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太陽の神様きたる!

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 私情――

(わたしの、せい……)

 とぼとぼとエレノアは廊下を歩く。

 元婚約者のクライヴが、次期国王になるために祝福の儀式に臨むことは知っていた。泉の妖精の城で知った情報によると、ひと月前にその儀式をむかえたはずだ。

(わたしの、せい……)

 次期国王になるためには、月と太陽、双方の神から祝福を得なければならない。儀礼的なものであると聞いたことはあるが、フレイディーベルグが言ったことが正しければ、サーシャロッドはその儀式でクライヴに祝福を与えなかったことになる。

「私情……」

 サーシャロッドは、エレノアが人間界でどのような扱いを受けたか、知っていたのだろうか。

 そうでなければ「私情」でクライヴへの祝福を拒否するとは思えない。

 とぼとぼとぼ、と下を向いて歩く。

 サーシャロッドがクライヴに祝福を与えなかったというのならば、サランシェス国はこれからどうなってしまうのだろうか。

 王への祝福のない国は、荒れると聞く。

 どう荒れるのかはわからない。

 一説によると田畑の実りが減り、雨が減り、飢饉が広がるとも言われるし、他国から攻め入られて滅びるともいう。

 エレノアはぞっとして、足を止めた。

「わたしの、せい……」

 口にすると、どうしようもないほどの罪悪感が押し寄せてくる。

 サランシェス国は、エレノアのせいで滅びるかもしれない。

「どうしよう……」

 エレノアは両手で顔を覆った。

 今からでも遅くないだろうか。サーシャロッドに頭を下げて、クライヴに祝福を授けてほしいと――サランシェス国を滅ぼさないでほしいと頼み込めば、間に合うだろうか。

 しかし、サーシャロッドはエレノアの夫だが神だ。その神の決定に、ただの人間である自分が口を出していいものなのだろうか。口を出して――サーシャロッドに嫌われやしないだろうか。

 一つの国が亡びるかもしれないというのに、サーシャロッドに嫌われたらどうしようという自分の都合を天秤にかけてしまう自分は、何てあさましいのだろう。

 それでも、今のエレノアにはサーシャロッドがすべてだ。彼に嫌われたらと思うと、足元が崩れて奈落の底へと転落していきそうな恐怖を覚える。

 足がすくんで動けなくなったエレノアは、その場にしゃがみこんだ。

「あら、そこのあなた。大丈夫?」

 震えて膝を抱えたエレノアの耳に、鈴を転がしたような声が聞こえて、エレノアはそろそろと顔をあげた。

 振り返れば、すらりと背の高い美女が立っていた。

 波打つ豊かな金色の髪にルビーのように赤い瞳。体のラインに沿うように流れる黒いドレスは、豊満な胸と細い腰をこれでもかと強調している。ざっくりと深くあいた胸元からは、深い谷間が見えていた。何とも妖艶な美女だが、なぜか首に巻きついている真っ赤な首輪と、そこから垂れ下がる短い鎖が何とも奇妙である。

「大変、震えているわ。ちょっとここで休みましょう」

 彼女はエレノアを立たせると、近くにあった部屋へ入って、エレノアを椅子に腰かけさせた。

「顔が真っ青よ? 気分でも悪いのかしら」

「大丈夫です。ちょっと考え事を……。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

 エレノアが深々と頭を下げると、彼女は両手をブンブンと振った。

「いいのよいいのよ。そんなことより、あなたお名前は? 気分が落ち着いたら、もしよかったら案内してほしいところがあるのだけれど」

 エレノアは顔をあげて、首をひねった。

 そう言えば、この人はどこから来たのだろうか。月の宮殿では見ない顔だ。

「エレノアです。あの、案内って……?」

 エレノアが名乗ると、彼女はパン! と手を叩いた。

「まあ! あなたがエレノアちゃん? んまあ! なんてラッキーなの! 確かに子ウサギみたいで美味しそう!」

「むぐっ」

 途端にぱあっと顔を輝かせた美女は、そのままエレノアの頭を抱き寄せてぎゅうっと抱きしめ――結果、豊満すぎる胸の谷間に口と鼻を押しつけられる結果となったエレノアは窒息の危機を覚えて手をバタバタと大きく振った。

「あら、ごめんなさい」

 エレノアが苦しそうなのに気がついたのか、美女は名残惜しそうにエレノアを開放すると、かわりにすりすりとエレノアの頬に頬ずり。

「会えてうれしいわー。あたくしはリリアローズ。フレイ様の妻です。リリーって呼んでね」
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