爵位目当ての求婚はお断りします!~庶民育ち令嬢と俺様求婚者のどたばた事件~

狭山ひびき@バカふり200万部突破

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消えた二人目の遺体

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「オリバー様にはたまたま会っただけよ! たまたまなんだから!」

 庭から部屋に戻ってくるなり、エリザベスはレオナードに向かってそう言った。

 弁解じみているが、悪いことをしていないはずなのに、どうしてか少しだけ後ろめたかったからだ。

 しかし、いつもなら「オリバーに惹かれるな」と不機嫌そうに言う彼が、どうしてかにこやかにこう返してきた。

「わかっているよ。おかえり、リジー」

 彼はローテーブルの上にティーセットを用意していた。「こっちにおいで」と手招かれて、エリザベスは拍子抜けした気分を味わいながら、ソファに腰を下ろす。

 オリバーが言った通り、庭から手を振ったから安心したのだろうか? そうだとすれば、すごい効果だ。さすがオリバー、友人だけ会ってレオナードの性格を熟知している。

 エリザベスは一人で勝手に納得して、レオナードが勧めてくるアーモンドがたっぷりと入った焼き菓子に手を伸ばした。

 昼前だからたくさん食べるわけにもいかないが、サクッとしていて芳ばしくて、この焼き菓子はとても美味しかった。町で有名な菓子店の菓子らしい。使用人が買い出しに行くときに、ついでに買ってきてもらうように頼んだらしかった。

「気に入ったのなら、また買ってこさせよう」

 レオナードはそう言って、エリザベスの紅茶に砂糖を一つとミルクを入れて差し出してきた。エリザベスは砂糖の入ったミルクティーが好きだ。でも、どうしてそれを知っているのだろうと不思議に思いながら、エリザベスは「ありがとう」と受け取った。

「午後から町に降りてみようか。ずっと邸の中にいるのも気が滅入るだろう?」

 エリザベスにとってそれはありがたい申し出だった。部屋で本を読むのも、宝探しの真似事で古代ラグナ文字の暗号を読み解くのも楽しかったが、気分転換だってしたい。

「町でほしいものがあったら買ってあげるから、遠慮なく言うといい」

「ありがとう」

 エリザベスは、レオナードがいつになく優しいのを怪訝に思いながらも素直に頷いた。

 レオナードが、オリバーに午後からの馬車の手配を頼んでくると言って部屋を出て行くと、残されたエリザベスは、二枚目の焼き菓子に手を伸ばしながらつぶやいた。

「へんなの」

 昨日や今朝の強引さといい、今見せた優しさといい、レオナードの様子がおかしい。

 エリザベスは不思議だったが、元来あまり深く考えない性質の彼女は、あっさりその疑問を手放すと、おいしい焼き菓子に舌鼓を打ったのだった。
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