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婚約者
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リリー――遥香は、先ほどから、何着ものドレスを試着させられていた。
「あらー、似合うじゃないの」
姉のコレットがはしゃいだ声を上げて手を叩く。
遥香はレモンイエローのドレスに身を包んで、ぐったりとした表情で姉を見上げた。
かれこれ、十着目のドレスである。今までドレスの試着なんてまともにしたことのなかった遥香は、ドレスを試着することがこれほど大変であるということをはじめて知った。
とにかく、疲れる。
十着目のドレスは、胸元のボリュームがたりない遥香にも似合うよう、細いウエストを強調するように腰回りがきゅっと絞られて、腰から下はふんわりとした布地が幾重にも重ねられて裾まで広がるデザインのドレスだった。
「妖精みたいよ、リリー」
確かに、ドレスはそうだろう。だが、妖精と言われるほど、自分が愛らしいとは思わない。
遥香は今、来週開かれる舞踏会のドレスを試着していた。
いつもなら舞踏会は隅の方で壁の花になっていることが多いのだが、今回は勝手が違うのだ。なぜなら、婚約者である隣国の王子クロードと、初顔合わせの場であるのだから。
一曲目は当然、クロードと踊ることになっている。
父からも華やかなドレスを着るようにと言われ、張り切った姉がお抱えのお針子たちを呼び寄せて、なぜか十着もドレスを新調させたのだ。
着る予定は一着だと言ったのだが、今後も必要になるでしょう、と姉は聞く耳を持たなかった。
「ほらー、やっぱりリリーは明るい暖色が似あうのよ。なんだっていっつもブルー系統や、地味な色合いのドレスを着てるのかしら。これを機に、ほかのドレスは処分しちゃいなさいな」
「お姉さま、わたしは、派手なドレスはちょっと……」
「どこが派手よ! あなたの希望を聞いて、つつましやかに作ったでしょう?」
姉に比べればそうだろう。
姉が今身に着けているドレスもそうだが、彼女は豊満な胸元を強調するデザインや、胸元がざっくりとあいているものを身に着けることが多い。遥香は逆立ちしても無理だった。
「本当はもう少し胸元を開けたかったのよ? 知ってる? 今、胸元が開いているデザインが流行ってるのよ。襟詰めのドレスなんて野暮ったいわ」
襟詰め、というけれど、遥香からしたら「かろうじて」だ。襟詰めデザインに猛反対だった姉との攻防の末、最終的に、レース地の透ける生地で襟元を仕上げることで妥協したのだ。おかげで胸元から襟の部分までは肌が半分透けていて恥ずかしい。
「いいことリリー、婚約を白紙の戻せないのなら、いっそのことクロード王子を骨抜きにしてめちゃくちゃ愛されて幸せになるのよ! アリスをぎゃふんと言わせるにはそれしかないわ!」
「お姉さま、別にわたしはアリスをぎゃふんと言わせたいわけじゃ……」
「何を言ってるの! 本来はあの子が婚約するはずだったのに。土壇場で我儘なんて許されないわ! 今度という今度は、あの我儘な性格を少しは矯正させないと!」
昔から、コレットと末の妹であるアリスは、なぜか仲が悪い。人生波風立てずに生きていくがモットーの遥香は姉とも妹とも仲良くしているつもりなのだが、コレットから言わせれば、アリスとは仲良くしているのではなくて都合よく使われているだけだそうだ。姉妹って難しい。
コレットはにっこり微笑んで、パンと手を叩いた。
「さ、今度は髪形を考えるわよ!」
こうして遥香は、張り切ったコレットによって、まっすぐな黒髪にコテを入れられ、ああでもないこうでもない、と、さんざん髪をいじられる羽目になったのだった。
「あらー、似合うじゃないの」
姉のコレットがはしゃいだ声を上げて手を叩く。
遥香はレモンイエローのドレスに身を包んで、ぐったりとした表情で姉を見上げた。
かれこれ、十着目のドレスである。今までドレスの試着なんてまともにしたことのなかった遥香は、ドレスを試着することがこれほど大変であるということをはじめて知った。
とにかく、疲れる。
十着目のドレスは、胸元のボリュームがたりない遥香にも似合うよう、細いウエストを強調するように腰回りがきゅっと絞られて、腰から下はふんわりとした布地が幾重にも重ねられて裾まで広がるデザインのドレスだった。
「妖精みたいよ、リリー」
確かに、ドレスはそうだろう。だが、妖精と言われるほど、自分が愛らしいとは思わない。
遥香は今、来週開かれる舞踏会のドレスを試着していた。
いつもなら舞踏会は隅の方で壁の花になっていることが多いのだが、今回は勝手が違うのだ。なぜなら、婚約者である隣国の王子クロードと、初顔合わせの場であるのだから。
一曲目は当然、クロードと踊ることになっている。
父からも華やかなドレスを着るようにと言われ、張り切った姉がお抱えのお針子たちを呼び寄せて、なぜか十着もドレスを新調させたのだ。
着る予定は一着だと言ったのだが、今後も必要になるでしょう、と姉は聞く耳を持たなかった。
「ほらー、やっぱりリリーは明るい暖色が似あうのよ。なんだっていっつもブルー系統や、地味な色合いのドレスを着てるのかしら。これを機に、ほかのドレスは処分しちゃいなさいな」
「お姉さま、わたしは、派手なドレスはちょっと……」
「どこが派手よ! あなたの希望を聞いて、つつましやかに作ったでしょう?」
姉に比べればそうだろう。
姉が今身に着けているドレスもそうだが、彼女は豊満な胸元を強調するデザインや、胸元がざっくりとあいているものを身に着けることが多い。遥香は逆立ちしても無理だった。
「本当はもう少し胸元を開けたかったのよ? 知ってる? 今、胸元が開いているデザインが流行ってるのよ。襟詰めのドレスなんて野暮ったいわ」
襟詰め、というけれど、遥香からしたら「かろうじて」だ。襟詰めデザインに猛反対だった姉との攻防の末、最終的に、レース地の透ける生地で襟元を仕上げることで妥協したのだ。おかげで胸元から襟の部分までは肌が半分透けていて恥ずかしい。
「いいことリリー、婚約を白紙の戻せないのなら、いっそのことクロード王子を骨抜きにしてめちゃくちゃ愛されて幸せになるのよ! アリスをぎゃふんと言わせるにはそれしかないわ!」
「お姉さま、別にわたしはアリスをぎゃふんと言わせたいわけじゃ……」
「何を言ってるの! 本来はあの子が婚約するはずだったのに。土壇場で我儘なんて許されないわ! 今度という今度は、あの我儘な性格を少しは矯正させないと!」
昔から、コレットと末の妹であるアリスは、なぜか仲が悪い。人生波風立てずに生きていくがモットーの遥香は姉とも妹とも仲良くしているつもりなのだが、コレットから言わせれば、アリスとは仲良くしているのではなくて都合よく使われているだけだそうだ。姉妹って難しい。
コレットはにっこり微笑んで、パンと手を叩いた。
「さ、今度は髪形を考えるわよ!」
こうして遥香は、張り切ったコレットによって、まっすぐな黒髪にコテを入れられ、ああでもないこうでもない、と、さんざん髪をいじられる羽目になったのだった。
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