52 / 60
消えた二人目の遺体
7
しおりを挟む
「警部、そんなに息を切らして、どうされたんですか?」
ボナー警部が息を切らせてそばまでやってくると、レオナードは不思議そうに訊ねた。
警部はレオナードの手首をつかむと、「ちょっと、ちょっとこっちへ」と言いながら引っ張った。
レオナードとエリザベスは顔を見合わせて、とりあえずボナー警部に従うことにした。
警部は町にある小さな駐屯所に二人を連れて行くと、狭い室内に押し込んだ。そこには先客がいて、それがセルジオ博士と助手のフリップだったのでエリザベスは驚いた。
ボナー警部は二人に椅子をすすめると、額に浮かんだ汗をぬぐった。
「いや、大尉がここにいてくれて助かりました。今から子爵のところへお伺いしようと思っていたものですから」
「なにかあったんですか?」
ボナー警部は眉を寄せて「ええ、まあ」と歯切れの悪い返事をした。
そして警部は、エリザベスとレオナードのために茶を煎れてくれようとしたが、その手つきが危なっかしかったので、エリザベスは手伝いを買って出た。
警部にかわって沸かした湯で紅茶を煎れると、レオナードと警部、自分の席にそれをおいた。セルジオ博士とフリップの手元にはすでに茶が用意されていた。
警部は王都に帰れないため、もともとあった駐屯所で生活しているらしい。ここには若い警官が一人住んでいたが、今は町の見回りに出ていていないという。
警部はエリザベスの煎れた紅茶で一息つくと、やっと口を開いた。
「今朝、一人の女性が遺体で見つかったんです」
エリザベスは嫌な予感がした。
レオナードも表情を強張らせて、ボナー警部に訊ねた。
「もしかして、キャリー嬢……?」
「ああ、いえ! ドーリー伯爵令嬢ではありません」
レオナードとエリザベスは二人そろって胸を撫でおろした。
「彼女の名前はドロシーと言って、まあ、あれです。俗にいう、娼婦というか、まあ、そんなことで生計を立てていた女性です」
ボナー警部はエリザベスに視線を向けて、言いにくそうに告げた。しかしエリザベスは「娼婦」が何なのかわからなかったため、わかったふりをして頷いておいた。
ボナー警部は続けた。
「ドロシーの遺体は今朝、彼女の家の寝室で見つかりました。死因はわかりませんが、近所の住人の証言によると、昨夜男が来ていたというので、その男が何か事情を知っているのではないかと探していたのです。遺体はそのまま彼女の家においておくわけにもいかなかったので、いったん教会に預けました。そして私は、昨夜訪れたという男を探したのですが、なんというか、彼女にはたくさんの客がいて、これがなかなか難航してしまいまして。先に遺体を見ることにしようと、私は教会に向かったのです。そうしたら――、男の死体と同様、ドロシーの遺体も忽然と消えていたのですよ」
「またですか」
レオナードは難しい顔をした。
「それで、遺体を持ちだした犯人はわかったんですか?」
「いえ、それが――」
ボナー警部はため息をついた。
「目撃情報はありました。ドロシーの遺体が教会に預けられて、私が捜査をしていた間、教会のあたりをうろうろしていた人影を見たという有力な情報が。しかし――」
「しかし?」
ボナー警部はここでセルジオ教授たちに視線を移した。セルジオ博士は、小さく咳ばらいをして、言った。
「教会の周りをうろうろしていたのは、お嬢ちゃんだったんですよ」
「お嬢ちゃん?」
「子爵の婚約者である、キャリー伯爵令嬢です」
エリザベスは目を見開いた。
ボナー警部が息を切らせてそばまでやってくると、レオナードは不思議そうに訊ねた。
警部はレオナードの手首をつかむと、「ちょっと、ちょっとこっちへ」と言いながら引っ張った。
レオナードとエリザベスは顔を見合わせて、とりあえずボナー警部に従うことにした。
警部は町にある小さな駐屯所に二人を連れて行くと、狭い室内に押し込んだ。そこには先客がいて、それがセルジオ博士と助手のフリップだったのでエリザベスは驚いた。
ボナー警部は二人に椅子をすすめると、額に浮かんだ汗をぬぐった。
「いや、大尉がここにいてくれて助かりました。今から子爵のところへお伺いしようと思っていたものですから」
「なにかあったんですか?」
ボナー警部は眉を寄せて「ええ、まあ」と歯切れの悪い返事をした。
そして警部は、エリザベスとレオナードのために茶を煎れてくれようとしたが、その手つきが危なっかしかったので、エリザベスは手伝いを買って出た。
警部にかわって沸かした湯で紅茶を煎れると、レオナードと警部、自分の席にそれをおいた。セルジオ博士とフリップの手元にはすでに茶が用意されていた。
警部は王都に帰れないため、もともとあった駐屯所で生活しているらしい。ここには若い警官が一人住んでいたが、今は町の見回りに出ていていないという。
警部はエリザベスの煎れた紅茶で一息つくと、やっと口を開いた。
「今朝、一人の女性が遺体で見つかったんです」
エリザベスは嫌な予感がした。
レオナードも表情を強張らせて、ボナー警部に訊ねた。
「もしかして、キャリー嬢……?」
「ああ、いえ! ドーリー伯爵令嬢ではありません」
レオナードとエリザベスは二人そろって胸を撫でおろした。
「彼女の名前はドロシーと言って、まあ、あれです。俗にいう、娼婦というか、まあ、そんなことで生計を立てていた女性です」
ボナー警部はエリザベスに視線を向けて、言いにくそうに告げた。しかしエリザベスは「娼婦」が何なのかわからなかったため、わかったふりをして頷いておいた。
ボナー警部は続けた。
「ドロシーの遺体は今朝、彼女の家の寝室で見つかりました。死因はわかりませんが、近所の住人の証言によると、昨夜男が来ていたというので、その男が何か事情を知っているのではないかと探していたのです。遺体はそのまま彼女の家においておくわけにもいかなかったので、いったん教会に預けました。そして私は、昨夜訪れたという男を探したのですが、なんというか、彼女にはたくさんの客がいて、これがなかなか難航してしまいまして。先に遺体を見ることにしようと、私は教会に向かったのです。そうしたら――、男の死体と同様、ドロシーの遺体も忽然と消えていたのですよ」
「またですか」
レオナードは難しい顔をした。
「それで、遺体を持ちだした犯人はわかったんですか?」
「いえ、それが――」
ボナー警部はため息をついた。
「目撃情報はありました。ドロシーの遺体が教会に預けられて、私が捜査をしていた間、教会のあたりをうろうろしていた人影を見たという有力な情報が。しかし――」
「しかし?」
ボナー警部はここでセルジオ教授たちに視線を移した。セルジオ博士は、小さく咳ばらいをして、言った。
「教会の周りをうろうろしていたのは、お嬢ちゃんだったんですよ」
「お嬢ちゃん?」
「子爵の婚約者である、キャリー伯爵令嬢です」
エリザベスは目を見開いた。
0
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる