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消えた二人目の遺体

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 夜、エリザベスは風呂上がりに、『青騎士物語』を開いていた。

 レオナードは先ほどから難しい顔で何やら考え込んでいる。

 エリザベスはそんなレオナードが気になって、本をおいて顔をあげた。

「さっきからどうしたの?」

「いや……、遺体が消えたと言うのが気になって」

「ああ、あのお祭りの時の……」

 祭りの夜のことを思い出して、エリザベスが無意識に二の腕をさすっていると、それに気づいたレオナードが彼女の隣に腰かけた。

 エリザベスはその時、ベッドの淵に腰を下ろしていた。レオナードが座った拍子にスプリングがきしんで軽くよろめくと、彼はエリザベスの肩に手を回した。

 エリザベスは肩に回された手が気になったが、払い落とさなかった。祭りの夜のことを思い出して少し怖くなったから、彼のぬくもりは安心できた。

「復活の年に消えた遺体、か……」

「なによそれ?」

「うん? 君が言ったんだよ、セルジオ博士が、復活の年に死者が出たのが気になっていると言っていた、ってね」

「ああ、そういえば、そうね」

 セルジオ博士の言う『復活の年』が何なのかはわからないが、確かに彼は、気になると言っていた。嫌な予感がするとも。もしかして教授は、このことを予見していたのだろうか。

「博士に話を聞いてみてもいいかもしれないな。取り越し苦労だったらいいけれど、さすがに遺体が消えると言うのは穏やかではない。もしも博士の言う通り、闇の宗教の『復活』の年に何か関係しているのだとすれば、博士の話を聞くことで何か手掛かりが得られるかもしれない」

 エリザベスは「そうね」と頷いて、カーテンを閉めている窓を見やった。

「キャリーさんも早く見つかるといいわね。宿に泊まっているだけならいいんだけど」

 しかしそれなら、ボナー警部がすぐに見つけているはずだ。見つからないと言うことは、町の宿を使っていない可能性が高い。いったいどこに行ったのだろう。今回の事件に彼女が関わっているとは思えないが、心配だ。

「君は優しいな。彼女にはあんな失礼な態度をとられたというのに」

「それとこれとは話が別よ。彼女が好きか嫌いかと言われれば、好きになれそうにはないもの」

「でも心配はするんだろう? その優しさを、少しは俺に向けてくれてもいいんじゃないかな」

 レオナードはエリザベスの顔を覗き込んだ。急に近くなった顔にエリザベスは驚いて、ぱっと顔をそらした。

「あ、あんたがもしいなくなっても、ちゃんと心配するわよ」

「なんだかそれはキャリーと同じ扱いをされているようで面白くないな。俺のことも好きになれないと言っているみたいだ。俺のことは少しは好きだろう?」

「はあ?」

 エリザベスは素っ頓狂な声をあげてレオナードを見上げた。

 するとレオナードは、体の向きを変えて、エリザベスを腕の中に閉じ込めるように、彼女の両脇に手をおいた。

 エリザベスは慌てて後ずさった。

 しかしレオナードは、逃げるエリザベスについてくる。エリザベスがベッドの上まで逃げると、ついには逃げ場がなくなって、後ろはベッドボード、前にはレオナードに囲まれてしまった。

「ねえ、少しは好きだろう?」

「い、意味がわからないわ! あんた、酔ってるんじゃないの?」

「今日は酔うほど飲んでないよ」

「でも飲んでるんじゃない! 酔ってるのよ!」

「俺が酔っていてもいなくても関係ないだろう? それで、どう? 俺のことはどのくらい好き? このくらい? それとも、このくらい?」

 レオナードが指と指とで距離を測るように動かしながら、問い詰めてくる。

 エリザベスは顔を真っ赤に染めた。

「ば、馬鹿なことを言っていないで、もう寝ようよ」

「君が俺の腕の中で眠ってくれるなら、寝てもいい」

「レオナード!」

 エリザベスは悲鳴のような声をあげた。

 レオナードはそんな彼女の様子を楽しむように顔を近づける。

「レオと呼んでほしいと最初に言ったよ。君はいつになったら俺をそう呼んでくれるんだろう」

「呼ばな――」

「ふむ、可愛くないことを言うこの口は塞いでしまってもいい気がするんだけど、どうかな?」

 そう言いながら、レオナードが更に顔を近づけてきたので、エリザベスは慌てて両手で顔を覆った。

「待って待って待って!」

 レオナードは彼女の耳に口を近づけた。

「そうだな、あんまりいじめるのもかわいそうだし、今日のところは俺のことをレオと呼んでくれたら離れてあげよう」

「なんでそんな、勝手な――」

「呼ばないなら朝までこのままだ」

「――――――ッ」

 いったいレオナードはどうしたんだろう。いつも俺様だが、今日はいつになく強引だ。

 追い詰められたエリザベスは半ばパニックになりながら、必死に拒否する方法を考えるが、いい方法は思いつかなかった。

 仕方なく、両手で顔を覆ったまま、小さな声で読んでみる。

「……れお」

 蚊の鳴くような小さな声だったが、レオナードの耳には届いたらしい。

 レオナードは満足そうに、エリザベスの頭をよしよしと撫でると、ベッドにもぐりこんで隣をぽんぽんと叩いた。

「おいで、リジー。寝るんだろう?」

 なんだか嵌められたような気がしないでもなかったが、エリザベスは渋々、彼の隣にもぐりこんだ。
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