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アルゼースト・バーリー

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 セルジオ博士たちが戻って来たのは、晩餐の少し前だった。

 レオナードがオリバーにキャリーのことを報告したが、彼は大きくため息をついただけで、それほど悩んだ様子はなかった。オリバーの中では、キャリーとの婚約を破棄する決意が固まっていたので、彼に苦悩した様子がなかったのはそのためだろう。

 食事が終わると、レオナードは唐突に言った。

「博士、闇の宗教についてお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「もちろんかまいませんよ。何をお知りになりたいのです?」

 博士は食後のワインを飲みながらにこやかに答えた。

「博士は以前、リジーに今年が闇の宗教で『復活』の年になるとおっしゃったそうですね。その『復活』の年とは、いったい何なんでしょう?」

 博士はうむ、とひとつ頷いてから、ワイングラスをおいた。

 給仕がデカンタを持って、それぞれの席にワインを注ぎ足して回った。エリザベスは酒が強くないので断って、かわりにハーブティーを持ってきてもらうことにした。

「『復活』の年は、十三年に一度回ってくる闇の宗教でもっとも重要な年です。『復活』の年には、闇の王に生贄を捧げるのが習わしで、王がこの地に降り立ち、彼の目にかなったものに不老不死を与えると信じられていました」

「生贄っ?」

 エリザベスは声を裏返した。

 すると博士は小さく笑った。

「生贄と言っても、豚や鶏、羊などの家畜です。ずっと昔は、本当に人を生贄にささげていたという記述もありましたがね」

 エリザベスは急に怖くなって、思わずレオナードを見上げた。彼は微笑んで、テーブルの下で彼女の手を握りしめてくれた。

「なるほど。その生贄を捧げる日は決まっていたんですか?」

「ええ。ちょうどほら、二週間後の新月の日ですよ。もちろん、闇の宗教が廃れた今、そんなことは誰もしませんがね」

 だから安心しなさいとセルジオ博士はエリザベスに言って、席を立った。

「以上ですかな? わしは今日集めた情報を整理したいので失礼しますよ」

 レオナードが頷いて礼を言うと、教授はフリップを伴って居間を出て行った。

 彼らが出て行くと、オリバーが不思議そうに訊ねてきた。

「まさか君まで、闇の宗教に興味を示したんじゃないだろうね?」

 レオナードは苦笑した。

「まさか。ちょっと気になることがあっただけだ」

 レオナードはグラスに入ったワインを飲み干すと、「おやすみ」とオリバーに告げて、エリザベスと手をつないだまま部屋を出て行った。
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