そう問うた。
「今は4月だけど……寒いし、流石にこのまま放置しておくわけにはいかないし……」
「そうだね。よっ、と……」
俺は少女の身体を慎重に抱き上げ、背負った。
その身体はぞっとするくらいに温かみが感じられなかった。
まるで氷を抱いている様だ。
「とりあえず東条家に連れ帰る。目が覚めるまでうちに置いておくよ」
「まぁ、大和ん家なら問題なさそうだね」
「じゃ、行こうか」
俺は背中に少女を背負い、拓海姉と共に我が家まで歩み始める。
夕食を食べ終え、風呂に入った俺は台所で食器を洗っている母さんへと言った。
「あら、散歩?」
「うん」
母さんは皿洗いをしたまま「遅くならない様にね」と言った。
俺は風呂上がりということもあり、特にコートは羽織らずにジャージだけで外に出た。
肌を撫でる冷たい風が心地よい。
「……しっかし、ホントに変わったなぁ……この町は」
そういえば変わった町の様子をしっかりと観察したのは夕方に乗ったヘリだけだった。
空から町を見るのも普段とは違う様子を見られるがやはり普通に歩いて見てみたいという気持ちがあった。
丘にある我が家からは海が見える。
……それと同時にイージス学園のあるメガフロートも。
学園には明かりが点在している。それが海に微かな煌びやかさを与えていた。
「……大和?」
そんなメガフロートを見るのを終え、歩き始めようとすると俺の目の前に1人の少女が現れる。
白い縦縞のセーターに榛色のロングスカートを着ている茶色い長髪と琥珀色の瞳を持つ少女だ。
「……拓海姉」
俺は彼女の名を呼んだ。
すると彼女は俺へと駆け寄り、俺に抱きついた。
若干撃たれた肩の傷が痛むがそれは我慢した。せっかくの再会を痛みに邪魔されたくないからだ。
「大和、元気にしてた?東京はどうだった?生活リズムは乱れてない?あと……」
「ああ拓海姉……質問は一つずつにしてくれよ……」
怒涛の質問攻めに彼女らしさを感じた。
……町は変わっている様だが家族も友人も変わっていない。
それは幼馴染である彼女──南室拓海も同様だった。
「ああごめん。3年くらい逢ってなかったし、つい……。大和、結構大きくなってない?」
「まあ、3年もあればね」
「なんていうか……凛々しくなったって言うのかな、カッコよくなった」
「……姉さんたちも同じこと言ってたな」
彼女も姉さんたち同様に素直に褒めてくれるので結構照れ臭い。
「ははは、ところで大和はこれから出かけるの?」
「風呂上がりだし軽ーく夜風に当たろうと思ってね」
「ああ。それじゃあわたしもいい?」
「もちろん」
俺は拓海姉を側に歩き始めた。
彼女と逢うのは3年ぶりだ、特に電話やメールなどで連絡もしていなかったので家族以上に久しぶりに逢ったという感じがする。
(カッコよくなったって言ってくれたけど……拓海姉も結構……)
俺は俺の側を歩く拓海姉の顔をちらりと見た。
琥珀色の瞳にそれを強調させる長い睫毛、艶やかな茶色の髪、象牙の様に白い肌、高く通った鼻。
──そしてはち切れんばかりに盛り上がっている胸部。
セーターを着ているのもあって身体のラインが綺麗に出ている。
男ならしばらく彼女に釘付けになるだろう。
(……しばらく逢わなかった間に随分と、ねぇ)
可愛らしくなった。
男子たちは彼女を見て反応しないわけがないだろう。それくらいに可愛らしい。
「ところで東京の中学ってどうだった?都会の学校って授業早いの?」
「まぁまぁかな。特に早いとは思わなかったよ。特に難しいわけでもなかったし」
「そういや仙ちゃんも同じこと言ってたなぁ。姉弟揃って同じこと言うなんて思いもしなかったよ」
姉さんは俺が小学校の時に海外の大学を飛び級で卒業してあっという間に帰ってきた。
確か姉さんは19歳の時に入学し、21歳の時に卒業した。
俺が12歳の時の出来事だ。優秀な姉を持ったと思う。
「へぇ、姉さんがそんなことを?」
「うん。改めて思うけど海外の大学を飛び級で卒業って……ホントに人間?」
「……まぁ、それは思うね。計算は異常なくらいに速い……というかいきなり答えを書くし、僅かな動作とか表情の変化とかから思ってることを的確に読んでくるし……人間をやめてなきゃあれだけの頭も技術も持てないよ」
……恐ろしいくらい優れた姉だ。
そんな姉がイージス学園で教員として働いているのだから謎だ。
彼女ならば今からでももっと稼げる職業に就くこともできるだろうに。
……まぁ、金だけで職業を選んでもつまらないだろうが。
「はは、そういや大和がいない時に仙ちゃんに勉強を教えて貰ったんだけど……教えるのも上手かったよ。お陰で科学で学年1位取れたよ」
「そんなに?……ホントに恐ろしいくらい優れた姉を持ったなぁ……」
「大和も優れてると思うけどね──ん?」
卒然彼女は歩みを止めた。
それに合わせて俺も足を止める。
「……どうした?」
「あれ……暗くて見えないけど、人だよね?」
拓海姉はそう言って公園の方を指差す。
できてまだ年数の経っていない公園だ。管轄地区内にも憩いや遊びの場があるのは住民としてもありがたい話だろう。
そんな公園にある遊具の一つ、ブランコの近くになにか黒い塊がもぞもぞと動いているのを俺は視認した。
目を凝らしてみると拓海姉の言う様にそれが人だということが判った。そしてうずくまっているのだということも。
「具合が悪いのかな?少し話しかけてくる、大和はここで待ってて」
「こんな時間に公園に1人でいるのは怪しいよ。俺も行く」
拓海姉になにかあったら俺は後悔することになるだろう。
そんな俺の気など知らずに見ず知らずの他人へと近付こうとする警戒心の拓海姉に俺は同行し、うずくまっている人物の元へと寄った。
「大丈夫ですか?どこか痛いんですか?」
「…………」
「……大丈夫ですか?」
彼女は心配の言葉と共にその人物の肩に触れる。
するとその人物はすっくと立ち上がり、俺たちの方へと身体を向けた。
(女の子……?)
緋色の短い髪とまるでレッドベリルの様な美しい両瞳、長く整った睫毛、純白の肌──幼さの残る顔立ちをしている。
その人物はどこをとっても完璧な美少女だった。
けれど彼女には『普通』とはかけ離れた点があった。
(なんでこんな夜に……?しかも公園でうずくまってたんだ?)
おかしいのは夜の公園に1人でいることだけではない。
──彼女はぴっちりと肌を包む黒い服を身にまとっている。
それは上下一続きでダイバースーツの様だった。
「…………」
彼女はそんな格好で、夜の公園にいるのだ。
俺は怪しさしか感じていなかった。
「……おーい?大丈夫ですか?」
「…………」
拓海姉はその虚ろな瞳へと手を振る。
けれど一切の返答は返ってこない。まるで生きているが死んでいる様だった。
「…………」
返答を待っていると突然彼女はふらりとなにかが抜けた様に倒れた。
俺と拓海姉は咄嗟に彼女が地面でその身を打ち付ける前に2人で受け止めた。
「……っと、危ない」
「気絶した……みたいだね」
女性に対して言うのはなんだが重い。
気絶した人間は重く感じると言うが本当のことなんだと知った。
とりあえずそのまま少女の身軀をゆっくりと地へと下ろした。
「とりあえずどうしよう?救急車を……」
「ちょっと待って」
スマホを取り出そうとする俺をそう止めて、拓海姉は倒れた少女の横で両膝を突いた。
そしてその胸に静かに耳を近付ける。
「……うん、特に鼓動がズレていたりとかはない。命に別状はなさそう。しばらくすれば目を覚ますと思うよ」
「そっか。相変わらず凄い聴力だね」
「ピアノやってるからね。……さて、どうする?」
拓海姉は少女の身体に視線を落とし、そう問うた。
「今は4月だけど……寒いし、流石にこのまま放置しておくわけにはいかないし……」
「そうだね。よっ、と……」
俺は少女の身体を慎重に抱き上げ、背負った。
その身体はぞっとするくらいに温かみが感じられなかった。
まるで氷を抱いている様だ。
「とりあえず東条家に連れ帰る。目が覚めるまでうちに置いておくよ」
「まぁ、大和ん家なら問題なさそうだね」
「じゃ、行こうか」
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