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第一部 悪役令嬢未満、お兄様と結婚します!
白薔薇の庭 4
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「……なるほど、アグネス嬢が、ねえ」
アレクサンダー様への義理と、わたしの貞操の危機を天秤にかけた結果、わたしはあっさりとお兄様にアグネスのことを暴露した。
「そ、それで! アグネス様を目覚めさせる方法を探すために閉架書庫に行くことになって、なんかよくわかりませんが、アレクサンダー様がわたしは直感が働くらしいからついて来いとおっしゃって一緒に行くことになったんです!」
「少々納得がいかない部分もないわけではないが、確かに、ホルガー侍医長の治癒魔法でも対処不可ならば閉架書庫を当たるのは間違いではないな」
「ですよね!」
「まともに本を読まないお前が戦力になるのかどうかは置いておくとして……、なるほど、『神々の泪』か。そのような調合魔法薬があるのは知らなかった。今度私も閉架書庫を覗いてみるか」
「はい! だから今、『神々の泪』を作るためにあらゆる手を尽くしている最中です!」
「マリア。それはわかったが、何故お前が、当たり前のようにアレクサンダーに協力する流れになっているんだ? 情報は手に入ったんだ。あとはアレクサンダーに任せればいいだろう。ナルツィッセ公爵家の問題に、お前は関係がない」
……そ、そうかもしれませんけど~、でも、わたしが協力しないと、作れないんだよね「神々の泪」。だって、最後の一つの素材である「光の妖精の翅の鱗粉」は、わたしが持っているんだもの。そして、ハイライド以外の光の妖精がそう簡単に見つかるとは思えないから、わたし以外は入手困難だと思うのよ。
「で、ででで、でも、情報源は多い方がいいでしょう?」
「情報源と言うが、お前はそんなに情報通なのか?」
「うぐぅ!」
前世の記憶のことを言えるはずがないので、唸るしかない。そうよね~、この世界で、マリアに素敵な情報をもたらしてくれる優秀な部下やお友達は、誰一人としていないのよね~。
わたしが頼れるのはせいぜい、ヴィルマかリッチー、あとは最近一緒に暮らしはじめたハイライドだが、ハイライドはともかく、ヴィルマとリッチーは、妙な情報には詳しいが肝心なところでは頼りない気がする。
お兄様はわたしの頭にポンと手を置いて、綺麗な紫紺の瞳でわたしの目を覗き込む。
「なぜそこまでアレクサンダーに肩入れする?」
「アレクサンダー様に肩入れをしているわけじゃないですよ。……ただ、アグネス様が、このまま眠ったままなのは、可哀想じゃないですか?」
「アグネス嬢とお前は別に親しくはないだろう?」
「そうですけど……、でも……」
口をとがらせると、お兄様はやれやれと息を吐いて体を離してくれた。
「そうやってお前はまた理由もなく人に救いの手を差し伸べるのか。本当にどうしようもない子だ」
よくわかりませんが、お兄様があきれていらっしゃいます。
しょんぼりと肩を落とすと、お兄様がそっとわたしの肩を引き寄せた。
「まあいいよ。お前は言ったところでわからないだろう。だからおにいちゃまから、特別に一つ情報をあげよう。王都の南……この前行った市場よりさらに南の墓地に、妖精らしきものの目撃情報がある。アレクサンダーに伝えて見なさい」
……え⁉
わたしがぱちくりと目を瞬くと、お兄様が肩をすくめた。
「ただし、もしアレクサンダーがお前を巻き込むというのなら、もちろん私もついて行く。アレクサンダーが一緒に墓地に行こうと言い出したら、私に声をかけるんだよ。いいね?」
……これは、逆らえないやつですね。はい。
わたしが頷くと、お兄様は「いい子だ」と言って、わたしの頭のてっぺんにチュッとキスを落とす。
わたしが真っ赤になってしまったのは、言うまでもないことだろう。
アレクサンダー様への義理と、わたしの貞操の危機を天秤にかけた結果、わたしはあっさりとお兄様にアグネスのことを暴露した。
「そ、それで! アグネス様を目覚めさせる方法を探すために閉架書庫に行くことになって、なんかよくわかりませんが、アレクサンダー様がわたしは直感が働くらしいからついて来いとおっしゃって一緒に行くことになったんです!」
「少々納得がいかない部分もないわけではないが、確かに、ホルガー侍医長の治癒魔法でも対処不可ならば閉架書庫を当たるのは間違いではないな」
「ですよね!」
「まともに本を読まないお前が戦力になるのかどうかは置いておくとして……、なるほど、『神々の泪』か。そのような調合魔法薬があるのは知らなかった。今度私も閉架書庫を覗いてみるか」
「はい! だから今、『神々の泪』を作るためにあらゆる手を尽くしている最中です!」
「マリア。それはわかったが、何故お前が、当たり前のようにアレクサンダーに協力する流れになっているんだ? 情報は手に入ったんだ。あとはアレクサンダーに任せればいいだろう。ナルツィッセ公爵家の問題に、お前は関係がない」
……そ、そうかもしれませんけど~、でも、わたしが協力しないと、作れないんだよね「神々の泪」。だって、最後の一つの素材である「光の妖精の翅の鱗粉」は、わたしが持っているんだもの。そして、ハイライド以外の光の妖精がそう簡単に見つかるとは思えないから、わたし以外は入手困難だと思うのよ。
「で、ででで、でも、情報源は多い方がいいでしょう?」
「情報源と言うが、お前はそんなに情報通なのか?」
「うぐぅ!」
前世の記憶のことを言えるはずがないので、唸るしかない。そうよね~、この世界で、マリアに素敵な情報をもたらしてくれる優秀な部下やお友達は、誰一人としていないのよね~。
わたしが頼れるのはせいぜい、ヴィルマかリッチー、あとは最近一緒に暮らしはじめたハイライドだが、ハイライドはともかく、ヴィルマとリッチーは、妙な情報には詳しいが肝心なところでは頼りない気がする。
お兄様はわたしの頭にポンと手を置いて、綺麗な紫紺の瞳でわたしの目を覗き込む。
「なぜそこまでアレクサンダーに肩入れする?」
「アレクサンダー様に肩入れをしているわけじゃないですよ。……ただ、アグネス様が、このまま眠ったままなのは、可哀想じゃないですか?」
「アグネス嬢とお前は別に親しくはないだろう?」
「そうですけど……、でも……」
口をとがらせると、お兄様はやれやれと息を吐いて体を離してくれた。
「そうやってお前はまた理由もなく人に救いの手を差し伸べるのか。本当にどうしようもない子だ」
よくわかりませんが、お兄様があきれていらっしゃいます。
しょんぼりと肩を落とすと、お兄様がそっとわたしの肩を引き寄せた。
「まあいいよ。お前は言ったところでわからないだろう。だからおにいちゃまから、特別に一つ情報をあげよう。王都の南……この前行った市場よりさらに南の墓地に、妖精らしきものの目撃情報がある。アレクサンダーに伝えて見なさい」
……え⁉
わたしがぱちくりと目を瞬くと、お兄様が肩をすくめた。
「ただし、もしアレクサンダーがお前を巻き込むというのなら、もちろん私もついて行く。アレクサンダーが一緒に墓地に行こうと言い出したら、私に声をかけるんだよ。いいね?」
……これは、逆らえないやつですね。はい。
わたしが頷くと、お兄様は「いい子だ」と言って、わたしの頭のてっぺんにチュッとキスを落とす。
わたしが真っ赤になってしまったのは、言うまでもないことだろう。
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