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エピローグ

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 春――

 桜の花が、半分ほど散ったころ。

「誓います」

 昨日まで降っていた雨が嘘のように晴れ渡った青空の下。少し高台にある小さいけれどステンドグラスの美しい教会で、遥香は隣に立つ弘貴に向かって微笑んだ。

 弘貴の立場上、披露宴は盛大になるのは仕方がなく――、そのかわり、結婚式は遥香の好きなところでと言ってくれた弘貴は、身内と近しい友人のみしか入らない小さな教会に最初は驚いたようだったが、遥香らしいねと笑ってくれた。

 出会っておよそ一年――

 遥香は今日、弘貴と無事に結婚式の日を迎えることができた。

 弘貴とともに教会の外に出れば、友人たちが白い薔薇の花びらを宙に向かって投げてくれる。

 その先に広がる青い空はどこまでも澄んでいて――、まるで彼の瞳のようだと思ってしまった。

(元気かしら……)

 美しい青空を見上げるたびに思い出すのは――、もう見ることもなくなった夢の世界に住む人たちのことだ。

 あの日。

 クロードとの結婚式で、誓いのキスをした直後、遥香の左手の指輪が強く光って、目を開けていられなくなった。

 そして、目をあけた次の瞬間、あたりは真っ暗で――、弘貴が強く抱きしめてくれたことを覚えている。

 まるで、長い夢を見ていたような不思議な体験は、今でも本当に夢だったのではないかと思うときがあるけれど、現実だったのだとわかっている。

 そして、その不思議な体験を終えた日から、なぜかあの世界の夢を見ることがなくなった。

 会いたくてももう見ることのできない夢の世界の住人たちは、元気なのだろうかと淋しく思うときもあるけれど――、きっと幸せに暮らしているのだと信じている。

「遥香、写真撮るって」

 遥香の手を引いて、クロードが花で飾りつけされた撮影スペースへと誘ってくれる。

 弘貴に微笑まれて、手を引かれて、今日という日をむかえられたことが奇跡のようにも思えて、遥香は「遥香」を諦めないでくれた弘貴に何度でもありがとうと伝えたかった。

「弘貴さん。大好きです」

 ささやけば、弘貴がうっすらと目尻を染めて微笑んでくれる。

 夢の中にいても、どこにいたって。

 この優しい人を、きっと遥香は死ぬまで愛し続けるだろう。そんな確信があった。
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