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迷路迷路迷路‼ 1

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(ふふん、いつまでも泣き寝入りしているわたしじゃないのよ、おあいにく様‼)

 ジルベールにレマディエ公爵家のタウンハウスに閉じ込められて一週間。
 ついにチャンスが巡って来た。

 夜、ニナが下がって部屋の中に一人になると、セレアはベッドから抜け出して、いそいそとベッドの下に隠していたお手製の縄を取り出す。
 これは、ニナに頼んで持って来た布をこそこそとくすねておいて、夜のうちにせっせと編んで作った縄だ。引っ張って強度も確かめたが問題ないと見ている。
 そして逃げ出すチャンスを今か今かと待ち続けていたのである。

(あいつは今日帰ってこないって言ってたもの)

 ジルベールは今夜、友人宅に遊びに行くと言っていた。おそらく帰りは朝方になるだろうと言っていたから、今夜、あいつはこの邸にいないのである。
 もちろん、こんな絶好の機会を逃すセレアではない。

 セレアはお手製の縄を抱えてバルコニーに続くガラス戸をそーっと開けた。
 そしてバルコニーの手すりから下を見下ろして、すぐ近くに見張りがいないのを確かめる。
 ジルベールは徹底していて、夜にも庭に見張りを置いているが、さすがに夜に大勢の見張りを配置しているわけではない。セレアはここ数日の観察で、見張りは二、三名が交代で巡回しているらしいということを突き止めていた。この広大な庭を巡回するのだ。万全ではない。

(よし、どこにもいないわね)

 セレアはバルコニーの手すりに縄の先端をしっかりと結びつけると、それを素早く下に垂らした。そして、縄を伝って庭に降りる。

(ちょろいちょろいっと!)

 もしかしなくても、夜はデュフール男爵家よりも警備が手薄ではなかろうか。公爵家ともあろうものが不用心である。ふふふふふ、油断したわね、ばーか!
 庭に降り立ったセレアは、近くの木の陰に隠れて周囲を伺った。
 見張りはまだこちらに来ていない。今がチャンスだ。

 状態をかがめて、こそこそと暗い夜の庭を走る。
 レマディエ公爵家にもガス灯が付けられていて、正面玄関の近くは夜もガス灯が灯っているので、あそこに近づくのは危険だ。

(門がどこにあるのかはわかんないけど、正面玄関から延びる道の先を目指して行けばたどり着くはずよね!)

 門はおそらく、生け垣のさらに向こうの人口の森の先にあるに違いない。
 なんでわざわざ家の敷地内に森を作っているかは謎だが、金持ちの考えることなんてセレアにはわからないから考えたって無駄である。

(問題はあの森までどうすればたどり着けるかってことよ)

 森に入れば、木々に紛れて進むことができるが、そこまで向かうのが大変だ。
 庭にも木々は植えられているが、ぽつぽつと点在するだけで、ほとんどが芝生に覆われている。後は四阿や噴水、トピアリー、そして何のために作られたのかは謎だが灌木で作られた迷路があるくらいである。あとは花だけだ。

 セレアに言わせれば、土地の無駄遣いである。これだけあればたくさん家が建てられてたくさんの人が住めるのに、もったいない!

 セレアはこそこそと移動して、なんとか灌木で作られた迷路の近くまでたどり着いた。
 迷路をすぎればトピアリーが点在しているだけになる。ここから先を進むのは非常に難易度が高そうだ。しかしのんびりはしていられない。いつ、バルコニーからぶら下がる縄に気づかれるかわかったものではないからだ。
 セレアが息を殺してそーっと一番近くのトピアリーまでを走り抜けようとしたその時だった。
 遠くから足音が聞こえてきて、セレアはぎくりとした。

(しまった! 見張りが来たわ!)

 セレアは咄嗟に、迷路の中に入り込んだ。
 迷路をしばらく行けば、外からはセレアの姿は見えなくなるだろう。
 迷路の灌木の背丈は、セレアの身長をすっぽり覆うくらいあるので、そう簡単には見つからないはずだ。
 月明かりを頼りに、セレアは急いで迷路を進んだ。
 そしてある程度進んだところでしゃがみこむと、見張りの足音が遠ざかるのを待つ。

(よかった、行ったわね……)

 ほっとしたのもつかの間のことだった。
 見張りの、ピーッという笛の音が鳴り響いて、セレアは息を呑んだ。

(縄に気づかれた⁉)

 どうやらそうらしい。
 見張りの笛の音でわらわらと使用人が起き出してきて、バルコニーにぶら下がっている縄を見つけると大騒ぎをはじめる。
 これは、使用人たちが諦めるまでここから動けそうになかった。

(もうちょっと迷路の奥に行っておこうっと)

 できるだけ迷路の奥まで行っておかないと、もしかしたら使用人の誰かが迷路を探しに来るかもしれない。
 セレアは足音を殺して、そーっと迷路の奥へ向かって歩き出す。

(……早く諦めてくれるといいけど)

 迷路の奥まで到着したセレアは、その場にごろんと横になると、彼らの足音と声がしなくなるのをただじっと待っていた。




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