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第一部 悪役令嬢未満、お兄様と結婚します!
墓地の妖精 3
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「世界の根源を司る四柱のうち風の精霊シルフよ、我の呼びかけに応え、その大いなる御力の片鱗を我に授けたまえ――吹き飛ばせ、ゴッドブレス」
「世界の根源を司る四柱のうち水の精霊ウンディーネよ、我の呼びかけに応え、その大いなる御力の片鱗を我に授けたまえ――すべてを飲み込み押し流せキャタクリズム」
ぶーッ‼
お兄様の放った風系最強魔法と、アレクサンダー様の放った水系最強魔法に、わたしは腰を抜かしそうになった。
二人とも上級魔法の使い手なのは知ってたけど、最強魔法を簡単に唱えすぎですよ‼
どういうコントロールなのか、お兄様の放った「ゴッドブレス」も、アレクサンダー様が放った「キャタクリズム」も、墓を傷つけることなくアンデットだけに的確にダメージを与えている。
……というか、一瞬です。二人のスペックが怖いです。一瞬で、あの大量のアンデットたちが、跡形もなく消えました。もう、アンデットより二人が怖いです!
これが我が国に五家しかない公爵家の跡取りたちの実力か~、と自分が公爵令嬢であることも忘れて感心してしまう。
レベル二のわたしには、逆立ちしたって無理ですわ~。あの魔法って、放つにはいったいどのくらいの魔力が必要なのかしら~。
レベルの違いに圧倒されつつも、これでアンデットの脅威がなくなったと、わたしはホッと息を吐き出した。
「ひとまずこれでいいが、またアンデットたちが寄ってこないように結界を張りなおしておいた方がいいか。……やれやれ、本来は国の仕事なんだがな」
お兄様がぶつぶつ言いながらわたしを振り返る。
「マリア、もう少しおにいちゃまに付き合っておくれ。結界が消えていると言うことは、結界魔道具が何らかの不調をきたしていると思うからね。確認しに行こうと思う」
結界魔道具は、墓地の中央にそびえたつ巨大な十字架である。
一度帰って国に申請してもいいが、国に申請しても、書類の作成だ承認だなんだと、実際に動いてくれるまでに数日はかかるだろう。乗り掛かった舟だから、ついでに結界魔道具が治せそうなら治してしまおうと、お兄様は言った。
「ええ、わたしもそれがいいと思います! またアンデットたちが住み着いたら嫌ですからね!」
わたしはお化けが嫌いなんです。あんなものにはもう二度と遭遇したくない。
すると、アレクサンダー様がふわりと微笑んだ。
「君は優しいな」
え? 今、わたしアレクサンダー様に「優しい」と言われるような発言をしましたかね?
単に自分がお化けに会いたくないだけなんですけど、なんか勘違いしていらっしゃるような……。
というか、アレクサンダー様がわたしに微笑みかけるなんて、夢でも見ているのかしら?
仲間意識と言うものは、人間の好感度を爆上げするのだろうか。わたしはアレクサンダー様に嫌われていたはずなのに、どうやら微笑みかけてくれるくらいには好感度が上がったらしい。
アレクサンダー様も、結界魔道具を確認するというお兄様の意見に相違はないようで、わたしたち三人はそのまま結界魔道具の巨大な十字架の下まで向かった。
お兄様が十字架の側面に手を当てて、難しい顔をする。
「魔石が壊されているではないか」
魔道具の核は魔石だ。その魔石が壊されていたら、もちろん魔道具は動かなくなる。
「いったい誰の悪戯だ。簡単に壊れるものではないのだが……」
「国に報告して調査させた方がいいかもしれないな。だが、魔石が破壊されているのならば、今ここで修復は不可能だぞ。代わりの魔石がないからな。ジークハルト、どうする?」
「だから、先輩と呼びたまえよ。……そうだな、とりあえず、応急処置として結界魔法だけ張っておくか。明日、国に急いで結界魔道具の修復をするように連絡しておこう」
「そうだな。魔石を持って戻ってくるわけにもいくまい」
アレクサンダー様にも異論はないらしい。
「だが、結界を張るとしても墓地は広い。補助魔法陣があった方がいいな」
「そうだな」
アレクサンダー様とお兄様が小難しそうな話をしはじめたので、わたしは一歩引いて見守ることにした。だって、聞いたってわかんないもん。
お兄様とアレクサンダー様が、どのような補助魔法陣を書くか相談している。
というか、お兄様もアレクサンダー様も、さっき、風と水の最高難度の魔法を唱えたくせに、まだ結界を張る魔力が余っているのね。凡人以下のわたしは理解が追いつきませんよ。
結界魔道具から少し離れたところにベンチを見つけたので、わたしはそこに腰かけて二人の様子を見守りつつ、当初の「タイミングを見てハイライドの鱗粉をアレクサンダー様に渡す」と目的が遂行できなかったことにちょっとがっかりしていた。
……これでまた、振りだしね。
せっかく手に入れたのに、どうやって渡せばいいのだろう。
さすがにこの場にぽとっと落として「あー、何か落ちてますわー!」と叫ぶのは無理がありすぎる。
……むむむ、誰かわたしに名案を授けてください。もしくは知力一万くらいほしいです!
いっそ、次の市場が立つときにふらりと出向いて、市場で発見して買ったことにしてしまおうかしら? でも、黄金のリンゴ以上に貴重な素材だから、市場に売られるなんてまずないのよね。
最悪、リッチーを丸め込んでアレクサンダー様に渡してもらおうかしら。
ダメね。アレクサンダー様だもの、入手先を根掘り葉掘り聞くに決まっているわ。わたしが入手したと知ったら、何故直接持って来ないのかと言われそう。そして、どこで入手したのかをしつこく問いただされるのよ。
わたしは賢くないので、賢いアレクサンダー様の追及から逃れられるとは思えない。
……ああもう! 手詰まりだわ‼
わたしはぷらぷらと足を動かす。
わたしが足を動かすたびに、月明かりによって作り出されたわたしの影が大きくなっていって――うん? 大きく?
ハッとしたときには、遅かった。
「きゃあああああああっ」
「「マリア‼」」
わたしの悲鳴に、お兄様とアレクサンダー様が同時に振り返って叫ぶ。
わたしは、二人の目の前で、巨大な影――アンデットの中に、ずぶずぶと飲み込まれていった。
「世界の根源を司る四柱のうち水の精霊ウンディーネよ、我の呼びかけに応え、その大いなる御力の片鱗を我に授けたまえ――すべてを飲み込み押し流せキャタクリズム」
ぶーッ‼
お兄様の放った風系最強魔法と、アレクサンダー様の放った水系最強魔法に、わたしは腰を抜かしそうになった。
二人とも上級魔法の使い手なのは知ってたけど、最強魔法を簡単に唱えすぎですよ‼
どういうコントロールなのか、お兄様の放った「ゴッドブレス」も、アレクサンダー様が放った「キャタクリズム」も、墓を傷つけることなくアンデットだけに的確にダメージを与えている。
……というか、一瞬です。二人のスペックが怖いです。一瞬で、あの大量のアンデットたちが、跡形もなく消えました。もう、アンデットより二人が怖いです!
これが我が国に五家しかない公爵家の跡取りたちの実力か~、と自分が公爵令嬢であることも忘れて感心してしまう。
レベル二のわたしには、逆立ちしたって無理ですわ~。あの魔法って、放つにはいったいどのくらいの魔力が必要なのかしら~。
レベルの違いに圧倒されつつも、これでアンデットの脅威がなくなったと、わたしはホッと息を吐き出した。
「ひとまずこれでいいが、またアンデットたちが寄ってこないように結界を張りなおしておいた方がいいか。……やれやれ、本来は国の仕事なんだがな」
お兄様がぶつぶつ言いながらわたしを振り返る。
「マリア、もう少しおにいちゃまに付き合っておくれ。結界が消えていると言うことは、結界魔道具が何らかの不調をきたしていると思うからね。確認しに行こうと思う」
結界魔道具は、墓地の中央にそびえたつ巨大な十字架である。
一度帰って国に申請してもいいが、国に申請しても、書類の作成だ承認だなんだと、実際に動いてくれるまでに数日はかかるだろう。乗り掛かった舟だから、ついでに結界魔道具が治せそうなら治してしまおうと、お兄様は言った。
「ええ、わたしもそれがいいと思います! またアンデットたちが住み着いたら嫌ですからね!」
わたしはお化けが嫌いなんです。あんなものにはもう二度と遭遇したくない。
すると、アレクサンダー様がふわりと微笑んだ。
「君は優しいな」
え? 今、わたしアレクサンダー様に「優しい」と言われるような発言をしましたかね?
単に自分がお化けに会いたくないだけなんですけど、なんか勘違いしていらっしゃるような……。
というか、アレクサンダー様がわたしに微笑みかけるなんて、夢でも見ているのかしら?
仲間意識と言うものは、人間の好感度を爆上げするのだろうか。わたしはアレクサンダー様に嫌われていたはずなのに、どうやら微笑みかけてくれるくらいには好感度が上がったらしい。
アレクサンダー様も、結界魔道具を確認するというお兄様の意見に相違はないようで、わたしたち三人はそのまま結界魔道具の巨大な十字架の下まで向かった。
お兄様が十字架の側面に手を当てて、難しい顔をする。
「魔石が壊されているではないか」
魔道具の核は魔石だ。その魔石が壊されていたら、もちろん魔道具は動かなくなる。
「いったい誰の悪戯だ。簡単に壊れるものではないのだが……」
「国に報告して調査させた方がいいかもしれないな。だが、魔石が破壊されているのならば、今ここで修復は不可能だぞ。代わりの魔石がないからな。ジークハルト、どうする?」
「だから、先輩と呼びたまえよ。……そうだな、とりあえず、応急処置として結界魔法だけ張っておくか。明日、国に急いで結界魔道具の修復をするように連絡しておこう」
「そうだな。魔石を持って戻ってくるわけにもいくまい」
アレクサンダー様にも異論はないらしい。
「だが、結界を張るとしても墓地は広い。補助魔法陣があった方がいいな」
「そうだな」
アレクサンダー様とお兄様が小難しそうな話をしはじめたので、わたしは一歩引いて見守ることにした。だって、聞いたってわかんないもん。
お兄様とアレクサンダー様が、どのような補助魔法陣を書くか相談している。
というか、お兄様もアレクサンダー様も、さっき、風と水の最高難度の魔法を唱えたくせに、まだ結界を張る魔力が余っているのね。凡人以下のわたしは理解が追いつきませんよ。
結界魔道具から少し離れたところにベンチを見つけたので、わたしはそこに腰かけて二人の様子を見守りつつ、当初の「タイミングを見てハイライドの鱗粉をアレクサンダー様に渡す」と目的が遂行できなかったことにちょっとがっかりしていた。
……これでまた、振りだしね。
せっかく手に入れたのに、どうやって渡せばいいのだろう。
さすがにこの場にぽとっと落として「あー、何か落ちてますわー!」と叫ぶのは無理がありすぎる。
……むむむ、誰かわたしに名案を授けてください。もしくは知力一万くらいほしいです!
いっそ、次の市場が立つときにふらりと出向いて、市場で発見して買ったことにしてしまおうかしら? でも、黄金のリンゴ以上に貴重な素材だから、市場に売られるなんてまずないのよね。
最悪、リッチーを丸め込んでアレクサンダー様に渡してもらおうかしら。
ダメね。アレクサンダー様だもの、入手先を根掘り葉掘り聞くに決まっているわ。わたしが入手したと知ったら、何故直接持って来ないのかと言われそう。そして、どこで入手したのかをしつこく問いただされるのよ。
わたしは賢くないので、賢いアレクサンダー様の追及から逃れられるとは思えない。
……ああもう! 手詰まりだわ‼
わたしはぷらぷらと足を動かす。
わたしが足を動かすたびに、月明かりによって作り出されたわたしの影が大きくなっていって――うん? 大きく?
ハッとしたときには、遅かった。
「きゃあああああああっ」
「「マリア‼」」
わたしの悲鳴に、お兄様とアレクサンダー様が同時に振り返って叫ぶ。
わたしは、二人の目の前で、巨大な影――アンデットの中に、ずぶずぶと飲み込まれていった。
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