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アルゼースト・バーリー
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アルゼースト・バーリーは貴族ではないが、相当な資産家だったという。そして、その資産は彼一代にして築き上げたと言うのだから、相当頭の切れる男だったようだ。
アルゼーストには子供がなく、また彼が死んだときには遺産を継げるような親族もいなかった。そのためこの邸はつい最近まで没したアルゼーストが所有者のまま放置されていたという。しかし、最近になって法が改正され、土地や資産に対して、一定期間の間、相続者が現れなかった場合、国の持ち物となり、その後に仲介業者を挟んで第三者へ売りに出すことが可能となった。そうして売り出された邸をオリバーが買ったというわけだ。
この邸が売り出されていると、オリバーに教えてくれたのはセルジオ教授だが、オリバーも下調べをなしに大金をはたいて邸を買うような道楽者ではない。きちんと、以前の所有者のことは調べ上げていた。
といっても、アルゼーストが没したのは七十年前で、それほど情報が残っていたわけではない。それども、犯罪歴や生い立ち程度までは調べることができ、まあ問題ないだろうと判断したというわけである。
レオナードはオリバーの話を紅茶を飲みながら聞いていたが、ふと顔をあげた。
「オリバー、この邸は以前の持ち主が収集していたものがそのまま残っていると言っていたな? すると図書室の壁にかかってある変なカードの額縁ももともとあったものか?」
「ああ、あの不気味なやつね。そうだよ。正直図書室にはあまり興味がなくてね、掃除くらいでないと入らないから、そのままになっているよ」
「そうか……」
レオナードはテーブルの上におかれたアルゼーストの肖像画に視線を落とした。
エリザベスは何やら難しい顔になってしまったレオナードに首をひねる。
「何か気になることでもあるの?」
「いや……」
レオナードは言葉を濁したが、自分の中でもまとまらない考えを、一度言葉にして理解しようとでもいうように、ぽつぽつと語った。
「当時……、アルゼーストの生きていたころに、このあたりの宗教――、闇の宗教は、どの程度浸透していたんだろう。今は名前ばかりで信仰が廃れているのだろうが、七十年前まではまだ信仰者もいたのだろうかと思ってね」
オリバーは不思議そうに首を傾げた、
「どうしてまた、急に闇の宗教なんだい?」
「あの不気味なカード、どうやらあれは闇の宗教に関連しているらしくてね」
「そうなのか?」
どうやら本当に図書室には興味がなかったらしいオリバーは、びっくりしたように目を丸くした。
「わざわざ額縁に入れて飾っているくらいだ、少なくともアルゼーストは闇の宗教に興味を持っていたはずだ。信仰していたかどうかまではわからないけどね。ただ――、なんだろうな。こうも事件が続けて起こったからだろうけど、これはただの偶然なのか――と思ってしまっただけだ」
エリザベスはどうして七十年前に死んでしまった人のことが気になるのかがわからなかったが、レオナードの頭の中にはいろいろな推測がぐるぐると回っているのだろうと言うことはわかった。
しかし、今回の事件にこの七十年前に死んだ人がかかわっている可能性は皆無だろうとエリザベスは思う。だって、どうやって死んだ人が事件を起こすと言うのだ。だから、レオナードがどうして疑問を持っているのか、彼女にはわからないのである。
オリバーはふと何かを思い出したように立ち上がった。
「少し待っていてくれ」
そう言って彼は一度部屋を出て行き、戻って来たときは一冊の古ぼけた日記帳を持っていた。
「これは僕が使っている部屋にもともとおいてあった、古い棚の中にあったんだ。鍵がかかっていたんだけど、棚を処分するときに一度壊して中を開けてみたところ、これが一冊だけ入っていた。興味がなかったけどなんとなく捨てられずにとっておいたんだ」
レオナードはオリバーから日記帳を受け取って、何気なく表紙を開いてみた。するとその表紙の裏に、アルゼーストというサインが入っていた。
「アルゼースト・バーリーの日記帳?」
「どうやらそうらしいね。僕には全く興味がないから、君にあげるよ。どうせそのうち処分しようと思っていたし」
レオナードは興味深そうに数ページをぱらぱらとめくり、口端を持ち上げた。
「ありがたくもらっておくよ」
オリバーはどことなく楽しそうに身も見える友人を見つめて、肩をすくめた。
「まったく君は、昔から変なものに興味を持つな」
ついでにこの肖像画もあげるから持って行けよと言われて、レオナードは日記と肖像画を持って、エリザベスとともに部屋に戻ったのだった。
アルゼーストには子供がなく、また彼が死んだときには遺産を継げるような親族もいなかった。そのためこの邸はつい最近まで没したアルゼーストが所有者のまま放置されていたという。しかし、最近になって法が改正され、土地や資産に対して、一定期間の間、相続者が現れなかった場合、国の持ち物となり、その後に仲介業者を挟んで第三者へ売りに出すことが可能となった。そうして売り出された邸をオリバーが買ったというわけだ。
この邸が売り出されていると、オリバーに教えてくれたのはセルジオ教授だが、オリバーも下調べをなしに大金をはたいて邸を買うような道楽者ではない。きちんと、以前の所有者のことは調べ上げていた。
といっても、アルゼーストが没したのは七十年前で、それほど情報が残っていたわけではない。それども、犯罪歴や生い立ち程度までは調べることができ、まあ問題ないだろうと判断したというわけである。
レオナードはオリバーの話を紅茶を飲みながら聞いていたが、ふと顔をあげた。
「オリバー、この邸は以前の持ち主が収集していたものがそのまま残っていると言っていたな? すると図書室の壁にかかってある変なカードの額縁ももともとあったものか?」
「ああ、あの不気味なやつね。そうだよ。正直図書室にはあまり興味がなくてね、掃除くらいでないと入らないから、そのままになっているよ」
「そうか……」
レオナードはテーブルの上におかれたアルゼーストの肖像画に視線を落とした。
エリザベスは何やら難しい顔になってしまったレオナードに首をひねる。
「何か気になることでもあるの?」
「いや……」
レオナードは言葉を濁したが、自分の中でもまとまらない考えを、一度言葉にして理解しようとでもいうように、ぽつぽつと語った。
「当時……、アルゼーストの生きていたころに、このあたりの宗教――、闇の宗教は、どの程度浸透していたんだろう。今は名前ばかりで信仰が廃れているのだろうが、七十年前まではまだ信仰者もいたのだろうかと思ってね」
オリバーは不思議そうに首を傾げた、
「どうしてまた、急に闇の宗教なんだい?」
「あの不気味なカード、どうやらあれは闇の宗教に関連しているらしくてね」
「そうなのか?」
どうやら本当に図書室には興味がなかったらしいオリバーは、びっくりしたように目を丸くした。
「わざわざ額縁に入れて飾っているくらいだ、少なくともアルゼーストは闇の宗教に興味を持っていたはずだ。信仰していたかどうかまではわからないけどね。ただ――、なんだろうな。こうも事件が続けて起こったからだろうけど、これはただの偶然なのか――と思ってしまっただけだ」
エリザベスはどうして七十年前に死んでしまった人のことが気になるのかがわからなかったが、レオナードの頭の中にはいろいろな推測がぐるぐると回っているのだろうと言うことはわかった。
しかし、今回の事件にこの七十年前に死んだ人がかかわっている可能性は皆無だろうとエリザベスは思う。だって、どうやって死んだ人が事件を起こすと言うのだ。だから、レオナードがどうして疑問を持っているのか、彼女にはわからないのである。
オリバーはふと何かを思い出したように立ち上がった。
「少し待っていてくれ」
そう言って彼は一度部屋を出て行き、戻って来たときは一冊の古ぼけた日記帳を持っていた。
「これは僕が使っている部屋にもともとおいてあった、古い棚の中にあったんだ。鍵がかかっていたんだけど、棚を処分するときに一度壊して中を開けてみたところ、これが一冊だけ入っていた。興味がなかったけどなんとなく捨てられずにとっておいたんだ」
レオナードはオリバーから日記帳を受け取って、何気なく表紙を開いてみた。するとその表紙の裏に、アルゼーストというサインが入っていた。
「アルゼースト・バーリーの日記帳?」
「どうやらそうらしいね。僕には全く興味がないから、君にあげるよ。どうせそのうち処分しようと思っていたし」
レオナードは興味深そうに数ページをぱらぱらとめくり、口端を持ち上げた。
「ありがたくもらっておくよ」
オリバーはどことなく楽しそうに身も見える友人を見つめて、肩をすくめた。
「まったく君は、昔から変なものに興味を持つな」
ついでにこの肖像画もあげるから持って行けよと言われて、レオナードは日記と肖像画を持って、エリザベスとともに部屋に戻ったのだった。
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