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第一部 悪役令嬢未満、お兄様と結婚します!
デートと妖精 5
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わたしがぴったりとお兄様にくっついていると、お兄様は「今日のマリアは甘えん坊だねえ」と大変ご満悦そうな顔でおっしゃった。
……甘えたいんじゃなくて、誘拐が怖いんですお兄様!
とは言えない。
だが、お兄様とはぐれたら最後、わたしは危ないおじさんたちに捕まって身ぐるみをはがされた挙句にきっとどこかに売り飛ばされてしまう気がする。大げさかもしれないが、わたしは悪役令嬢マリア・アラトルソワというポジションなのだ。いつ何が起こるかわからないので警戒しておくに越したことはない。
というか、こんなに高い宝石を、寮の部屋に置いておいてもいいのだろうか。って、今更か。クローゼットを開ければ、マリアの宝石コレクションがあるものね。前世の記憶を取り戻してからほとんど使ってないけど、すでに高いものをたくさん持ち込んでいたわ。
「そう言えば、まだ行っていなかったが、今日のお前はずいぶんの可愛らしい格好だね。お前らしくないともいえるが、悪くはないよ」
そうでしょうね。マリアの選ぶ服はどれも派手で露出高めだったから、清楚系の服なんて持っていなかった。ついでに、このワンピースは貴族令嬢の着る服というよりは、飾り気が少なくシンプルな作りで、どちらかと言えば庶民寄りだ。これまでのマリアの趣味からは大いに外れている。
「たまにはこういうのもいいでしょう?」
「ああ。私は嫌いではないよ」
よし! お兄様の言質も取ったので、今後は「お兄様の好みに合わせました」という体でこのスタイルを貫こう! 清楚で可愛い優しい先輩を目指してがんばるのだ。そして、卒業前に何としても結婚相手を探して、お兄様との契約結婚を終了させるのである!
「さて、私の買い物は終わったが、マリアはどこに行きたい?」
……お兄様は「私の買い物」というけど、「わたしの(マリアの)」買い物でしたよね。だって全部わたしのだもん。
お昼にはまだ早い時間なので、わたしはどうしようかと悩む。
高そうなお店には行きたくない。だって、お兄様がこれ以上わたしのものを買ったら大変だもん。
うーんうーんと考えていたわたしの頭に、ぴこんと名案が浮かぶ。
「お兄様、わたしは最近、プチプラに目覚めたのです」
「プチプラ? 何だいそれは?」
「安価で、でも良質なものですわ! わたしは安くていいものを買いたいんです」
「また、公爵令嬢には似つかわしくない思考だね」
うぐっ!
確かにその通りかもしれないが、これ以上目玉が飛び出るような金額のもの買い与えられては、わたしは心臓マヒを起こしそうだ。ここは強引に行こう。
「お兄様、世の中、高ければいいというものではないのですわ!」
「確かにお前の言う鳥ではあるが、お前が思いつかなさそうな発想だ。いったい誰に影響された? ルーカス殿下やアレクサンダーではないだろう。お前が熱を上げていた中でそんなことを言いそうなのは……ふむ、お前と同じクラスのヴォルフラム・オルヒデーエあたりか? 庶民向けの商店も展開しているオルヒデーエ伯爵の息子ならば言いそうだな」
……いえ、影響というのならば前世の記憶の影響です。というかお兄様、「マリア」が追いかけまわしていた男性情報をよくご存じのようで。
わたしは心の中で答えつつ「ほほほほほ」と笑う。
「お兄様ったら、乙女の秘密を暴くものではないですわ」
「ふぅん、まあいいだろう。お前のお遊びに付き合ってやるくらいの度量は、おにいちゃまは持ち合わせているよ。……ふむ、安くていいものか。そう言えば、今日は王都の南の広場で市が開かれていたな。少し歩くが、行ってみるか」
「市場! いいですね! きっと素敵な掘り出し物が――」
ああああああああ‼
わたしは自分の姿を見下ろして、さーっと青ざめた。
……ああっ、そうだったよ! 今のわたしは歩く金塊みたいなものだったわ‼ こんな高価なものをぶら下げて人通りの多い市に行ったりしたらまずいでしょう‼
「お、おおお、お兄様、やっぱり市はやめましょう。ほら、お兄様にせっかく買ってもらった大切なアクセサリーが、盗まれたりしたら大変ですもの!」
「おにいちゃまが買ったアクセサリーがそんなに気に入ったのか? お前にしては可愛らしいことを言うね。安心しなさい。盗難防止の魔法をかけておいてあげるよ」
……さすがお兄様、さらっとそんな高度な魔法をお使いになるのですね。
アクセサリーに盗難防止の魔法をかけてもらっても、わたしごと誘拐されたら意味がない気がしますけど、もういいです。お兄様に張り付いていたらきっと安全だと、そう信じることにします。
それに、高いお店に連れていかれるより、市場を歩いた方が楽しいもんね!
マリアの記憶を探る限り市場には一度も行ったことがないし、どんな場所なのか楽しみでもある。
「ああいうところには、たまに面白いものが置かれているんだよ。古い魔道具とか、怪しげな薬とかね」
何か面白い掘り出し物が見つかるといいねとお兄様は言ったけれど、お兄様のお眼鏡にかなう「面白い掘り出し物」は、なんだか危険な臭いがプンプンしますよ。
なので、わたしは心の中でお祈りしておく。
……お兄様が興味を引くようなものが売られていませんように!
……甘えたいんじゃなくて、誘拐が怖いんですお兄様!
とは言えない。
だが、お兄様とはぐれたら最後、わたしは危ないおじさんたちに捕まって身ぐるみをはがされた挙句にきっとどこかに売り飛ばされてしまう気がする。大げさかもしれないが、わたしは悪役令嬢マリア・アラトルソワというポジションなのだ。いつ何が起こるかわからないので警戒しておくに越したことはない。
というか、こんなに高い宝石を、寮の部屋に置いておいてもいいのだろうか。って、今更か。クローゼットを開ければ、マリアの宝石コレクションがあるものね。前世の記憶を取り戻してからほとんど使ってないけど、すでに高いものをたくさん持ち込んでいたわ。
「そう言えば、まだ行っていなかったが、今日のお前はずいぶんの可愛らしい格好だね。お前らしくないともいえるが、悪くはないよ」
そうでしょうね。マリアの選ぶ服はどれも派手で露出高めだったから、清楚系の服なんて持っていなかった。ついでに、このワンピースは貴族令嬢の着る服というよりは、飾り気が少なくシンプルな作りで、どちらかと言えば庶民寄りだ。これまでのマリアの趣味からは大いに外れている。
「たまにはこういうのもいいでしょう?」
「ああ。私は嫌いではないよ」
よし! お兄様の言質も取ったので、今後は「お兄様の好みに合わせました」という体でこのスタイルを貫こう! 清楚で可愛い優しい先輩を目指してがんばるのだ。そして、卒業前に何としても結婚相手を探して、お兄様との契約結婚を終了させるのである!
「さて、私の買い物は終わったが、マリアはどこに行きたい?」
……お兄様は「私の買い物」というけど、「わたしの(マリアの)」買い物でしたよね。だって全部わたしのだもん。
お昼にはまだ早い時間なので、わたしはどうしようかと悩む。
高そうなお店には行きたくない。だって、お兄様がこれ以上わたしのものを買ったら大変だもん。
うーんうーんと考えていたわたしの頭に、ぴこんと名案が浮かぶ。
「お兄様、わたしは最近、プチプラに目覚めたのです」
「プチプラ? 何だいそれは?」
「安価で、でも良質なものですわ! わたしは安くていいものを買いたいんです」
「また、公爵令嬢には似つかわしくない思考だね」
うぐっ!
確かにその通りかもしれないが、これ以上目玉が飛び出るような金額のもの買い与えられては、わたしは心臓マヒを起こしそうだ。ここは強引に行こう。
「お兄様、世の中、高ければいいというものではないのですわ!」
「確かにお前の言う鳥ではあるが、お前が思いつかなさそうな発想だ。いったい誰に影響された? ルーカス殿下やアレクサンダーではないだろう。お前が熱を上げていた中でそんなことを言いそうなのは……ふむ、お前と同じクラスのヴォルフラム・オルヒデーエあたりか? 庶民向けの商店も展開しているオルヒデーエ伯爵の息子ならば言いそうだな」
……いえ、影響というのならば前世の記憶の影響です。というかお兄様、「マリア」が追いかけまわしていた男性情報をよくご存じのようで。
わたしは心の中で答えつつ「ほほほほほ」と笑う。
「お兄様ったら、乙女の秘密を暴くものではないですわ」
「ふぅん、まあいいだろう。お前のお遊びに付き合ってやるくらいの度量は、おにいちゃまは持ち合わせているよ。……ふむ、安くていいものか。そう言えば、今日は王都の南の広場で市が開かれていたな。少し歩くが、行ってみるか」
「市場! いいですね! きっと素敵な掘り出し物が――」
ああああああああ‼
わたしは自分の姿を見下ろして、さーっと青ざめた。
……ああっ、そうだったよ! 今のわたしは歩く金塊みたいなものだったわ‼ こんな高価なものをぶら下げて人通りの多い市に行ったりしたらまずいでしょう‼
「お、おおお、お兄様、やっぱり市はやめましょう。ほら、お兄様にせっかく買ってもらった大切なアクセサリーが、盗まれたりしたら大変ですもの!」
「おにいちゃまが買ったアクセサリーがそんなに気に入ったのか? お前にしては可愛らしいことを言うね。安心しなさい。盗難防止の魔法をかけておいてあげるよ」
……さすがお兄様、さらっとそんな高度な魔法をお使いになるのですね。
アクセサリーに盗難防止の魔法をかけてもらっても、わたしごと誘拐されたら意味がない気がしますけど、もういいです。お兄様に張り付いていたらきっと安全だと、そう信じることにします。
それに、高いお店に連れていかれるより、市場を歩いた方が楽しいもんね!
マリアの記憶を探る限り市場には一度も行ったことがないし、どんな場所なのか楽しみでもある。
「ああいうところには、たまに面白いものが置かれているんだよ。古い魔道具とか、怪しげな薬とかね」
何か面白い掘り出し物が見つかるといいねとお兄様は言ったけれど、お兄様のお眼鏡にかなう「面白い掘り出し物」は、なんだか危険な臭いがプンプンしますよ。
なので、わたしは心の中でお祈りしておく。
……お兄様が興味を引くようなものが売られていませんように!
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