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燃え落ちた橋
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「こちらの可愛らしいお嬢さんは?」
レオナードとエリザベスが席に着くと、警部はエリザベスに視線を向けた。
「私の婚約者のエリザベスですよ。リジー、彼はボナー警部。昔、仕事でお世話になったことがあってね」
いけしゃあしゃあと婚約者呼ばわりしてくるレオナードをひと睨みしてから、エリザベスはボナー警部ににこりと微笑みかけた。
「はじめまして警部。エリザベス・ファージです」
「はじめましてエリザベス嬢。いやいや、驚きましたよ、あなたが婚約していたなんて」
「つい最近のことですから」
「エリザベス嬢、大尉には昔とても助けていただいたことがありましてね。あなたは本当に素晴らしい方と婚約なさった」
どうやら警部の中のレオナードの評価は高いようだと、その一言でエリザベスは悟った。
「それで警部、アッピラードにいらしていたなんて知りませんでしたよ」
「それはほら、昨日の祭りの事件で昨夜のうちに呼び出されていましてな。それでですよ」
「ああ、昨日の」
エリザベスは昨夜の祭りの男の死体を思い出して、思わず二の腕をさすった。
「あれは痛ましい事故でしたね」
レオナードが嘆息しながら答えると、ボナー警部の表情が硬くなった。
「レオ……、どうやら事故じゃなさそうなんだ」
警部のかわりに答えたのは、同じく硬い表情を浮かべているオリバーだった。オリバーはちらりとエリザベスに視線を向けたが、「まあ、いずれ耳に入るから」と前置きして続けた。
「今朝、町長の遣いから連絡があった。昨夜の祭りで死んだ男は、どうやら殺されたようだとね」
エリザベスは息を呑んだ。
レオナードも瞠目して、警部を見やった。
「あんな人の多いところで殺人ですって? それで犯人は――」
「まだ見つかっていません」
警部は嘆息した。
「本当ならば、今朝、署から応援を呼ぶ予定だったんです。しかしコードリー橋が落ちてしまい、それも叶わなくなった。困っていたところ、あなたがここにいらしていると噂を聞きましてね。お力を借りたくて参った次第です」
「レオ、君は昔、警部に協力して窃盗事件を解決したことがあっただろう?」
エリザベスはびっくりした。近衛隊というのは、警察の手伝いもするのだろうか。しかし、同じく近衛隊にいたはずのオリバーはどうやらかかわりがないらしい。
(こいついったい何者なのかしら?)
そう言えば、エリザベスはレオナードのことをほとんど知らない。せいぜい知っていることと言えば、フィッツバーグ伯爵家の次男で、王都に自己所有の大きな邸があり、エリザベスと出会う直前まで近衛隊に所属していたことくらいだ。
(そう言えばこいつ、何で近衛隊やめたのかしら?)
父の話によれば、エリザベスに会う本当に最近まで近衛隊の大尉だったらしい。オリバーはレオナードがやめる一年前に近衛隊を辞しているが、それはモードミッシェル公爵家の持つ爵位の中のハールトン子爵の名を名乗ることにしたのだとか。
(まあ、わたしには関係ないか)
婚約するつもりも、結婚するつもりもない。いずれは顔を見ることもなくなる相手のことを知ったところで意味はないだろう。
(お父さんが退院したら、もう会うつもりはないもの)
医療費だけは、頑張って働いで少しずつでも返そうと思う。しかし、医療費を渡すのに彼に会う必要はないし、もともと庶民の自分なんて、婚約話がなくなれば、彼自身も会おうとは思わないだろう。
そう思うと、胸のどこかがチクリと痛むような気がしたら、エリザベスは気づかないふりをすることにした。
レオナードは考え込んでいるエリザベスに視線を向けたあと、困ったようにボナー警部に言った。
「すみませんが、今回私は、お役に立てそうもありませんよ」
レオナードとエリザベスが席に着くと、警部はエリザベスに視線を向けた。
「私の婚約者のエリザベスですよ。リジー、彼はボナー警部。昔、仕事でお世話になったことがあってね」
いけしゃあしゃあと婚約者呼ばわりしてくるレオナードをひと睨みしてから、エリザベスはボナー警部ににこりと微笑みかけた。
「はじめまして警部。エリザベス・ファージです」
「はじめましてエリザベス嬢。いやいや、驚きましたよ、あなたが婚約していたなんて」
「つい最近のことですから」
「エリザベス嬢、大尉には昔とても助けていただいたことがありましてね。あなたは本当に素晴らしい方と婚約なさった」
どうやら警部の中のレオナードの評価は高いようだと、その一言でエリザベスは悟った。
「それで警部、アッピラードにいらしていたなんて知りませんでしたよ」
「それはほら、昨日の祭りの事件で昨夜のうちに呼び出されていましてな。それでですよ」
「ああ、昨日の」
エリザベスは昨夜の祭りの男の死体を思い出して、思わず二の腕をさすった。
「あれは痛ましい事故でしたね」
レオナードが嘆息しながら答えると、ボナー警部の表情が硬くなった。
「レオ……、どうやら事故じゃなさそうなんだ」
警部のかわりに答えたのは、同じく硬い表情を浮かべているオリバーだった。オリバーはちらりとエリザベスに視線を向けたが、「まあ、いずれ耳に入るから」と前置きして続けた。
「今朝、町長の遣いから連絡があった。昨夜の祭りで死んだ男は、どうやら殺されたようだとね」
エリザベスは息を呑んだ。
レオナードも瞠目して、警部を見やった。
「あんな人の多いところで殺人ですって? それで犯人は――」
「まだ見つかっていません」
警部は嘆息した。
「本当ならば、今朝、署から応援を呼ぶ予定だったんです。しかしコードリー橋が落ちてしまい、それも叶わなくなった。困っていたところ、あなたがここにいらしていると噂を聞きましてね。お力を借りたくて参った次第です」
「レオ、君は昔、警部に協力して窃盗事件を解決したことがあっただろう?」
エリザベスはびっくりした。近衛隊というのは、警察の手伝いもするのだろうか。しかし、同じく近衛隊にいたはずのオリバーはどうやらかかわりがないらしい。
(こいついったい何者なのかしら?)
そう言えば、エリザベスはレオナードのことをほとんど知らない。せいぜい知っていることと言えば、フィッツバーグ伯爵家の次男で、王都に自己所有の大きな邸があり、エリザベスと出会う直前まで近衛隊に所属していたことくらいだ。
(そう言えばこいつ、何で近衛隊やめたのかしら?)
父の話によれば、エリザベスに会う本当に最近まで近衛隊の大尉だったらしい。オリバーはレオナードがやめる一年前に近衛隊を辞しているが、それはモードミッシェル公爵家の持つ爵位の中のハールトン子爵の名を名乗ることにしたのだとか。
(まあ、わたしには関係ないか)
婚約するつもりも、結婚するつもりもない。いずれは顔を見ることもなくなる相手のことを知ったところで意味はないだろう。
(お父さんが退院したら、もう会うつもりはないもの)
医療費だけは、頑張って働いで少しずつでも返そうと思う。しかし、医療費を渡すのに彼に会う必要はないし、もともと庶民の自分なんて、婚約話がなくなれば、彼自身も会おうとは思わないだろう。
そう思うと、胸のどこかがチクリと痛むような気がしたら、エリザベスは気づかないふりをすることにした。
レオナードは考え込んでいるエリザベスに視線を向けたあと、困ったようにボナー警部に言った。
「すみませんが、今回私は、お役に立てそうもありませんよ」
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