上 下
46 / 129
結婚式は大騒動!

5

しおりを挟む
 お針子の妖精たちの棟に向かうと、先客がいた。

「いかがですか?」

「丈はもうすこしながいほうがよろしいでしょうか」

「色はうすぴんくにしてみました」

「こしの大きなりぼんがぽいんとです」

「すかーとぶぶんは、ふんわりとひろがって、ばらのはなびらをいめーじしてみました」

「えりもとは大きくあけて、れーすでかざりつけて」

「かみかざりは、こちらのおおきなぼたんの花を」

「ひーるはあぶないとおっしゃられるので、くつはこちらの花もようの、かかとのないもので」

「そうだな……」

 トルソーの前で腕を組んでいるのは、サーシャロッドである。

 エレノアが部屋に入ると、大きく腕を広げた彼女をぎゅっと抱きしめてから、トルソーの前に案内してくれた。

 ドレスを見て、エレノアはぱあっと顔を輝かせる。

 とても可愛らしいドレスだ。

 人間界にいたとき、着飾るのはあまり好きではなかった。ドレスが与えられるのは城に向かうときだけだったが、妹や義母にいつも「貧相」と笑われて、クライヴも冷たい目で見るので、ドレスを着るのが恥ずかしくて仕方がなかったのだ。

 しかし、サーシャロッドはいつも「かわいい」とほめてくれるので、最近では着飾ることが以前よりもずっと楽しい。しかも今回は、サーシャロッドがエレノアのためにデザインを考えてくれたそうだから、もっと嬉しい。

「着替えてみてくれ」

 サーシャロッドがそう言って、エレノアの服のボタンに手をかけようとしたので、エレノアは慌ててその腕から逃げ出した。

「さあさあ、きがえましょう」

「こちらへどうぞ」

「このかーてんのおくへ」

「さーしゃさまは、そちらでおまちを」

「れでぃのきがえは、のぞいてはいけません」

 すかさずお針子の妖精たちがエレノアを取り囲み、サーシャロッドから遠ざけてしまったので、彼は面白くなさそうな顔をした。

「着替えなら私が手伝うが」

「いいえ、とのがたは、れでぃがきがえて出てこられるのをまつべきです」

「れでぃのきがえは、しんせいなもの」

「とのがたが、じゃまをしてはいけません」

「さあ、どうぞそちらのいすにおすわりになって」

「えれのあさまは、わたしたちにおまかせを」

 サーシャロッドはお針子の妖精たちに阻まれて、肩をすくめると、おとなしく椅子に座って待つことにしたようだ。

 エレノアはお針子の妖精たちに連れられてカーテンで仕切られた奥に通されると、彼女たちによって来ていた服が脱がされて、結婚式に着ていくドレスに着替えされられる。

 腰のリボンをきゅっと結ばれ、髪には大輪のダリアの花。布が何層も重ねられて、ふんわりと広がるスカートは、布の色味を少しずつ変えてあるのか淡くグラデーションがかかっている。

 靴を履かされ、鏡の前に立たされると、ほっそりとしているが、決して貧相に見えない自分の姿があって驚いた。

 月の宮に来て、バランスよく食事を取っているからか、体つきも丸みを帯びてきたせいもあるだろうが、細い腰から裾にかけてふんわりと広がっているドレスのデザインのおかげだろう。

 デコルテ部分が大きく開いていて少し恥ずかしいが、首元にも小ぶりなダリアの花のチョーカーが巻かれて、それがとても可愛らしい。

「どうですか?」

 お針子の妖精たちに連れられてサーシャロッドのそばに戻ると、彼は微笑んでぎゅうっと抱きしめてくれた。

「可愛らしいな。このまま連れて帰りたい」

「いけません。まだなおすところがありますから」

「こしのぶぶんが少しあまっているのでつめないと」

「それから、やはり丈もなおして」

「りぼんは、もっと大きくてもいいかもしれません」

「さあさ、ほかになおすところがないか、ごかくにんくださいませ」

「えれのあさま、そのばでくるりと回ってみて」

「すかーとが、少しおもたいかもしれませんね」

「むなもとに、こさーじゅをついかしましょう」

 お針子の妖精たちがエレノアの周りを取り囲み、難しい顔で審議をはじめる。

 妖精たちの妥協のなさに驚きつつも、エレノアは自分の姿を見下ろして、カモミールの姫の結婚式が待ち遠しくなったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【9話完結】お茶会? 茶番の間違いでしょ?『毒を入れるのはやり過ぎです。婚約破棄を言い出す度胸もないなら私から申し上げますね』

西東友一
恋愛
「お姉様もいずれ王妃になるなら、お茶のマナーは大丈夫ですか?」 「ええ、もちろんよ」 「でも、心配ですよね、カイザー王子?」 「ああ」 「じゃあ、お茶会をしましょう。私がお茶を入れますから」  お茶会?  茶番の間違いでしょ?  私は妹と私の婚約者のカイザー第一王子が浮気しているのを知っている。  そして、二人が私を殺そうとしていることも―――

妹の妊娠と未来への絆

アソビのココロ
恋愛
「私のお腹の中にはフレディ様の赤ちゃんがいるんです!」 オードリー・グリーンスパン侯爵令嬢は、美貌の貴公子として知られる侯爵令息フレディ・ヴァンデグリフトと婚約寸前だった。しかしオードリーの妹ビヴァリーがフレディと一夜をともにし、妊娠してしまう。よくできた令嬢と評価されているオードリーの下した裁定とは?

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

初めての相手が陛下で良かった

ウサギテイマーTK
恋愛
第二王子から婚約破棄された侯爵令嬢アリミアは、王子の新しい婚約者付の女官として出仕することを命令される。新しい婚約者はアリミアの義妹。それどころか、第二王子と義妹の初夜を見届けるお役をも仰せつかる。それはアリミアをはめる罠でもあった。媚薬を盛られたアリミアは、熱くなった体を持て余す。そんなアリミアを助けたのは、彼女の初恋の相手、現国王であった。アリミアは陛下に懇願する。自分を抱いて欲しいと。 ※ダラダラエッチシーンが続きます。苦手な方は無理なさらずに。

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

処理中です...