王子にゴミのように捨てられて失意のあまり命を絶とうとしたら、月の神様に助けられて溺愛されました

狭山ひびき

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空飛ぶ木馬

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 次の日の午後、サーシャロッドとともに中庭に向かったエレノアは大きく目を見開いた。

 サクランボの木のそばに、白いテーブルクロスがかけられた丸いテーブルがおいてあり、その上にたくさんの料理が並んでいる。

 サクランボの木からは「えれのあ、三かげつおめでとう!」と書かれた紙がぶら下がっていた。

 花籠を持ったたくさんの妖精が、エレノアに向かってフラワーシャワーを浴びせて、口々に「えれのあ、おめでとうー」と言っている。

 サーシャロッドは苦笑しながら、「おめでとうの意味がよくわからない」と言うが、彼らを止めようとはしなかった。

 席に着くと、リーファが料理を取り分けてくれる。

 お酒も用意されていたが、エレノアは一度も酒を口にしたことがないので、妖精たちが用意してくれた花の蜜のジュースをもらった。花のいい香りがして、ほんのり甘く、とても飲みやすい。

「妖精さんたち、リーファも、ありがとう」

「どういたしましてなのー」

「えれのあ、にこにこー」

「うれしいのー!」

「でも、これでもっとにこにこになるよ!」

「みてみてー」

「じゃーん!」

 妖精たちが数十人がかりで運んできたものを見て、エレノアはぱちぱちと目を瞬いた。

「木馬……?」

 彼らが運んできたのは、仔馬ほどの大きさの木馬だった。背中の小さな翼が可愛らしい。

「えれのあに、ぷれぜんとー」

「あげるのー」

「えれのあ、いいなーっていったからー」

「空がとべて、いいなーって」

「だから、これでいっしょだねー」

「たのしいねー」

 来て来てーと手を引かれて、エレノアは席から立ち上がると、妖精に連れられて木馬の方へ向かう。

「お前たち、妙なものじゃないだろうな?」

 そう言いつつも、妖精たちがエレノアに危害を加えないことはわかっているので、サーシャロッドは見ているだけで邪魔はしない。

「みょうじゃないよー」

「えれのあ、よろこぶー」

「おきなのところからもらってきたのー」

「おきながつくった、あたらしいおもちゃー」

「空をとぶんだって」

「空とぶもくばなんだってー」

「これでえれのあも、空がとべるねー?」

「お前たち、また翁のところから盗んできたのか。お前たちが悪さをするたびに、私のところに翁から苦情が入るんだぞ」

 過去にも、月の宮殿の妖精たちが不思議な鏡を盗んだとかで、翁がサーシャロッドに文句を言いに来たことがあるのだ。

 サーシャロッドからしてみれば、妖精たちのすることに、いちいち口出しなどしないと言いたいところだが、妖精たちの動機が「エレノア」なので、さすがに知らん顔もできない。

 前回は翁に詫びて、庭に投げ捨てられていた鏡を返しておいたが、今回はすでに妖精たちはエレノアにプレゼントしてしまった。

 エレノアから取り上げるのもかわいそうで、サーシャロッドは手土産でも持って翁に詫びに行こうかと考える。なぜならエレノアは、興味津々で木馬に視線を落としていたから。

「空飛ぶ木馬?」

「そう、おきなのはつめいひんー!」

「おきな、へんなものばっかりつくるのー」

「おもしろいんだよー」

「でもたまにしっぱいするー」

「このまえは、かっこよくなるくすり作ってしっぱいしてたー」

「おきな、もうおじいちゃんなのにねー」

「かっこよくなりたいんだってー」

「でもしっぱいして、おひげがくるくるになったのー」

「おもしろかったー」

「もういっかいならないかなー」

「くるくるぅー」

「ねえねえ、えれのあ、はやくのってみてー」

「いっしょにとぼうよー」

 エレノアはちらりとサーシャロッドを振り返った。サーシャロッドが葡萄酒を片手に一つ頷いてくれたので、恐る恐る木馬に触れてみる。

 どきどきしながら横向きに木馬に腰を下ろした、そのときだった。

「待たんかああああああ――――――!」

 遠くから大きな声が響いて、エレノアは驚いて顔をあげた。空を見上げれば、真っ白いふさふさした髭を蓄えた妖精が、こちらへ飛んできているところだった。

「あれ、おきなだー」

「どうしたのー?」

「いっしょにおいわいするの?」

「おきなあー!」

 妖精たちが暢気に翁へ手を振るが、どうやら彼は慌てている様子で―――

「それは、まだ調教しとらんのじゃ―――!」

 翁がそう叫んだ瞬間、ヒヒーン! と木馬が嘶いて、

「きゃああああああ―――!」

 大地を蹴ると、エレノアを乗せたまま飛び上がり、猛スピードで彼方へと飛んで行った。
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