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アルゼースト・バーリー
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闇の宗教の経典をすべて読み終えた私は、雷に打たれたような衝撃を受けた。
ああ――、私は、「そう」だったのだ。
私は長年の疑問に謎が解けたとともに、不安になった。
私は私が何者かを知ってしまった。それは、私がこれからどうやって生きて行けばいいのかという新たな疑問を提示されたも同じだった。
私は私をこれから偽らないといけないだろう。
私はこのまま私のままで生きていくことは、到底できなくなってしまった。
私は苦悶し、懊悩し、そして次第に人目につかない生活を送るようになった。
妻は、家に閉じこもるようになってしまった私を心配したようだった。
しかし私は、私のこの顔を世間から隠さなければならなかった。
妻は最初は私の外に出るように言っていたが、次第に諦めたらしかった。幸いなことに、私はすでに人財産を築いていて、私が働かなくとも、私たちは十分すぎるほど裕福な暮しができていたから、妻は不満がないようだった。
夫が閉じこもってしまったので、妻は女友達とよく出かけるようになったが、私は文句を言わなかった。
妻はよくできた女性だ。いつも優しく朗らかで、家の中を明るく照らしてくれる。
友人と出かけて家に戻ると、彼女はその日にあった面白かった話を私に聞かせてくれたから、私は家の中にいながら外の様子を知ることができた。
しかし、そんな最愛の妻も、それから三十年ほどたったころ、病でぽっくりと逝ってしまった。
最後に彼女が言った言葉を、私は忘れないだろう。
―――本当に、あなたは若いままね。
ささやくように、感嘆したように言って息を引き取った妻の顔は、病で苦しんだわりに穏やかだった。
私はこの時、少しばかり後悔した。
私は彼女を「救う」方法を知っていた。しかし、躊躇ってしまったのだ。私が私自身に苦悩するように、彼女に同じ苦しみを味わってほしくはなかったのだ。
そして、私は一人ぼっちになった。取り残された私はしばしの間茫然とし、そして、愛した妻とすごしたこの地を去る決心をした――
ああ――、私は、「そう」だったのだ。
私は長年の疑問に謎が解けたとともに、不安になった。
私は私が何者かを知ってしまった。それは、私がこれからどうやって生きて行けばいいのかという新たな疑問を提示されたも同じだった。
私は私をこれから偽らないといけないだろう。
私はこのまま私のままで生きていくことは、到底できなくなってしまった。
私は苦悶し、懊悩し、そして次第に人目につかない生活を送るようになった。
妻は、家に閉じこもるようになってしまった私を心配したようだった。
しかし私は、私のこの顔を世間から隠さなければならなかった。
妻は最初は私の外に出るように言っていたが、次第に諦めたらしかった。幸いなことに、私はすでに人財産を築いていて、私が働かなくとも、私たちは十分すぎるほど裕福な暮しができていたから、妻は不満がないようだった。
夫が閉じこもってしまったので、妻は女友達とよく出かけるようになったが、私は文句を言わなかった。
妻はよくできた女性だ。いつも優しく朗らかで、家の中を明るく照らしてくれる。
友人と出かけて家に戻ると、彼女はその日にあった面白かった話を私に聞かせてくれたから、私は家の中にいながら外の様子を知ることができた。
しかし、そんな最愛の妻も、それから三十年ほどたったころ、病でぽっくりと逝ってしまった。
最後に彼女が言った言葉を、私は忘れないだろう。
―――本当に、あなたは若いままね。
ささやくように、感嘆したように言って息を引き取った妻の顔は、病で苦しんだわりに穏やかだった。
私はこの時、少しばかり後悔した。
私は彼女を「救う」方法を知っていた。しかし、躊躇ってしまったのだ。私が私自身に苦悩するように、彼女に同じ苦しみを味わってほしくはなかったのだ。
そして、私は一人ぼっちになった。取り残された私はしばしの間茫然とし、そして、愛した妻とすごしたこの地を去る決心をした――
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