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好きなのは…
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しおりを挟む昔から同じ夢を見続けてきた。
この夢には何か特別な意味があるのではないかと仮説を立てたが、
もう何年もその答えにたどり着けず、諦めかけてその時。
私は不思議な体験をした。
一瞬のことだった。
妻が言うには、最初は変化に気がつかなかったらしい。
気がつけば私は夢の中の世界にいて、
夢の中の「私」になっていた。
夢の中は違う世界とつながっている。
私の立てた仮説は、間違っていなかったのだ――
クロードと額をつき合わせて本に視線を落としていた遥香は、驚いたように顔をあげた。
「クロード……、これ、わたしと一緒……」
「ああ」
クロードは短く答え、その続きを探すべく本をめくったが、夢の中と入れ替わったという話が書かれていたのはこの箇所だけで、そのあとは夢の中で体験したことが延々と書かれているのみだった。
しかし、クロードはニッと口に弧を描いた。
「どうやら、戻る方法はあるみたいだな」
「え? 戻る方法について書いてあったの?」
「いや……」
クロードは本を閉じると、筆者の名前を確かめ、書かれた年代を探った。
「ドーリッヒ・ホフマン……、今から五十年前か。生きている可能性はあるな」
「待ってクロード、どういう……」
「気づかなかったか? この本は、夢の中と入れ替わったことの体験記だ。つまり、こちらの世界に戻って来ていなければ、この本を書くことはできない。ホフマンは無事、こちらの世界に戻って来ていたんだ」
ホフマンに訊けば、元に戻るヒントが得られるかもしれない――、クロードのその言葉を聞きながら、遥香はざわりと心臓が嫌な音を立てるのを、聞いた。
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