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結婚式は大騒動!
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お針子の妖精たちの棟に向かうと、先客がいた。
「いかがですか?」
「丈はもうすこしながいほうがよろしいでしょうか」
「色はうすぴんくにしてみました」
「こしの大きなりぼんがぽいんとです」
「すかーとぶぶんは、ふんわりとひろがって、ばらのはなびらをいめーじしてみました」
「えりもとは大きくあけて、れーすでかざりつけて」
「かみかざりは、こちらのおおきなぼたんの花を」
「ひーるはあぶないとおっしゃられるので、くつはこちらの花もようの、かかとのないもので」
「そうだな……」
トルソーの前で腕を組んでいるのは、サーシャロッドである。
エレノアが部屋に入ると、大きく腕を広げた彼女をぎゅっと抱きしめてから、トルソーの前に案内してくれた。
ドレスを見て、エレノアはぱあっと顔を輝かせる。
とても可愛らしいドレスだ。
人間界にいたとき、着飾るのはあまり好きではなかった。ドレスが与えられるのは城に向かうときだけだったが、妹や義母にいつも「貧相」と笑われて、クライヴも冷たい目で見るので、ドレスを着るのが恥ずかしくて仕方がなかったのだ。
しかし、サーシャロッドはいつも「かわいい」とほめてくれるので、最近では着飾ることが以前よりもずっと楽しい。しかも今回は、サーシャロッドがエレノアのためにデザインを考えてくれたそうだから、もっと嬉しい。
「着替えてみてくれ」
サーシャロッドがそう言って、エレノアの服のボタンに手をかけようとしたので、エレノアは慌ててその腕から逃げ出した。
「さあさあ、きがえましょう」
「こちらへどうぞ」
「このかーてんのおくへ」
「さーしゃさまは、そちらでおまちを」
「れでぃのきがえは、のぞいてはいけません」
すかさずお針子の妖精たちがエレノアを取り囲み、サーシャロッドから遠ざけてしまったので、彼は面白くなさそうな顔をした。
「着替えなら私が手伝うが」
「いいえ、とのがたは、れでぃがきがえて出てこられるのをまつべきです」
「れでぃのきがえは、しんせいなもの」
「とのがたが、じゃまをしてはいけません」
「さあ、どうぞそちらのいすにおすわりになって」
「えれのあさまは、わたしたちにおまかせを」
サーシャロッドはお針子の妖精たちに阻まれて、肩をすくめると、おとなしく椅子に座って待つことにしたようだ。
エレノアはお針子の妖精たちに連れられてカーテンで仕切られた奥に通されると、彼女たちによって来ていた服が脱がされて、結婚式に着ていくドレスに着替えされられる。
腰のリボンをきゅっと結ばれ、髪には大輪のダリアの花。布が何層も重ねられて、ふんわりと広がるスカートは、布の色味を少しずつ変えてあるのか淡くグラデーションがかかっている。
靴を履かされ、鏡の前に立たされると、ほっそりとしているが、決して貧相に見えない自分の姿があって驚いた。
月の宮に来て、バランスよく食事を取っているからか、体つきも丸みを帯びてきたせいもあるだろうが、細い腰から裾にかけてふんわりと広がっているドレスのデザインのおかげだろう。
デコルテ部分が大きく開いていて少し恥ずかしいが、首元にも小ぶりなダリアの花のチョーカーが巻かれて、それがとても可愛らしい。
「どうですか?」
お針子の妖精たちに連れられてサーシャロッドのそばに戻ると、彼は微笑んでぎゅうっと抱きしめてくれた。
「可愛らしいな。このまま連れて帰りたい」
「いけません。まだなおすところがありますから」
「こしのぶぶんが少しあまっているのでつめないと」
「それから、やはり丈もなおして」
「りぼんは、もっと大きくてもいいかもしれません」
「さあさ、ほかになおすところがないか、ごかくにんくださいませ」
「えれのあさま、そのばでくるりと回ってみて」
「すかーとが、少しおもたいかもしれませんね」
「むなもとに、こさーじゅをついかしましょう」
お針子の妖精たちがエレノアの周りを取り囲み、難しい顔で審議をはじめる。
妖精たちの妥協のなさに驚きつつも、エレノアは自分の姿を見下ろして、カモミールの姫の結婚式が待ち遠しくなったのだった。
「いかがですか?」
「丈はもうすこしながいほうがよろしいでしょうか」
「色はうすぴんくにしてみました」
「こしの大きなりぼんがぽいんとです」
「すかーとぶぶんは、ふんわりとひろがって、ばらのはなびらをいめーじしてみました」
「えりもとは大きくあけて、れーすでかざりつけて」
「かみかざりは、こちらのおおきなぼたんの花を」
「ひーるはあぶないとおっしゃられるので、くつはこちらの花もようの、かかとのないもので」
「そうだな……」
トルソーの前で腕を組んでいるのは、サーシャロッドである。
エレノアが部屋に入ると、大きく腕を広げた彼女をぎゅっと抱きしめてから、トルソーの前に案内してくれた。
ドレスを見て、エレノアはぱあっと顔を輝かせる。
とても可愛らしいドレスだ。
人間界にいたとき、着飾るのはあまり好きではなかった。ドレスが与えられるのは城に向かうときだけだったが、妹や義母にいつも「貧相」と笑われて、クライヴも冷たい目で見るので、ドレスを着るのが恥ずかしくて仕方がなかったのだ。
しかし、サーシャロッドはいつも「かわいい」とほめてくれるので、最近では着飾ることが以前よりもずっと楽しい。しかも今回は、サーシャロッドがエレノアのためにデザインを考えてくれたそうだから、もっと嬉しい。
「着替えてみてくれ」
サーシャロッドがそう言って、エレノアの服のボタンに手をかけようとしたので、エレノアは慌ててその腕から逃げ出した。
「さあさあ、きがえましょう」
「こちらへどうぞ」
「このかーてんのおくへ」
「さーしゃさまは、そちらでおまちを」
「れでぃのきがえは、のぞいてはいけません」
すかさずお針子の妖精たちがエレノアを取り囲み、サーシャロッドから遠ざけてしまったので、彼は面白くなさそうな顔をした。
「着替えなら私が手伝うが」
「いいえ、とのがたは、れでぃがきがえて出てこられるのをまつべきです」
「れでぃのきがえは、しんせいなもの」
「とのがたが、じゃまをしてはいけません」
「さあ、どうぞそちらのいすにおすわりになって」
「えれのあさまは、わたしたちにおまかせを」
サーシャロッドはお針子の妖精たちに阻まれて、肩をすくめると、おとなしく椅子に座って待つことにしたようだ。
エレノアはお針子の妖精たちに連れられてカーテンで仕切られた奥に通されると、彼女たちによって来ていた服が脱がされて、結婚式に着ていくドレスに着替えされられる。
腰のリボンをきゅっと結ばれ、髪には大輪のダリアの花。布が何層も重ねられて、ふんわりと広がるスカートは、布の色味を少しずつ変えてあるのか淡くグラデーションがかかっている。
靴を履かされ、鏡の前に立たされると、ほっそりとしているが、決して貧相に見えない自分の姿があって驚いた。
月の宮に来て、バランスよく食事を取っているからか、体つきも丸みを帯びてきたせいもあるだろうが、細い腰から裾にかけてふんわりと広がっているドレスのデザインのおかげだろう。
デコルテ部分が大きく開いていて少し恥ずかしいが、首元にも小ぶりなダリアの花のチョーカーが巻かれて、それがとても可愛らしい。
「どうですか?」
お針子の妖精たちに連れられてサーシャロッドのそばに戻ると、彼は微笑んでぎゅうっと抱きしめてくれた。
「可愛らしいな。このまま連れて帰りたい」
「いけません。まだなおすところがありますから」
「こしのぶぶんが少しあまっているのでつめないと」
「それから、やはり丈もなおして」
「りぼんは、もっと大きくてもいいかもしれません」
「さあさ、ほかになおすところがないか、ごかくにんくださいませ」
「えれのあさま、そのばでくるりと回ってみて」
「すかーとが、少しおもたいかもしれませんね」
「むなもとに、こさーじゅをついかしましょう」
お針子の妖精たちがエレノアの周りを取り囲み、難しい顔で審議をはじめる。
妖精たちの妥協のなさに驚きつつも、エレノアは自分の姿を見下ろして、カモミールの姫の結婚式が待ち遠しくなったのだった。
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