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妖精の不思議な鏡

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「えれのあからかみのけもらってきたよー!」

 サーシャロッドとエレノアの寝室から戻って来た妖精たちは、仲間が待つ月の宮の庭に戻ると、「はい」と一人の妖精にエレノアの髪の毛を手渡した。

 エレノアの髪の毛を受け取った妖精は、庭の大きな花の上においてある、丸い鏡の中央にエレノアの髪をおく。

 すると、鏡が淡く光って、鏡の表面がまるで水面のように揺れはじめると、エレノアの髪が溶けるように鏡の中に消えて行った。

 鏡の光は一層強くなり、妖精たちを包み込む。

 鏡は、翁の家にあった過去が見えるという不思議な鏡だ。

 妖精たちは翁がミルクを取りに行った隙に鏡を盗むと、月の宮に持ち帰っていたのである。

「これでえれのあのむかしがわかるね」

「どうしてかわいそうなのか、わかるね」

「りゆうがわかったら、よしよししてあげようね」

 エレノアが大好きな好奇心旺盛な妖精たちが、「エレノアがかわいそう」と聞いて黙っているはずはない。

 どうしてかわいそうなのか、知りたくないはずがない。

 だが、エレノア本人に訊くのはさすがに駄目な気がして、こうして鏡を使って調べることにしたらしい。

 鏡はゆっくりと、エレノアの過去を映し出す。

 最初はエレノアが八歳の時だった。

 父親に連れられて王宮に行っていたエレノアだったが、邸に戻るなり父親に突き飛ばされて、驚いて泣き出すと、今度は奥から出てきた義母に頬を叩かれる。

 そして、エレノアが王宮からもらってきたお菓子の包みを、義母と一緒にあらわれた妹が容赦なく奪い去っていった。

「………」

 妖精たちは鏡の中の幼いころの頬が赤く腫れあがったエレノアの姿に息を呑む。

 次は、エレノアが十歳の時だった。

 邸の庭の池に帽子が落ちたから取って来いと妹のシンシアに命令されて、エレノアは池に向かい、長い棒を使って一生懸命シンシアの帽子を取ろうとしていた。すると背後から近づいたシンシアが、勢いよくエレノアの背中を突き飛ばし、池の中に叩き落す。

 泳げないエレノアがばたばたと手足を動かして叫ぶのを見て、シンシアはおかしそうに笑い転げた。

 その次は――

 鏡の中を見ていた妖精たちは、徐々に表情をなくした。

「えれのあ、いじめられていたの?」

 妖精の一人がポツンとつぶやくと、ぐすんと鼻を鳴らしたもう一人の妖精が、「もうみたくない!」と鏡を放り投げる。

 庭には背の低い草花が生えそろっているので、鏡は割れはしなかったが、鏡面を下にしてひっくり返ると、やがて光が消えて、月の宮の庭に静寂が落ちた。

 妖精たちはしばらく暗い表情で黙っていたが、妖精の一人が顔をあげた。

「……えれのあをいじめる人は、ゆるせないね」

 すると、次々と妖精たちが顔をあげていく。

「ゆるせないね」

「いじわる」

「えれのあ、ないてた」

「たたかれた」

「おぼれそうになった」

「いっぱいひどいことされた」

「ぜったい、ゆるせない」

 妖精たちは顔を見合わせると、何度も頷き合う。

「ゆるせないの!」

 ――そしてこの夜、妖精たちはある決心をした。
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