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仮面舞踏会
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コレットに押し切られる形で迎えた仮面舞踏会当日。
遥香は伯爵家の一室でコレットに化粧を施されていた。
ドレスはコレットが持ってきた中で、一番控えめなピーコックグリーンのものを選び、過度な露出を避けるため上からショールを羽織る。
胸元を隠すショールをコレットは野暮だの邪魔だの文句を言ったが、遥香はこれだけは頑として譲らなかった。
胸元をさらけ出して歩くなど、恥ずかしくてできるはずがない。
コレットによっていつもより派手めな化粧が施され――仮面をかぶって顔が見えないからいいだろうと説得された――、つややかな黒髪にコテをあてられ、ふんわりとまとめられ、おくれ毛は両サイドに流すように整えられる。
そうして準備が整ったころ、コンコンと控えめに部屋の扉がノックされた。
「姫君たち、もう大丈夫かな?」
スチュアートだった。
コレットが返事をすると、光沢のある黒い上下に身を包んだスチュアートが部屋に入ってくる。襟足にかかるくらいの長さの彼の黒髪は、後ろに撫でつけられ、首元には濃い紫のタイを巻いていた。
前髪を下ろしていることの多い彼が髪を後ろに撫でつけているのを見たのははじめてで、遥香は別人を見ているような気になる。
コレットが「いつもそんな恰好をしていればいいのに」とスチュアートに冗談を言っていて、スチュアートが困ったような顔をしていた。華美な格好を好まない彼は、いつも落ち着いた服を選び、櫛で解かしただけの髪形でいることが多い。
「リリー姫、よく似合うよ」
いつもより華やかないでたちの遥香を見て、スチュアートはにっこりと微笑んだ。
褒められた遥香はうっすらと頬を染め、隣でコレットが勝ち誇ったように笑った。
「当然よ、わたしがお化粧したのよ」
「そうだったね。コレットも今日は一段ときれいだよ」
くすくす笑いながら、スチュアートが身をかがめてコレットの手の甲にキスを落とす。
「ありがとう。あなたもとても素敵よ」
コレットは満足そうな表情を浮かべると、手に持っていた仮面を身に着けた。遥香の顔にも仮面をつけて、腕を引いて立ち上がらせる。
「さ、行きましょうか!」
シルバーの仮面をつけたスチュアートにエスコートされて、遥香は姉とともに舞踏会の会場まで降りて行ったのだった。
遥香は伯爵家の一室でコレットに化粧を施されていた。
ドレスはコレットが持ってきた中で、一番控えめなピーコックグリーンのものを選び、過度な露出を避けるため上からショールを羽織る。
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胸元をさらけ出して歩くなど、恥ずかしくてできるはずがない。
コレットによっていつもより派手めな化粧が施され――仮面をかぶって顔が見えないからいいだろうと説得された――、つややかな黒髪にコテをあてられ、ふんわりとまとめられ、おくれ毛は両サイドに流すように整えられる。
そうして準備が整ったころ、コンコンと控えめに部屋の扉がノックされた。
「姫君たち、もう大丈夫かな?」
スチュアートだった。
コレットが返事をすると、光沢のある黒い上下に身を包んだスチュアートが部屋に入ってくる。襟足にかかるくらいの長さの彼の黒髪は、後ろに撫でつけられ、首元には濃い紫のタイを巻いていた。
前髪を下ろしていることの多い彼が髪を後ろに撫でつけているのを見たのははじめてで、遥香は別人を見ているような気になる。
コレットが「いつもそんな恰好をしていればいいのに」とスチュアートに冗談を言っていて、スチュアートが困ったような顔をしていた。華美な格好を好まない彼は、いつも落ち着いた服を選び、櫛で解かしただけの髪形でいることが多い。
「リリー姫、よく似合うよ」
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褒められた遥香はうっすらと頬を染め、隣でコレットが勝ち誇ったように笑った。
「当然よ、わたしがお化粧したのよ」
「そうだったね。コレットも今日は一段ときれいだよ」
くすくす笑いながら、スチュアートが身をかがめてコレットの手の甲にキスを落とす。
「ありがとう。あなたもとても素敵よ」
コレットは満足そうな表情を浮かべると、手に持っていた仮面を身に着けた。遥香の顔にも仮面をつけて、腕を引いて立ち上がらせる。
「さ、行きましょうか!」
シルバーの仮面をつけたスチュアートにエスコートされて、遥香は姉とともに舞踏会の会場まで降りて行ったのだった。
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