爵位目当ての求婚はお断りします!~庶民育ち令嬢と俺様求婚者のどたばた事件~

狭山ひびき@バカふり200万部突破

文字の大きさ
上 下
60 / 60
アルゼースト・バーリー

7

しおりを挟む
 アルゼースト・バーリーは貴族ではないが、相当な資産家だったという。そして、その資産は彼一代にして築き上げたと言うのだから、相当頭の切れる男だったようだ。

 アルゼーストには子供がなく、また彼が死んだときには遺産を継げるような親族もいなかった。そのためこの邸はつい最近まで没したアルゼーストが所有者のまま放置されていたという。しかし、最近になって法が改正され、土地や資産に対して、一定期間の間、相続者が現れなかった場合、国の持ち物となり、その後に仲介業者を挟んで第三者へ売りに出すことが可能となった。そうして売り出された邸をオリバーが買ったというわけだ。

 この邸が売り出されていると、オリバーに教えてくれたのはセルジオ教授だが、オリバーも下調べをなしに大金をはたいて邸を買うような道楽者ではない。きちんと、以前の所有者のことは調べ上げていた。

 といっても、アルゼーストが没したのは七十年前で、それほど情報が残っていたわけではない。それども、犯罪歴や生い立ち程度までは調べることができ、まあ問題ないだろうと判断したというわけである。

 レオナードはオリバーの話を紅茶を飲みながら聞いていたが、ふと顔をあげた。

「オリバー、この邸は以前の持ち主が収集していたものがそのまま残っていると言っていたな? すると図書室の壁にかかってある変なカードの額縁ももともとあったものか?」

「ああ、あの不気味なやつね。そうだよ。正直図書室にはあまり興味がなくてね、掃除くらいでないと入らないから、そのままになっているよ」

「そうか……」

 レオナードはテーブルの上におかれたアルゼーストの肖像画に視線を落とした。

 エリザベスは何やら難しい顔になってしまったレオナードに首をひねる。

「何か気になることでもあるの?」

「いや……」

 レオナードは言葉を濁したが、自分の中でもまとまらない考えを、一度言葉にして理解しようとでもいうように、ぽつぽつと語った。

「当時……、アルゼーストの生きていたころに、このあたりの宗教――、闇の宗教は、どの程度浸透していたんだろう。今は名前ばかりで信仰が廃れているのだろうが、七十年前まではまだ信仰者もいたのだろうかと思ってね」

 オリバーは不思議そうに首を傾げた、

「どうしてまた、急に闇の宗教なんだい?」

「あの不気味なカード、どうやらあれは闇の宗教に関連しているらしくてね」

「そうなのか?」

 どうやら本当に図書室には興味がなかったらしいオリバーは、びっくりしたように目を丸くした。

「わざわざ額縁に入れて飾っているくらいだ、少なくともアルゼーストは闇の宗教に興味を持っていたはずだ。信仰していたかどうかまではわからないけどね。ただ――、なんだろうな。こうも事件が続けて起こったからだろうけど、これはただの偶然なのか――と思ってしまっただけだ」

 エリザベスはどうして七十年前に死んでしまった人のことが気になるのかがわからなかったが、レオナードの頭の中にはいろいろな推測がぐるぐると回っているのだろうと言うことはわかった。

 しかし、今回の事件にこの七十年前に死んだ人がかかわっている可能性は皆無だろうとエリザベスは思う。だって、どうやって死んだ人が事件を起こすと言うのだ。だから、レオナードがどうして疑問を持っているのか、彼女にはわからないのである。

 オリバーはふと何かを思い出したように立ち上がった。

「少し待っていてくれ」

 そう言って彼は一度部屋を出て行き、戻って来たときは一冊の古ぼけた日記帳を持っていた。

「これは僕が使っている部屋にもともとおいてあった、古い棚の中にあったんだ。鍵がかかっていたんだけど、棚を処分するときに一度壊して中を開けてみたところ、これが一冊だけ入っていた。興味がなかったけどなんとなく捨てられずにとっておいたんだ」

 レオナードはオリバーから日記帳を受け取って、何気なく表紙を開いてみた。するとその表紙の裏に、アルゼーストというサインが入っていた。

「アルゼースト・バーリーの日記帳?」

「どうやらそうらしいね。僕には全く興味がないから、君にあげるよ。どうせそのうち処分しようと思っていたし」

 レオナードは興味深そうに数ページをぱらぱらとめくり、口端を持ち上げた。

「ありがたくもらっておくよ」

 オリバーはどことなく楽しそうに身も見える友人を見つめて、肩をすくめた。

「まったく君は、昔から変なものに興味を持つな」

 ついでにこの肖像画もあげるから持って行けよと言われて、レオナードは日記と肖像画を持って、エリザベスとともに部屋に戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

淡雪
2020.10.22 淡雪

狭山先生の書くお話、全部大好きです。ミステリーと恋愛がちょうどよく融合されて、面白いです。更新楽しみにしています。

2020.10.22 狭山ひびき@バカふり200万部突破

ありがとうございます🥰
更新できていなくてすみません💦
落ち着いたら、こちらも続きを書きます!

解除
hari
2020.08.14 hari

混沌?

解除
ベイマックス

チチ、ケビョウ、ミステヨ、ニゲロ、ですよ〜

解除

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

遠くに行ってしまった幼なじみが副社長となって私を溺愛してくる

有木珠乃
恋愛
休日、入社したての会社の周りを散策していた高野辺早智。 そこで、中学校に入学するのを機に、転校してしまった幼なじみ、名雪辰則と再会する。 懐かしさをにじませる早智とは違い、辰則にはある思惑があった。 辰則はもう、以前の立場ではない。 リバーブラッシュの副社長という地位を手に入れていたのだ。 それを知った早智は戸惑い、突き放そうとするが、辰則は逆に自分の立場を利用して強引に押し進めてしまう。 ※ベリーズカフェ、エブリスタにも投稿しています。

【完結】真実の愛のキスで呪い解いたの私ですけど、婚約破棄の上断罪されて処刑されました。時間が戻ったので全力で逃げます。

かのん
恋愛
 真実の愛のキスで、婚約者の王子の呪いを解いたエレナ。  けれど、何故か王子は別の女性が呪いを解いたと勘違い。そしてあれよあれよという間にエレナは見知らぬ罪を着せられて処刑されてしまう。 「ぎゃあぁぁぁぁ!」 これは。処刑台にて首チョンパされた瞬間、王子にキスした時間が巻き戻った少女が、全力で王子から逃げた物語。  ゆるふわ設定です。ご容赦ください。全16話。本日より毎日更新です。短めのお話ですので、気楽に頭ふわっと読んでもらえると嬉しいです。※王子とは結ばれません。 作者かのん .+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.ホットランキング8位→3位にあがりました!ひゃっほーー!!!ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。