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第一部 悪役令嬢未満、お兄様と結婚します!
デートと妖精 7
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リッチーと別れると、わたしとお兄様は市に並ぶ商品の物色に戻った。
お兄様は、ちょっとだけ機嫌が悪そうだ。
わたしと手をつないだまま、もう片方の手で、わたしの髪をいじったりうなじをくすぐったりして遊んでいた。
……ここは、おとなしくされるがままになっておくのが吉だわ。下手に逆らうと、お兄様のご機嫌がさらに悪くなって、とっても意地悪をされる未来しか見えないもの!
お兄様の機嫌のバロメーターはいまいちよくわからない。なので、下手にご機嫌取りをするよりは、されるがままになっておくほうがいいのだ。
「マリア、見てごらん。とっても可愛らしい首輪があるよ。マリアに似合いそうだねえ」
ちょっ!
お兄様! なんてことを言うんですか! わたしに首輪をつけるつもりですか⁉
「お、おおおお兄様! 次! 次の店に行きましょう!」
お兄様が首輪を購入すると言い出す前に、わたしはお兄様の手をぐいぐいと引っ張って隣の店に行った。
わー、隣のお店は、珍しい小動物を扱っているお店なのね!
棚の上のガラスの入れ物には、サソリのような虫や、カメレオン、蛇など、わたし的にはあまり得意でないものが並んでいる。
……しっかりと蓋がされているから逃げることはないだろうが、あんまり見ていて気持ちがいいものではないわね。
苦手なものはあまり見ていたくなくて、ふと顔を上げたわたしは、テントからぶら下げられている鳥かごを見てギョッとした。
え?
え⁉
ええええええええ⁉
釣鐘型の鳥かごの中には、金色に光るモノが入っている。
それは、小さな人の形をしていて、二つの虹色に光る翅を生やしていて、さらっさらの長い金髪をした、妖精のようなモノだった。
……なんでここに⁉
わたしはその妖精を知っていた。
彼は、ハイライド・フォークス。
「ブルーメ」の九つの世界のうちの、「光の妖精の世界」の住人で、光の妖精の国の第三王子だ。
金色の髪に金色の瞳を持つ彼は、見た目は小さな妖精だが、人と同じサイズになることもできる。
そして、攻略対象の一人でもあった。
だが、おかしい。
おかしすぎる!
ハイライドが出てくるのは、ここではないはずだ。
まずハイライドルートが解放されるのはアレクサンダールートをクリアした後である。
ハイライドは、アグネスにかけられた眠りの魔法を解く鍵なのだ。
アレクサンダールートでは、城の地下の閉架書庫で仕入れた情報をもとに、ヒロインとアレクサンダー様は薬の材料を求めてノルンの森へ向かう。
ノルンの森は、ポルタリア国の東に広がる森の中に入り口があると言われている伝説の森だ。
運命を司る三人の女神たちが住んでいるウルズの泉がある言われる森で、女神に選ばれた人しかたどり着くことができないと言われている。
ノルンの森は、世界で唯一、他の八つの世界とつながることができる場所だとも言われていた。
ノルンの森は普通ではたどり着けないけれど、人間の世界を含めた九つの世界すべてがつながっていて、女神に選ばれたものがその場所にやってくるのだ。
アグネスの眠りの魔法を解く薬の材料には「光の妖精の羽の鱗粉」が必要だと知ったアレクサンダー様たちは、光の妖精を求めてノルンの森へ向かうのである。
そして、ハイライドと出会うのだが――そのハイライドが、なんで鳥かごに閉じ込められて市場で売られているの⁉
驚愕してハイライドを見つめていると、彼は不思議そうな顔でわたしの目をじっと見つめ返してきた。
しばらく彼と見つめあっていると、お兄様が「どうした?」と声をかける。
「そのカナリアが気に入ったのか?」
カナリア?
カナリアですって⁉
「お、お兄様! こ、この鳥かごの中には、カナリアが入っているんですか⁉」
「おや、お前はカナリアもわからないのかい? ここ数年前から貴族の間で流行している、可愛らしい声で鳴く鳥のことだよ」
いや、カナリアは知っているけど、わたしが聞きたいのはそう言うことじゃない!
だが、今の発言で理解した。お兄様には、ハイライドがカナリアに見えているのだ。
……どういうこと?
わたしは再びハイライドを見つめる。
すると、ハイライドは腰かけていた止まり木から立ち上がると、ぱたぱたと翅を動かして鳥かごの端まで飛んで来た。
「女、俺が見えるのか?」
このハイライド。見た目は女性と見まがうほど美しいのに、口は少々悪い。
「おや、美しい鳴き声だね」
そしてハイライドの声は、お兄様の耳にはただのカナリアのさえずりに聞こえるようだ。
よくわからないけど、市にいる他の人たちもハイライドにあまり関心を示していないことを考えると、他の人たちには、彼がカナリアに見えているのかしら?
「聞こえているのか? 女」
聞こえているけど、ここで返事をしたら、カナリアとおしゃべりをする変な女だって思われないかしら?
不安になったので、わたしは小さく頷くことで肯定した。
「そうか。俺が見えるのか。……よし、女、俺を買え」
なんですと⁉
「この狭い入れ物には、いささか飽きた」
いやいや、飽きる飽きないの問題でもないでしょうよ!
だが、ゲームファンの性なのか、鳥かごに閉じ込められているハイライドをこのまま見捨てるのはとても忍びない。
それに、彼はアグネスを目覚めさせるためのキーマンだ。
正直、アグネスを目覚めさせる方法をアレクサンダー様たちに伝えるべきか否かについては、まだ悩んでいる。
黙っておくことの罪悪感が日に日に膨れ上がっていくので、伝えてしまいたい気もするが、そうしたことでヒロインのアレクサンダー様ルートがなくなってしまうことへの不安があった。
ヒロインには、攻略対象の誰かとハッピーエンドを迎えてもらいたい。
そのためには、アレクサンダー様ルートを潰すわけには――
わたしはふとそこまで考えて、「ルート」という単語にハッとした。
……そうよ、どうして気が付かなかったのかしら?
ヒロインであるリコリスには、大勢の攻略対象が用意されている。
アレクサンダー様はその大勢いる攻略対象のうちの一人だ。
そしてヒロインは一人しかいないので、全部の攻略対象とハッピーエンドを迎えることはない。
……つまり、リコリスがアレクサンダー様を選ばない可能性がある。
そうなったら、アグネスはどうなるのだろう。
目覚めることなく、眠りの魔法にかけられたままなのだろうか。
さーっと血の気が引いていく。
……そんなのダメ! 絶対にダメ!
悪役令嬢であるわたしには、ゲーム通りに進めば破滅エンドが用意されている。
しかし、よく考えてみたら、リコリスに選ばれなかった攻略対象のルートに出てくる不幸な人たちには、リコリスの手によって救われない未来もあると言うことだ。
それは、悪役令嬢であるわたしと同じ「破滅エンド」であると言い換えても過言ではないのではなかろうか。
わたしはぐっと拳を握る。
わたしは破滅したくない。
でも、リコリスに選ばれなかった攻略対象ルートの、リコリスの手によって救われるはずの人たちが、救われずに終わるのも見たくない!
わたしは決めた。
アグネスを、救おう。
「お兄様、わたし、このカナリアがほしいです!」
そのためにはハイライドを確保しなければならない。
お兄様は一瞬嫌そうな顔をしたが、仕方なさそうにため息を吐く。
「マリア、動物を飼うものは命に対する責任を持たなければならない。お前がそのカナリアの命に責任を持てるというのであれば買ってあげるけれど、ちゃんとお世話をするのかい?」
わたしは大きく頷いた。
「もちろんです!」
お兄様は、ちょっとだけ機嫌が悪そうだ。
わたしと手をつないだまま、もう片方の手で、わたしの髪をいじったりうなじをくすぐったりして遊んでいた。
……ここは、おとなしくされるがままになっておくのが吉だわ。下手に逆らうと、お兄様のご機嫌がさらに悪くなって、とっても意地悪をされる未来しか見えないもの!
お兄様の機嫌のバロメーターはいまいちよくわからない。なので、下手にご機嫌取りをするよりは、されるがままになっておくほうがいいのだ。
「マリア、見てごらん。とっても可愛らしい首輪があるよ。マリアに似合いそうだねえ」
ちょっ!
お兄様! なんてことを言うんですか! わたしに首輪をつけるつもりですか⁉
「お、おおおお兄様! 次! 次の店に行きましょう!」
お兄様が首輪を購入すると言い出す前に、わたしはお兄様の手をぐいぐいと引っ張って隣の店に行った。
わー、隣のお店は、珍しい小動物を扱っているお店なのね!
棚の上のガラスの入れ物には、サソリのような虫や、カメレオン、蛇など、わたし的にはあまり得意でないものが並んでいる。
……しっかりと蓋がされているから逃げることはないだろうが、あんまり見ていて気持ちがいいものではないわね。
苦手なものはあまり見ていたくなくて、ふと顔を上げたわたしは、テントからぶら下げられている鳥かごを見てギョッとした。
え?
え⁉
ええええええええ⁉
釣鐘型の鳥かごの中には、金色に光るモノが入っている。
それは、小さな人の形をしていて、二つの虹色に光る翅を生やしていて、さらっさらの長い金髪をした、妖精のようなモノだった。
……なんでここに⁉
わたしはその妖精を知っていた。
彼は、ハイライド・フォークス。
「ブルーメ」の九つの世界のうちの、「光の妖精の世界」の住人で、光の妖精の国の第三王子だ。
金色の髪に金色の瞳を持つ彼は、見た目は小さな妖精だが、人と同じサイズになることもできる。
そして、攻略対象の一人でもあった。
だが、おかしい。
おかしすぎる!
ハイライドが出てくるのは、ここではないはずだ。
まずハイライドルートが解放されるのはアレクサンダールートをクリアした後である。
ハイライドは、アグネスにかけられた眠りの魔法を解く鍵なのだ。
アレクサンダールートでは、城の地下の閉架書庫で仕入れた情報をもとに、ヒロインとアレクサンダー様は薬の材料を求めてノルンの森へ向かう。
ノルンの森は、ポルタリア国の東に広がる森の中に入り口があると言われている伝説の森だ。
運命を司る三人の女神たちが住んでいるウルズの泉がある言われる森で、女神に選ばれた人しかたどり着くことができないと言われている。
ノルンの森は、世界で唯一、他の八つの世界とつながることができる場所だとも言われていた。
ノルンの森は普通ではたどり着けないけれど、人間の世界を含めた九つの世界すべてがつながっていて、女神に選ばれたものがその場所にやってくるのだ。
アグネスの眠りの魔法を解く薬の材料には「光の妖精の羽の鱗粉」が必要だと知ったアレクサンダー様たちは、光の妖精を求めてノルンの森へ向かうのである。
そして、ハイライドと出会うのだが――そのハイライドが、なんで鳥かごに閉じ込められて市場で売られているの⁉
驚愕してハイライドを見つめていると、彼は不思議そうな顔でわたしの目をじっと見つめ返してきた。
しばらく彼と見つめあっていると、お兄様が「どうした?」と声をかける。
「そのカナリアが気に入ったのか?」
カナリア?
カナリアですって⁉
「お、お兄様! こ、この鳥かごの中には、カナリアが入っているんですか⁉」
「おや、お前はカナリアもわからないのかい? ここ数年前から貴族の間で流行している、可愛らしい声で鳴く鳥のことだよ」
いや、カナリアは知っているけど、わたしが聞きたいのはそう言うことじゃない!
だが、今の発言で理解した。お兄様には、ハイライドがカナリアに見えているのだ。
……どういうこと?
わたしは再びハイライドを見つめる。
すると、ハイライドは腰かけていた止まり木から立ち上がると、ぱたぱたと翅を動かして鳥かごの端まで飛んで来た。
「女、俺が見えるのか?」
このハイライド。見た目は女性と見まがうほど美しいのに、口は少々悪い。
「おや、美しい鳴き声だね」
そしてハイライドの声は、お兄様の耳にはただのカナリアのさえずりに聞こえるようだ。
よくわからないけど、市にいる他の人たちもハイライドにあまり関心を示していないことを考えると、他の人たちには、彼がカナリアに見えているのかしら?
「聞こえているのか? 女」
聞こえているけど、ここで返事をしたら、カナリアとおしゃべりをする変な女だって思われないかしら?
不安になったので、わたしは小さく頷くことで肯定した。
「そうか。俺が見えるのか。……よし、女、俺を買え」
なんですと⁉
「この狭い入れ物には、いささか飽きた」
いやいや、飽きる飽きないの問題でもないでしょうよ!
だが、ゲームファンの性なのか、鳥かごに閉じ込められているハイライドをこのまま見捨てるのはとても忍びない。
それに、彼はアグネスを目覚めさせるためのキーマンだ。
正直、アグネスを目覚めさせる方法をアレクサンダー様たちに伝えるべきか否かについては、まだ悩んでいる。
黙っておくことの罪悪感が日に日に膨れ上がっていくので、伝えてしまいたい気もするが、そうしたことでヒロインのアレクサンダー様ルートがなくなってしまうことへの不安があった。
ヒロインには、攻略対象の誰かとハッピーエンドを迎えてもらいたい。
そのためには、アレクサンダー様ルートを潰すわけには――
わたしはふとそこまで考えて、「ルート」という単語にハッとした。
……そうよ、どうして気が付かなかったのかしら?
ヒロインであるリコリスには、大勢の攻略対象が用意されている。
アレクサンダー様はその大勢いる攻略対象のうちの一人だ。
そしてヒロインは一人しかいないので、全部の攻略対象とハッピーエンドを迎えることはない。
……つまり、リコリスがアレクサンダー様を選ばない可能性がある。
そうなったら、アグネスはどうなるのだろう。
目覚めることなく、眠りの魔法にかけられたままなのだろうか。
さーっと血の気が引いていく。
……そんなのダメ! 絶対にダメ!
悪役令嬢であるわたしには、ゲーム通りに進めば破滅エンドが用意されている。
しかし、よく考えてみたら、リコリスに選ばれなかった攻略対象のルートに出てくる不幸な人たちには、リコリスの手によって救われない未来もあると言うことだ。
それは、悪役令嬢であるわたしと同じ「破滅エンド」であると言い換えても過言ではないのではなかろうか。
わたしはぐっと拳を握る。
わたしは破滅したくない。
でも、リコリスに選ばれなかった攻略対象ルートの、リコリスの手によって救われるはずの人たちが、救われずに終わるのも見たくない!
わたしは決めた。
アグネスを、救おう。
「お兄様、わたし、このカナリアがほしいです!」
そのためにはハイライドを確保しなければならない。
お兄様は一瞬嫌そうな顔をしたが、仕方なさそうにため息を吐く。
「マリア、動物を飼うものは命に対する責任を持たなければならない。お前がそのカナリアの命に責任を持てるというのであれば買ってあげるけれど、ちゃんとお世話をするのかい?」
わたしは大きく頷いた。
「もちろんです!」
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