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二度目のキス

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 翌日。

 来週のゴールデンウィークを控えて、連休までに仕上げてしまいたいという仕事を頼まれて、遥香は目が回るほど忙しかった。

 見積もりや提案資料に追われる中、疲れた顔をした営業の斎藤が書類の束を持ってやってくる。

「ごめん、この書類、急いで経理部にもって行ってほしいんだけど大丈夫かな。今から外出しなくちゃいけなくて」

「大丈夫ですよ」

 遥香はキーボードを打つ手を止めると、斎藤から書類を受け取って席を立つ。

「経理部の社内経理課の橘さんに渡して、これ、何とか今日中に通してほしいって言ってくれない?」

「わかりました」

「いいよ、俺が行くから」

 頷いた遥香の手から、ひょいっと書類が奪い取られて、遥香と斎藤は目を丸くした。

「八城係長!」

 書類を奪い取ったのは弘貴だった。眼鏡の奥の瞳が心なしか不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。遥香が戸惑っていると、弘貴は斎藤の肩をポンと叩いた。

「秋月さんにはさっき急ぎの仕事を頼んだしね。俺、今日は社内の予定だし、経理課にはほかに用事があるから、ついでに行ってくるよ。今日中だね」

「すいません、八城係長……」

「いいから、斎藤君は早く外出しておいで。アポの時間に遅れるよ」

「はい、行ってきます!」

 慌ただしく斎藤が外出すると、弘貴の視線が遥香に向く。一瞬、弘貴の瞳が何か言いたそうに細められた気がしたが、特に何か言われるわけでもなく、書類を持ったまま遥香の横を通り過ぎて行った。

 いつもなら、微かに微笑みかけてくれるのに、それもなかった。

 ちくり、と胸に小さな痛みを感じて、遥香は席に座りなおしてうつむく。

 妙な不安にさいなまれて、遥香はそれを振り払うように、キーボードを叩き続けた。
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