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レオナードの友人

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 ハールトン子爵が購入したという邸は、近くの町から少し離れたところにある、山に囲まれた大きなものだった。

 門を開けると広大な庭が広がり、その奥に、苔の生えた石壁の邸が見える。それは邸というより、小さな城のようにも見えた。

(うっわ、すご……。この中にお父さんのパン屋がいくつ入るのかしら?)

 この時エリザベスは、レオナードによって揃えられた孔雀石くじゃくいしのような落ち着いたグリーンのドレスを着て、真珠の首飾りとイヤリングをつけており、外見は洗練された貴婦人のようだったが、ここにいること自体が場違いのように思えて、回れ右をして帰りたくなった。

 しかし、エリザベスは気後れして立ち止まることを許されなかった。なぜなら、馬車を降りたあとは、レオナードがエスコートするように背中に手を回していたので、彼が歩くとついて歩かなくてはならなかったのだ。

「やあ、よく来たね!」

 玄関に近づくと、二十歳そこそこの黒髪の青年と、白髪交じりの頭の初老の男性が出迎えた。おそらく黒髪の青年がハールトン子爵で、その隣の、スーツをピシッと着こなした初老の男性は執事か何かだろう。ハールトン子爵が気さくで話やすそうな雰囲気なのとは対照的に、執事だろう彼は厳格で、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

「オリバー、お招きいただきありがとう」

 やはり黒髪の青年がハールトン子爵だったらしい。レオナードは彼と固い握手を交わして子供のような笑みを浮かべた。どうやら思った以上に親しい間柄のようだ。

 レオナードはエリザベスを振り返った。

「オリバー、彼女がエリザベスだ」

「ああ、噂の! はじめまして、ミス・エリザベス。僕のことはオリバーと呼んでくれたら嬉しい」

「はじめまして。では、お言葉に甘えてオリバー様とお呼びさせていただきます」

 エリザベスは緊張しながらも、ぺこりと頭を下げてお辞儀をした。貴婦人のようにドレスの裾をつまんで礼をとることはできないが、これでよかったのだろうかと不安になっていると、オリバーはにこりと微笑んだ。

「可愛らしいな。まるで小鳥のようだ」

「オリバー、言っておくが彼女は……」

「あー、はいはい。わかっているよ。僕も婚約者が一緒なんだ、彼女にちょっかいなんて出さないよ。心配性だなぁ」

 オリバーはクスクス笑いながら、部屋に案内するよときびすを返す。

 オリバーのうしろを執事が黙ってついて行くと、エリザベスたちはその後ろに続いた。

「……オリバーに対する態度は、ずいぶんと俺と違うじゃないか」

 歩きながらレオナードが小声で話しかけてきた。その声には不満があらわれており、反論しようとして顔をあげれば、子供が拗ねたような顔があって、エリザベスは目を丸くした。

「何度も言うけど、オリバーには惚れるなよ。君は俺のものだ」

 エリザベスはあきれたが、目の前にオリバーたちがいる以上、ここで反論して口論になることは避けたかった。

 エリザベスはレオナードから視線を外して、嘆息した。

「変な心配はご無用よ」

 わたしはあんたのものではないけどね――、心の中でそう付け足した。
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