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二度目の幻惑草

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 ……二回目となるとこれは偶然ではないわね。

 わたしはこちらに歩いてくるジークレヒトを軽く睨みつけた。
 ジークレヒトの後ろには、きつめの顔立ちの美人と、それからジークレヒトと似た雰囲気のある男性がいる。どうやら二人はジークレヒトの両親なのだろう。つまり、王姉グレータと、その夫フンベルト・シュタウピッツ公爵だ。
 シュタウピッツ公爵夫妻は、わたしを一瞥しただけで自分たちの席に座ったが、ジークレヒトはなに食わぬ顔でこちらに近づいてくる。

「やあエレオノーラ。今日の君はとても綺麗だね」

 そうしてわたしの手を取った挨拶をしようとしたジークレヒトの間に、ディートリヒが立ち上がると素早く回り込んだ。
 ジークレヒトが眉を跳ね上げてディートリヒを睨む。

「何の真似だ?」
「それはこちらのセリフだ。席に座ったらどうだ? もうじき陛下もいらっしゃる」

 ジークレヒトはなおも文句を言おうとしたが、ディートリヒが言った通り扉が開いて国王が入って来た。
 ジークレヒトは仕方がなさそうにため息をつくと、国王に一礼して自分の席に座る。

 ……あら?

 国王の隣には王妃の席が用意されているにもかかわらず、国王が一人でやって来たことにエレオノーラは首を傾げた。

「アレクサンダー、フランツィスカはどうしたの?」

 ジークレヒトの隣に座るグレータが小声で訊ねたのが聞こえる。
 アレクサンダー国王は、穏やかな顔で答えた。

「フランツィスカは体調を崩していましてね。とても参加できるような顔色ではなかったため休ませています。回復すれば顔を見せると思いますよ」
「王妃がそんなことでは困りますよ」
「そうは言いますが、王妃であっても人間ですよ、姉上」
「……まったく、あなたはそうやってすぐに妻を甘やかす」

 グレータがあからさまにため息を吐いて首を横に振った。
 アレクサンダーがどこか困ったように笑って、それからわたしたちの座る方へ視線を向ける。

「ようやく挨拶ができたね。聖女エレオノーラ」
「お会いできて光栄です、陛下」

 わたしが慌てて立ち上がろうとするのを、アレクサンダーが手で制す。

「堅苦しいのはなしにしよう。あまり君に気を使わせると、ディートリヒがもう二度と君にあわせてくれなくなるかもしれない」
「息子はエレオノーラに夢中なんですよ、兄上」

 ハルネスが笑いながらディートリヒのかわりに答えた。
 ディートリヒは是とも否ともとれる曖昧な笑みを浮かべている。

「私には妃がいるから、エレオノーラを取ったりはしないよ」
「わかってはいても、このくらいの年齢のときは安心できないんですよ。兄上だって、昔はそうだったじゃないですか。覚えていますよ? 私にフランツィスカを取られるかもしれないと勘違いして文句を言いに来たのを。私にはヨゼフィーネがいるのにとあきれたものです」
「こら、今その話をする必要があるか?」

 アレクサンダーがむっと口を曲げた。

「お前はすぐにそうやって昔の話をして私を揶揄う。まったく、そういうところが亡き父上そっくりだ。あーいやだいやだ」

 わたしは目をしばたたいた。
 アレクサンダーとハルネスはずいぶん仲がいいようだが、この場で軽口の応酬がはじまるとは思っていなかったからだ。
 ディートリヒが「いつものことだから」と耳元でささやいて教えてくれる。

「父上があの通りだから、陛下は仕返しに私を揶揄って遊ぼうとするんだ。だからエレオノーラは陛下の言葉を真面目に聞いてはいけないよ」

 いやいや、国王の言葉を真面目に聞いてはいけないと言われても困る。さすがにそれは不敬だろう。

「それはそうと、兄上。義姉上が体調が悪いって、どこか悪いんですか?」
「わからないが、先ほどから侍医に診せている。薬を飲んだから落ち着くと思うんだが、あまりにも青い顔をしていたから休ませておこうと思ってね。何、以前と同じだと思う。数日休めば落ち着くだろうから……」

 アレクサンダーはそう言うが、妻のことが心配なのだろう、表情は暗い。

「すまないが、挨拶が終わったあとで少し中座させてもらう。ハルネス、私がいない間は頼むぞ」
「それはもちろん構いませんけど、以前と同じというと三年前と七年前のときのことですか? あの時義姉上は十日前後も寝込んだ気がしていますが……。やっぱりどこか悪いところがあるんじゃないですか?」
「私もそう思ったが、侍医が大丈夫だと言うんだ。何よりフランツィスカ本人が問題ないと言うのだから、私としてはこれ以上口出しできない。これ以上はこの話題はよしてくれ」
「……わかりました。差し出がましいことを言ってすみません」

 ハルネスは納得していない顔だったが諦めたような顔で謝罪した。
 わたしは二人の様子を見つめながら、小さく首をひねる。

 ……何もないのに、十日も寝込むことがあるのかしら?

 何かが引っかかったが、もちろんわたしが余計な口を挟めるはずもない。

 少ししてパーティーのはじまる時間になると、アレクサンダーが立ち上がって挨拶をし、わたしを聖女だと紹介する。
 そして挨拶を終えて数分後、ハルネスに言った通り、アレクサンダーはやや急ぎ足で会場を出て行った。





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